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 ウセ悪夢を見た日(ソフィお嬢様と出会ってから7日後)

すこし、遅れてしまいました。ごめんなさい。

 ウセの家 8:21


 静かな朝が訪れる。太陽が昇ると同時にウセは目を覚ます。時計を確認して、今日はお店が休みだからということで、まだ寝られる。ウセは再び眠る。


 穏やかな寝息を立てながら、自堕落な生活を堪能していた。前の世界ではありえない適当なお店であるが、ウセは特に気にしていない。


 自分の自由が確保できるならば、今の仕事に対して文句を言う必要もない。また、頑張った分だけお金がもらえる状態はとても喜ばしかった。


 彼は規則正しい寝息を立て寝る。そして、悪夢を見る。


「……」


 ウセは、死んだ目で目を覚ます。悪夢はひどいものだった。大量の虫に体を穴だらけにされる夢である。痛みも感じ、自分が意識のある状態で喰われるのである。さらに、目が覚めてほしいと願っても逃れることもなく、叫んでも誰も助けてくれないのである。


 ウセは、動きたくないと思った。もう少し寝たいと思った。けれど、夢の続きを見ると思うと寝ることができなかった。ウセはずるずると布団の中から出る。


 彼はベッドというので安心して寝られないのに布団を敷いて寝ていた。


「誰か来て……」


 ウセが助けを求めると、エルがあわてて部屋の中に入ってくる。


「大丈夫か、主人」


 エルが問いかけると、ウセは、少し目を動かしてエルを見ていた。その目はとても虚ろな目をしていた。


 エルは、悪夢を見たのかと理解をして、すぐにウセを抱きかかえて起こすと、布団の上に座らせた。


「ありがとう……」


 ハイライトのない目でウセはお礼を言う。


「気にするな。それより、何か飲むか」


「飲む。オレンジジュース」


「わかった。アンナ、オレンジジュースを頼む」


 やや大きな声でエルはアンナに声をかける。そして、しばらくするとオレンジジュースを持ってくるアンナ。ウセはそれを受け取るとストローでゆっくりと吸って飲み込む。


「……落ち着いたか」


「……うん」


 ウセは静かに布団をぎゅっとする。ここで寝たいのだが悪夢を見る可能性があってねることができない。かといって起きるだけの眠りができたかと聞かれた否である。布団から抜け出すことができずにいた。


「……ごめんなさい」


 ウセはアンナとエルに謝る。ウセは悪夢を見て、エルとアンナに頼るしかない自分を責めたことで出た言葉だった。


「気にするな、主人。これぐらいは、なんてことない」


「……」


 ウセは、エルのいうことを素直に信じることができなかった。彼の生きた環境が人を信じるという行動へ向かわせないからである。だが、怖いのである。アンナとエルに頼りすぎて、いつか怒られてしまうのではないかという恐怖が心の奥で迫っていた。


 彼は安心を渇望していた。前の世界と比べたら、ある程度の安心を得られた。しかし、それでも、簡単によくなるものでなかった。


 ウセは、無理やり目を閉じた。


「……寝る」


 ウセはそう言って、布団にくるまって眠りを求める。それに対して、アンナとエルは顔を見合わせた。


「静かにしてあげましょう」


 本当は、彼に寄り添ってあげたらいいのだろう。だけど、彼の不安を煽るだけなので静かにすることにした。


 そして、ウセは静かな眠りを望みながら寝る。けれど、うまく寝ることができずに1時間ほどで目が覚める。ウセは這い出るように布団から出てトイレへと行く。


 用を足し終えたウセは、手を洗って居間へ。アンナとエルの姿はなく、ウセは籠にある食べ物を確認する。


籠には、パンが入っていた。ウセは、それを手にソファに座る。もしゃもしゃとパンを食べる。動く気力が起きず、仕事をする気力が生まれずにいた。


ウセは、じっとパンを食べることができずテーブルの上に置いてある本を手に取って本を読み始める。1ページ、2ページと本を読み進めていく。


 誰もウセを止める者はいないので、食べることを忘れて本を読み進めていく。


 13:00になってアンナが居間にやってくる。


「ご主人様、ご飯はたべましたか」


 ウセは本を読むのをやめて、アンナの方を見る。アンナは優しいほほえみでウセを見ていた。それは安心させる雰囲気である。しかし、彼はあまり彼女の顔をほんの少しだけみてこう言う。


「まだ、食べてない。でも、お腹が空いた」


 ウセは子どものように答える。一見すると、なんてと思うかもしれない。しかし、ウセの精神状態は良くない状態だった。今日見た悪夢に加えて、昔の悪い記憶がフラッシュバッグで思い出しているからである。


 結果的に、話が一気に飛躍するが自分はここにいてはいけないのではという強迫観念に陥っていた。彼の自己評価が極端な理由もあるのだが、彼の性格を顧みない言葉と環境がこの状況を作ってしまったとしか言いようがなかった。


「……アンナ、材料はあるか」


 エルは頷いて、

「簡単なものを作るわ」

と言って台所へ行く。


 一方、ウセは死んだ目をしてぼんやりとしていた。


 アンナは、彼に頑張るようにと声をかけずに、彼の横に座った。そして、

「ゆっくり、休めばいい」

と言う。


「……うん」


 ウセは静かにうなずいた。


 そして、アンナとウセはしばらくのんびりしていると、いい香りがする。香の元はバターを使ってベーコンを焼いた物だった。


その匂いに、アンナは立ち上がり食事の準備をする。アンナはテーブルにフォークやナイフを並べる。一方、ウセの前には箸がおかれる。


この世界には、箸が存在しており箸で食べる文化があった。


アンナが食器を並べ折れると、ベーコンとポテト細切りにして焼いた物を持ってくる。塩と胡椒で味付けされたもので、シンプルだが味は保証できるものだった。さらに、アクセントとして、目玉焼きが添えられていた。


「たべていい?」


 ウセは体を起こして、エルに問いかける。


「ええ、食べていいわ」


 エルが優しくいうと、もぐもぐと食べ始めた。その様子を見て、アンナもエルも安心をする。


 彼は精神的に追い込まれるとご飯が食べられなくなるタイプだった。なので、ご飯をゆっくりでも食べられることは大切だった。


 彼には、大きな恩があるため2人は彼のことを心配しているのもある。


 しかし、ウセに対して、アンナとエルに恋愛的感情はない。どちらかと言うと、友人や親的な感じで見ていた。


 ウセは静かにご飯を食べる。ゆっくりであるが、着実にご飯を食べる。最後には、きれいななった皿だけが残った。


「……ありがとう」

 ウセは食べ終えるとそう言って、再びソファに座って本を静かに読み始めるのであった。


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