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*** 34 ***

「随分と多人数じゃないか」

 エル・クリスタニアの漁港で釣りをしていたグインは、来訪者を見て言った。


「今日はいろいろな人を紹介したくて。リベリアの学長の椅子はどうですか?」


 アイン・スタンスラインの隣には、リングリット、サイトウ、ライロックが立っていた。


 サイトウは釣りというものを初めて見たらしく、釣り竿や魚の餌に興味津々だった。グインは煙草に火をつけて大きく吸うと、ふうと吐いた。


「国王よりはよっぽど楽さ。どうする、釣り竿は2本ある」

「じゃあサイトウに遊んでいてもらおう。その間に彼女を紹介します」

「リングリット・ラインカーネーションです。彼とお付き合いをさせていただいています」

「おいアイン、俺はお前の親父じゃないぞ」

「グインさんは人生の師ですから。紹介したいんです。ようやく彼女をこちらに呼べることになったんですから」


 彼らが交際し始めてから6年が経っていた。とはいえ一緒に過ごした時間はそこまで長くはない。


 アインがオースティアへ戻ってグインの元で政治の修行を始めてからは、リングリットと手紙でしかやり取りができなかった。


 リングリットもサイドランドに戻って、父にアインのことを話した時、『彼は凄く頭のいい男性だから、騙される前に別れた方がいい』と言われて会うことを許されず、隠れて手紙を書いていた。


 転機は近年、オースリベラリアの建国が落ち着き、アインがサイドランドへ挨拶に訪れ、公卿の面々と意気投合したことだ。

 彼らはアインの作ったカクテルを飲み交わし、アインの功績や世界の将来について語り合い、最後にはサイドランドの国王にならないかと誘われるほどだった。


 そうしてようやく彼は、オースリベラリアにリングリットを連れていく承諾をとることができた。リングリットの出立の日、彼女の父は涙を流しながら娘へ手紙を渡し、娘は船で手紙を読んで涙を流した。

 アインはそんな彼女を抱きしめてキスした。


「お前達の惚気話は後でゆっくり聞かせてもらう」

 グインはニッと笑った。

「あー恥ずかしい。リングリット、何笑ってんだ。次がサイトウとライロック。サイトウはロマリアのサムライで、ロマリアの武道大会を立ち上げた人物です。ライロックはリベラリアの軍部大使で俺の恩人です。実はグインさんに毒薬を渡された頃、たまたまエイリオでお会いしました」

「リベラリアの天才ライロック・マディンの名は俺も知っている。まさかこうして話をできるとは、何という因果だ。オースリベラリアの将来は明るいな」


 それは言霊に近かった。なぜかライロックもこのグインという人物に期待をかけられたことを好ましく感じていた。


 アインもライロックの様子をみて笑顔になる。自分の師匠が天才から認められたのだ。


「グインさんから見て、オースリベラリアはどうですか?」

「KPTに基づいて分析してみればどうだ」

「なるほど。振り返りですね」


 アインはグインの手記帳を借りると、空白のページに下記のような図を書いた。

Keep

・戦勝国オースティアが主導しない

・リノアンの献身的な態度Try

・リベラリア人向けの教育拡充

・学園都市の再編(州の形成)

・軍事についてはオースティア軍主導で紋章術師のみ国防軍へ合併(クーデターの芽を摘むため)

・新生 国王選挙の実施(4年毎)

Problem

・リベラリア人の教育水準の低さ

・元リベラリア軍と元オースティア軍が溶け合っていない

・学園都市が増えすぎて閥徒過多


「オースリベラリアについて、継続すること(Keep)、問題点(Problem)、新たにやってみること(Try)の3つの視点で気づいたことを書き出しました。事後説明になりますが、KPTは変えるべきことと、変えるべきでないことを明らかにして、仕事をブラッシュアップしていく手法です」

「アイン、問題点にこの文面を付け足すべきじゃないか」


 グインは前述の図にこう書き込んだ。


『アイン・スタンスラインが内政に出てこない』


「これは大きな問題だ。確かにリノアンに実権を与えたことで、リベラリア人の疎外感の緩和と協調を促すことができた。しかしオースティアの人々はお前と共に、国を成長させたかったはずだ。それを叶えてやらなければ」


 グインはタバコを大きく吸うと、ふうと白い煙を吐いた。


「やはりオースティアの国民感情としてはリノアンを認められませんか」

 グインの書いた文字は、ライロックにとっても懸念であった。だがグインはライロックの懸念を払うよう努めた。


「オースティアの目線で物事を語ったな。気を悪くしないでくれ。俺自身はリノアン・デュランを高く評価している。彼女はオースリベラリアにとって最良の王だ」

 グインの言葉は飾り気がなかった。

 ライロックも安心する。


「だがオースティアの人々の期待が、俺に懸念を抱かせるのだ」


 グインは語った。

「アイン、お前はマスメディアを味方に付け、お前の成果は新聞を通して人々に伝達されている。お前が立ち上げた『国際連合』は世界にとっての功績で、隣国からの評価も高い。リノアンの後ろでお前が指示を出しているという噂も絶えない。それがオースティアの人々の期待だからだ」


 グインはその場にいる全員を見回す。

 一丸となってこの問題に取り組んでもらいたいという意思表示だった。


「国民の中で、アイン・スタンスラインは、最良の国王という概念になりつつある。俺の懸念は概念が実態を越えてしまうことだ。そうなれば、小さなミスが支持率の低下を導く。なぜなら概念は人々の理想が生み出した幻であり、失敗などしない存在だからだ。だが、お前だって神ではない。時には誤りもするだろう。それなら人々に実態を見せた方が将来的に面倒は少ない。国政に顔を出すことだ」


 アインはグインのアドバイスに深く頷いた。

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