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*** 33 ***

 首都リベリアが陥落するまで、そう長い時間はかからなかった。


 軍部大使ガレスが命を落とし、ベアトリスもまた亡くなった。ライロックが6万の兵と共にオースティアへ降伏したことも報告された。リベラリアは軍部大使を全て失ったことになる。


 4247年10月。戦争が始まってから23ヶ月が経った。戦いは一方的な展開を見せ始めた。オースティアから銃剣を持った兵士や、組織化された復元者がリベラリアの国内深くまで入り込み、兵站施設や石橋を破壊して、補給を絶ちはじめたのだ。


「誰でもね、腹は減るものだよ」


 アインは戦争の終盤、司令部でカレーを食べながらそれしか言わなかった。


 リベラリア首都リベリアの王宮では、リベラリア旧提督の率いる紋章部隊が最後まで抵抗したが、サイトウと6人のサムライによって反撃は絶たれた。


 このときリノアンは、王宮の片隅で1人震えている。

 4241年11月、旧提督の命令をうけた黒魔道士ベアトリスが、リノアンに『不安を助長し、誰かに依存しなければ生きられなくする』黒魔術ブレインストームをかけた。リノアンはそれからの6年間、自立心を失い、旧提督の傀儡となることを強要された。

 旧提督を失った今、彼女は生きるための支えをなくしていた。彼女は玉座の間に、頭を抱えてうずくまっていた。


 そんな彼女を助け出したのは、リノアンが幼い頃、家庭教師として彼女を近くで支えていた男、ライロック・マディンだ。彼はリノアンを見つけると優しく抱きしめ、慈しむ瞳で彼女を見た。


 リノアンの顔色は悪い。ライロックに同行していたアインが、リノアンの額に手を当てた。


「だいぶ弱っているな。ファシス・ラビル、何とかできるか?」

「やってみよう」


 王宮の壁を破壊し、部屋に突入した龍は、リノアンの症状を解析する。


「マナ次元と4次元世界の繋がりが薄れている。それが自立心の減衰をもたらしているようだ。鬱という症状に近いな。だが原因が分かれば、解決は容易だ」


 ファシス・ラビルはマナ次元のリノアンを4次元世界に近づける手助けをした。

 詳細はわからないが、彼女の顔色は急速に回復し、ゆっくりと目を覚ました。


 瞳を開けた彼女は、安心したように、目の前の男性の名前を呼んだ。


「ライロック。ああっ、あなたが側にいてくれて、良かった。凄く怖い夢を見たの。私が、私でなくなる夢。私が、リベラリアの人たちに酷いことをする夢」

「リノアン、もう話さなくていい。俺が側にいる」


 ライロックは彼女を強く抱きしめた。

 アインは龍と目を合わせ、笑った。


 この日、オースティア国王アイン・スタンスラインは、リベラリアに合邦を提案し、リベラリア提督リノアン・デュランは、合邦を受け入れた。


***

 4247年10月20日。オースティアとリベラリアは、国名をオースリベラリアと改め、新たな歴史を歩み始めた。


 アインは国王を継続しながらも内政には出ず、リノアンをオースリベラリアの女王として迎え入れ、人事権と決定権を与えることとした。


 敗戦国の提督が女王として内政の実権を握ることに対し、元オースティア人と元リベラリア人の間で、口論が起きることもあった。当のリノアンですら、アインこそ国民に望まれていて、自分はこの立場にいるべきでないと訴えた。


 それでもアインは、リノアンを女王として支持し続けた。バツが悪そうに玉座へ座るリノアンに、アインはこんな言葉を話した。


「リノアン。オースリベラリアは異質な2つの存在が混ざり合ったチームなんだよ。このチームは、1人ひとり違った考え方や文化を持っていて、当初は喧嘩もするだろう。けれどそれでいいんだ」

 アインの言葉はあたたかい。


「俺達はお互いの人となりを知り、関係性を築いていく必要がある。はじめは感情や考え方がぶつかり合って対立するかもしれない。その時期には俺達が、リベラリアとオースティアの国民を意図的につなげてあげる必要があるだろう。けれど次第に共通の規範や役割分担ができあがっていき、いずれは両国民が自発的にコミュニケーションを取れる時期が来る。そのときオースリベラリアは、対話を通じて問題解決と成長ができる黄金期を迎えるはずだ」


「そんな美しい未来を描く権利が私に?」

 リノアンは自信なさげに問う。その背を押したのはライロックだ。

「リノアンにはその権利があるさ」


 アインがコクリと頷く。

「オースティアの国民はまだ、あなたの素晴らしさを知らない。俺は、あなたが誰よりも国民のことを考えてあげられる女王だと信じている。あなたのことを知っていけば、人々もきっと応援したくなる。あなたはそれくらい魅力的な女性だよ。だから俺はあなたに賭けられる」


 アインは、リノアンが洗脳されていた頃の記憶を鮮明に覚えていること、当時の自分へ強い後悔の念を抱いていることを理解していた。


 彼女は洗脳されていた時期に起こした凶行を、2度と起こすことは無いだろう。起こそうとしても、心の奥底が凶行を拒絶するはずだ。彼女は国民を泣かせたことを誰よりも後悔している。

 だから『誰よりも国民のことを考えてあげられる』のだと、アインは確信していた。


 アインの見立て通り、リノアンはオースリベラリアのために献身的に働き,国民の支持を得ていった。わずか4ヶ月で、オースリベラリアの政治は安定し、国家は歴史上類をみない勢いで栄えていく。

 アインは、それがリノアンの功績だと国民に広く報じた。この時、リノアンはオースリベラリアの王となった。


***

 アインも忙しい。茶会や武芸に打ち込みながら世界を飛び回っている。剣の師であるサイトウは、「仕事半分、趣味半分ですな」と笑った。アインは「リーダーは奥ゆきがないとね。だから遊びも必要なのさ」とサイトウに茶器を差し出した。

 アインはこの時期、外交官として世界中を飛び回り、『国際連合』の立ち上げに注力していた。


 彼の提唱する『国際連合』は、オースティア、リベラリアの出身だけではなく、メルッショルドやデロメア・テクニカ、ロマリアやアルテリア出身の人材を集めた。

 この世にないものを創造しようとする時、多くの人間はその価値に気づくことができない。特に権威主義、規律主義、悲観主義に染まった官僚的性格の人間はこれを好まない。だから創造的業務において、極めて優秀な人材が集まった。

 アインの設立したこの組織は、まさしく異質な存在の混ざり合ったチームだった。


 そこでは、生きてきた環境の違いが、価値観の違いとなって表れてきていた。例えば仕事への取り組み方や、時間に対する考え方1つ取ってもそうだ。

 メルッショルド人は働いている時間数さえ合っていれば、何時から働いてもよいと考える。ロマリア人は定刻に始めて定時で仕事を切り上げる。デロメア・テクニカ人は成果さえ出すことができれば働く時間数は考慮しない。など各国の特徴が出ていた。


 そんな多種多様の人々が互いの人となりをさらけ出し、関係性を築いていく過程は困難を極めた。

 だがアインは、混沌としたチームをひとつにまとめていく過程の問題解決を純粋に楽しんでいた。


「誰もが行きたい道を生き、互いに尊重し合う」

 後にアイン・スタンスラインの理念となる考えはこの過程の中で昇華されていく。

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