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 ソフィお嬢様、カフェで話をする(ウセと出会って7日後)

生きていると、いろんな価値観がありますよね

 ステリア王国 とあるパーティの拠点 10:24


 ステリア王国の王都はいくつかの区画がある。比較的裕福な人が住む場所には、予言された勇者“トレン”とその仲間が住まう館がある。むろん、トレンたちは自分たちの実力で得たお金を使って利用している拠点である。きれいな赤レンガで作られた外見は、シンプルでありながら美しさも兼ね備えたものであった。


 建物は3階建てとなっており、3階の一番上はトレンの書斎があった。書斎には、今までの冒険に関するものが壁に飾られていた。さらに本棚には、自分たちの旅の記録が納められていた。


 そして、その書斎に勇者トレンが椅子に座って1人の男と向かいあっていた。その様子はともて近寄りがたいものであり、不穏な雰囲気がただよっていた。


 予言された勇者“トレン”は、王国で活躍する勇者の1人だ。茶色の髪に青く美しい目は、多くの人を引き付ける美しさがあった。着ている服も実用性を重視た者を着ているが、かっこよく着こなしていた。


 このステリア王国で、美しさと実力を兼ねている勇者と言えた。また、彼と共にする仲間も実力を持った精鋭である。


 だが、彼は仲間の1人に戦力外通告をしていた。戦力外通告をされたのは、アランという男だった。見た目は勇者とは別方向でかっこいいと言われる部類で、トレンと並ぶと絵になるほどである。鍛えられた体はがっしりとしており、日々の努力が感じられる。着ている服は地味であるが、小さな刺繍がほどこされているなどとして、ある程度のこだわりが見て取れた。


「すまないが、パーティを抜けてほしい」


 勇者は、淡々とした言葉で伝える。


「……なぜなんだ」


 戦力外通告をされた男は、困惑気味に言う。それもそのはずだ、男は必死に勇者や勇者と一緒にいる仲間のために尽くしてきた。それがいきなりの戦力外通告である。


「いろんな努力は認める。だが、この先のことを考えると僕のパーティには似つかわしくないんだ」


「……おい、うそだろ」


 アランは、首を横に振った。それは自分の処遇を受け入れたくないからであった。アランは、大きな声でアランは大きな声を上げたくなるがぐっと堪える。リーダーである勇者のトレンが判断したことである。トレンが描くパーティに対して合わないのならば仕方がないことであった。


 一方、勇者のトレンは事務的な表情をしていた。さらに、勇者は淡々とした言葉でアランを追い詰めた。


「みんなも、この事に関して話した。みんな了承してくれた。できたら、穏便に話を進めたい。どうか、願いを聞きとげてくれないだろうか」


 そう言って、テーブルの上にお金の入った袋をアランの前に置く。どちゃりという音がした。中身がちらりと見え、決して安い額でないことが見て取れた。


「……どうしてだ。どうしてだ。納得できない」


 アランは、今までのことを思い出しながら言う。歯を食いしばり、アランは目の前のお金を受け取らずトレンに背を向ける。


「……」


 トレンが言うことに関して、アランは否定することができなかった。最近、魔物の活動も激しくなっている。アランの潜在能力に関する部分で言えばパーティの中では低い部類と言えよう。


 しかし、彼は多くの努力と勉強によってパーティを支える存在として頑張ってきた。頑張ってきたが……それにも限界があるのは理解していた。実際、自信にも戦いがつらくなってきたのは否定できなかった。


「わかったよ。じゃあな、トレン」


 アランはそう言って、トレンからお金を受け取ることなく立ち去さるのであった。




 ペトーネ 16:42


 ソフィは、学校が終わるとペトーネと呼ばれるカフェに来ていた。ペトーネは、王都の街並みを楽しむことができるカフェだった。外に椅子が立ち並び、優雅な一時を過ごすことができる場所の1つであった。


