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ストライトの侵攻がデロメア・テクニカに届く頃、『国際連合』が動き始めていた。
アイン・スタンスラインはオースリベラリアの内政をリノアン・デュランに任せ、オースリベラリアの精鋭部隊を従えてメルッショルドに入国し、メルッショルドから大型の船を用いてマタリカ大陸へと渡っていた。
アインはロマリア大将軍の考えや、アルテリアの国民感情を良く知っていたから、両国がいつストライトに攻め込んでもおかしくない状況であることがわかっていた。
6年前の芸術紛争では、アインの立ち回りもあってマタリカ大陸全土が戦争の炎に包まれることはなかった。あのとき守った均衡を簡単に崩してはならない。
アインはロマリアの大将軍とアルテリアの宰相に手紙を送り、今は戦争を踏みとどまるよう説得した。戦争を行う場合には、ロマリアやアルテリアとしてではなく、国際連合として戦争を行なうべきだと彼は考えていた。
例えばロマリアやアルテリアがストライトを滅ぼせば、ストライトの土地を巡る争いが両国の間で勃発するかもしれない。
土地を追われたストライト人は、ロマリアやアルテリアの国内に巣食い、憎しみを増大させながら復讐の機会を伺うかもしれない。それは世界の火種を増大することにつながる。
アインはストライトという国も、世界の個性の一つと考えていた。だから国際連合としてストライトと戦い、ストライトが復興するまでを管理すべきと考えたのだ。
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2週間後、アインとオースリベラリアの軍がメルッショルドとロマリアの国境に到着した。
彼はメルッショルド、ロマリア、アルテリアからも軍を募り、ほんの1週間で国際連合軍は10万を超えた。メルッショルドの資金力と、オースリベラリアの誇る最強の復元者部隊、ロマリアの持つ最強のサムライ達の連合軍が、ストライトとの戦争を行なうため一堂に会していた。
地の利のない国での戦争はストライト人に1日の長があるかと思われたが、オースリベラリアの軍事大使ライロックにかかれば、そんな不利を引っくり返すことは容易だった。
国際連合軍はストライトを蹂躙し、ストライトのデロメア・テクニカへの侵攻も収束した。
ストライトの首都が陥落するまでそう長い時間はかからなかった。ストライトには、国のために命を捨てようという愛国心のある兵士がいなかったのだ。
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ストライト首都の1番高いビルの屋上で、国内を見渡しながらアインは呟く。
「国際連合が発足した世界でハーネスラインに味方すれば、こうなることは予測できるはずなのに、どうしてストライトはこんな凶行に出たのかな」
アインの呟きに答えたのはライロックだ。
「彼らは予測ができなかったんだよ、アイン。答えはどうやらストライトの歴史にあるようだ。ストライト人は元々非常に頭の良い民族で、隣国とも上手く付き合いながら、国を繁栄させていた。
世界で最初に国民選挙を導入したのもストライトだ。しかし国民選挙がストライトを崩壊させた。これは悲しいことだが、民主主義の敗北だ」
ライロックの言葉にアインは目を丸くした。
「制度開始直後は教養のある国民が立候補者をきちんと評価し、有能な政治家を選出していたが、徐々に教養のある国民が減少していった。
つまりは教養と知識のある人々は、男女ともに仕事に打ち込み、結婚・出産が高齢化していった。彼らは自分の養える人数を正確に把握していたから、育てる子どもの数は多くても2人だった。自由を謳歌し、子どもを生むことの金銭的、時間的デメリットを避けて、未婚を貫いたものも多かった。それに対して教養のない人々は、早い年齢で無計画に子どもをつくり、1家族で5人も6人も子どもを育てていった」
アインは絶望の未来が想像した。つらいのは、ライロックの話がアインの想像通りだったことだ。
「最終的にどうなったかと言えば、教養のない人々の割合が、教養のある人々の割合を圧倒的に超えてしまい、政治家選出の評価が機能しなくなった。無能な政治家・パフォーマンスが上手いだけの政治家が選出され、国家は崩壊した」
ライロックが語ったのは民主主義の行末だった。
「そっか。デロメアが選民選挙を取り入れているのは、隣国のそういった事情もあるのかもしれないな。オースリベラリアも、国王を国民選挙で選出するように変えてしまったから、ゆくゆくはストライトと同じ道を歩むのだろうか」
アインは瞳を閉じて、オースリベラリアの未来へ想いを馳せた。
「なあライロック。いずれにしても俺達は、ストライトのような先駆者の経験を活かさなければいけないな。例えばストライト人の経験を、教訓として語り継ぐことが役立つかもしれない。つまりは具体的な経験に基づいて、『一体何がどうなったのか』『何故そうなったのか』『原因はどこにあるのか』を深掘りして考え、Aという場面ではBすればよいという法則に昇華させ、次の機会に実践していくことが重要だ。ストライトの失敗を発生させないためには、どういった施策が必要か検討していく必要がある」
ライロックも同意する。
「国家の運営で迷ったときには、歴史を紐解けばいい。我々が国家の問題点の改善に取り組む時、解決策として思いつくことは、過去の国々が既に実践している可能性が高い。4248年、いや、それ以上の人類の歴史を無駄にしてはならない。歴史書を読むことだな、アイン」
「本を読むのは好きだから、今後も考え続けるよ。あの素晴らしい国、オースリベラリアを、末永く維持していく仕組みを」
「少なくともお前やリノアンが国王のうちは問題ないと思えるが、それはお前達のカリスマ性に頼っているだけであり、長くは続かない。国王の育成システムが必要なのかもしれないな」
彼らはオースリベラリアの今後についてひと通り話をした後,ハーネスラインとどう折り合いを付けるか考え、アインは1つのアイデアを提案した。ライロックはそのアイデアに耳を疑った。
飛び出した眼球が、ライロックのメガネを貫通するのではないかと思ったほどだ。




