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ウセ、新しいお店に行く(ソフィと出会ってから10日後)

人のつながりとさりげない場所に潜んでいる気がします。

18:31 とある大通り



 仕事を終えたウセは、とぼとぼと夜の街を歩いていた。今日は帰りが遅かった。その原因はウセが働く魔法の道具を売る店が11時に開店したからである。結果的に、18時までお店を開いておこうということになったのである。


 もともと、わりと営業時間など適当なので大きな問題はなく。店長の趣味で開いているようなものである。


 基本、時間による換算でなく、行った仕事に対して報酬が払われる仕組みになっている。なので、働く時間も適当で休みも必要な時にとれるようになっていた。


 さらに、ウセは王様から一定の支援を受けているのでお金には困っていなかった。一応、働いて自立して遊ぶだけのお金も十分にあった。


 新しい物を探すことが好きなウセにとって、自由に使えるお金がたくさんあるということは幸せなことだった。


 ポケットに入ったお金を自由に使うことができ、ウセは今まさにそのお金の使い道を考えていた。


 現在の時刻は18:32。さまざまな飲食店が賑わう時間と言ってよかった。現在、アンナとエルはいない。2人とも昨日届いた恋愛小説を読むため先に帰っていた。


 ウセはすでに到着とともに、約4時間ほど読み終わっていたのでアンナとエルとは別行動であった。


 ウセは、周囲を見ながら何か気になるお店はないかと探して街を歩く。石畳の道はウセの靴底からも硬い感触が感じられた。


 ウセの履いている靴は、故郷のものである。茶色を中心に先細りしてないタイプのものである。靴紐で歩きやすさを重視しているが、見た目はおしゃれでオフィスカジュアルで履く靴としても使えるものとなっていた。


 街の歩く人たちは、冒険者や街で仕事を終えた人たちなどさまざまだった。また、女性が夜の街を歩くことができることから治安の良さがうかがえる。


 ウセは大通りから外れて、脇道に入る。こちらも大通りと同じように人が多い。ウセはふらふらと周辺を見回すと新しい店があることに気がつく。


「・・・・・・」


 看板は、フォークとナイフが描かれて食事がとれることがわかる。メニューはないのかと思ったが見当たらない。ちらりと店のほうを見るが中はきれいだった。


 看板の新しさからして、かなり新しく開店した店であるのだろうとウセは推測した。


 ウセは、何のお店だろうと思った。店の名前も何の食事が出てくるかもわからない。ただ、心の中には好奇心で満たされおり、この店をやめるという選択が彼の心の中にはなかった。


 昔のウセなら手持ちのお金が限られていたので入ることはなかった。しかし、現在はお金に困らない生活である。ウセは躊躇することなく店に入った。


 店の中に入ると、亜麻色の髪の男がたっていた。髪は短く切られており、清潔な印象を与える。服装も茶色の半袖のワイシャツにズボンを着ており、上から紺色のエプロンを着けていた。

 また、鍛え上げられた腕には戦いの傷跡が見られ印象的だった。


 男はウセがお店に入ったことに気がつかずに料理をしていた。その手つきは鮮やかで無駄のない動きだった。


 ウセから見ても、普段から料理をしている人がうかがえた。


「すみません、1人なのですが」


 ウセは、男に話しかける。


 男はウセの声に気がついて、爽やかな笑みを浮かべた。


「いらっしゃいませ。お1人ですね。好きな席にどうぞ」


 男はテノールで、聞いていて心地よい声でウセに言う。


 ウセは、ああ自分とは違う世界に生きてきた人だと理解した。苦労はしたが、楽しんで生きてきた人だと思った。


 実際、ウセの推論は当たっていた。この男は、苦労や苦悩はあっても乗り越えられる環境を持っていた。この爽やかな笑みと恵まれた外見に加えて、人に好印象を与える性格は彼のもつ才とよかった。


 だが、彼のすごさはその才を活かす努力を欠かさないことであった。


「・・・・・・」


 ウセは、ハイライトのない眼で椅子に座る。彼も身長177cmと見た目もそこまでひどい部類の人でない。


 しかし、彼のしぐさや独自の笑みが悪い印象を人に与えるのにに加えて、不安や悩みによる心の不安定が原因で、前の世界での彼は必要最低限度の人との関わりしかしていなかった。