 ソフィは、バニラアイスクリームをカップに入れ、熱いエスプレッソコーヒーを入れて溶かしたものを飲んでいた。その光景は絵になるものであり、自然の悪戯ともいえた。


 彼女は、街を眺めながら人と人の流れを観察する。学校が終わって午後の街は、ちらほらと冒険から帰ってきた冒険者の姿や仕事が終えた農家や商人の姿が見える。さらに、子どもたちが遊ぶ光景に加えて、自分と同じ学生服を着た少年少女たちがいた。


「あら」


 ソフィは、街を歩いている人を見て、きれいな茶色の髪に加えて青い目に注目する。さらに良く観察すると、重そうな剣にはガイス家の家紋が描かれていた。


 彼女は、その人がトレンだと気が付いて声をかける。


「トレンさん、ごきげんよう」


 ソフィが声をかけると、トレンは気が付いて手をふってやって来る。


「ソフィ嬢、久しぶりです」


 ソフィの前まで、やや速足で来るトレン。ソフィの前までくると、貴族として丁寧な一礼をする。その動作は洗練されたもので、周囲にいた者たちに感嘆の念を抱かせた。


「お会いできてうれしいです。最近はどうですか」


「そうね……毎日充実した日々をすごせていますわ」

と少しだけ考えて、答える。最近は、ウセの件で心がもやもやとしていた。トレンに話すという選択肢もあったが、ソフィは話すほどのものでないと思って話さない。いずれにしろ、お父様がぎゃふんとさせられるのだ。ソフィは、静かに楽しみとして待つだけである。


 ソフィは静かに、右手に持ったカップに口を溶けバニラアイスが解けたエスプレッソコーヒーを一口飲んで、

「トレンさんは、どうですの?」

とトレンの近況を尋ねる。


 すると、トレンはやや困った顔をして椅子に座る。その様子は何かあったようだとソフィは判断するが深く追求することはしない。


「いや、そうだね。待ってくれ……とりあえず、すみません。カフェオレを」


 トレンは定員にカフェオレを頼んで、ぽつりつりと最近あったことを話しはじめた。彼の話し方は、丁寧で聞き取りやすいものだった。しかし、彼の表情は後悔に満ちていた。まるで、懺悔するようにソフィにアランをパーティから追放したことをトレンは話した。


「……そう。でも、どうしてなの」


 そんなに後悔するならば、なぜと思ってソフィが問いかける。すると、トレンは超まじめな声でこう答えた。


「…………好きだから」


 トレンは何かを決意するかのように、ソフィに言う。


 ソフィは、カップを置いて少しだけ思考する。だが、返す言葉はシンプルだった。


「難儀な問題ね」


 トレンの問題は難儀な問題だった。もし、これが平民だったら大きな問題でなかっただろう。しかし、貴族は対面を気にする。トレンは貴族であり、アランは平民である。この身分さは少しばかり厳しいものである。


 だが、トレンはさほど大きな貴族でない。そこは大きな障害とは言えない。むしろ、どうにもならない障害が阻んでいると言えた。


「…………もしかして、あなたのパーティが女の子ばかりなのて」


「……うん、そういうこと」


「……そう」


 ソフィはわずかな会話で察して、追求はしない。そして、ソフィは静かにトレンのいうことを聞くことに徹することにした。


 しかし、トレンは何も話さない。否、話せなかったのだ。それは、この国の文化や恋愛観によるものであった。


 トレンの恋愛観は今の王都ではやや受け入れられにくい状態だからである。そして、ソフィは静かにカップにある液体をゆっくりと飲んで味わう。


「……私はあなたを否定はしませんわ」


 そう言って、席を立つ。


「ですが、後悔しないことをおすすめしますわ」


 ソフィはそう言って、つかつかと足音を響かせて立ち去る。外に待っている従者の馬車に乗って屋敷へと帰る。


 一方、取り残されたトレンはその場から動くことができずに空を見上げることしかできないのであった。


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