 だが、彼の境遇を知る者はここにいない。ウセも彼のことをとやかく言う理由もない。


 ウセは、静かに今日食べるご飯を選ぶことにする。ウセは周囲を見回してメニューを探す。


 店内はきれいに清掃されており、店主の趣向が表れていた。テーブルや座っている椅子などもシンプルなもので無駄がそぎ落とされていた。


 そして、肝心のメニューは壁に木札が立てかけられて一目でわかるようになっていた。文字と絵の両方が書かれており、文字が読めない人も注文できるようになっていた。


 この王国では、識字率は高い。しかし、異国から来た人が文字を読めるとはかぎらない。店主は、そのことを考えた計らいだった。


 ウセは、しばらくメニューを見て“旅人の食事”という物を頼むことにした。絵では、1つの皿にいろんな物が入っていた。一見するとスープだが、中にはいろいろと具材が入っているように見えた。


「旅人の食事をお願いします」


 ウセが注文をすると、男はやや驚いた。でも、それは表情に出さずに

「わかりました」

と返事をする。


 男は、ウセが文字を読めることに驚いたことであった。なぜなら、この辺りでは見かけない異国の顔立ちと服装だからである。


 しかし、男はウセのことを詮索することなく料理を作り始める。ただ、作るといっても難しい作業はほとんどない。


 事前に作ったスープを食器によそうだけである。数分もせずにウセの前に料理が運ばれる。


「はい、おまちどうさま」


 料理が置かれるとよい匂いがウセを楽しませた。


「あ……すみませんが、水もお願いします」


 ウセは水の注文を忘れていたのでお願いをする。


「わかりました」


 男は返事をすると、1分も待たずに、氷も入ってない水が入ったグラスがウセの前に置く。


 ウセは一通り食べる準備ができたら、両手を合わせて

「ただきます」

と言ってスプーンを持つ。


「……」


 しかし、ウセはすぐに食べようとしない。なぜなら、熱くて食べられないからである。しばらく、ウセは料理を確認する。


 旅人の食事という名前だが、見た目はスープのようである。見た目は赤い。さらに、ジャガイモやレッドキドニーに加えて、大豆が確認できる。


 ウセはスプーンを入れて、スープの中に入っているものを詳細に確認する。丸麦が入っていた。さらにじっくり煮込んだオニオンと大豆が入っていた。あと色で隠れていてわかりにくかったがニンジンも入っていた。


 ミネストローネをウセは思い浮かべた。実際に1口食べてトマトベースのスープだった。肉類は入っていないのか、あっさりと食べられる。また、丸麦を使った麦ごはんが腹持ちを考えて作られていなとウセは思った。


 スープであることもあって、体が温まるので夜の寒い時間帯には体に染み渡るような幸せが広がりそうだった。


 ウセは静かにスープを丁寧に食べていく。時折、水を飲んで口の中や体を冷やしていく。彼の食べる速度は決して早くないが、確実に料理を食べていく。


 30分以上かけ、ウセは料理をきれいに食べ終える。


「……ごちそうまでした」


 ウセが食べ終えて、しばらくは動かずにゆっくりする。お腹がいっぱいですぐに動く気になれなかったのである。


 残った水を少しずつ飲み、ゆっくりと時間を過ごす。これが彼の食事だった。1人で寂しいが、誰にも邪魔されずに自由な食事だった。


「……会計をお願いします」


 歩くことが可能になると、ウセは立ち上がって男に話しかける。


  男はウセに支払うお金を伝える。


 ウセはポケットから聞いたお金を男に渡した。


「ごちそうさまです」


 ウセはそう言って、足早に店から立ち去ろうとする。


 だが、ウセは立ち止まる。


「よぉ、アラン。遊びにきたぞー」


「……」


 ウセに年齢を聞いてきた冒険者がドアを開けてやってきた。


「ん、ウセじゃねぇか。どうしたんだ?」


「ご飯を食べていました」


「……ん、そうか。それより、アラン。お店を開いたんだな、さっそく食べにきたぞー」


「……ギャビン。よく来てくれた」


 アランと呼ばれた男と冒険者は抱き合って再開を喜び合う。


「……僕は失礼します」


「ん? ああ、じゃあな」


 冒険者は右手を上げてウセを見送った。それに対して、ウセはお辞儀をして立ち去る。


「……」


 ウセは店を出た後、ウセは空を見上げた。青い空は無くなり、紅い空もない。月が地上を見守っている紺色の夜空がそこにはあった。


 ウセは、空を見るのをやめる。そして、静かにゆっくりと確実に1歩と1歩と歩きだすのであった。

 


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