21、罠
「ジェーンこれはどういう事だ!」
キースが問いただす。ジェーンはウエディングドレス姿のまま泣きだし話さない。ロードはオロオロしながら2人を交互に見る。
「ジェーンどういう事だ。」
ロードに諭され少しだけ落ち着いたキースがもう一度問いただす。それでもジェーンは泣き続け答えない。キースはイライラしながら声を荒らげるのでロードが制しジェーンとの間に入る。
「泣いてちゃ分からないだろう。な?何があったんだ?」
「う、うん。朝起きたらクインが居なくなっててぇ。私、クインはキースとの結婚が嫌で逃げ出したと思ったの。でもここまで準備して結婚式当日に花嫁に逃げられたって知られたらキースは笑い者になるでしょうだから。」
「分かった、それでクインの代わりに結婚式に出たんだな。」
「それでも!先にクインが居ない事を言うだろ!」
キースが怒鳴る。納得できないとばかりに今にもジェーンに飛びかかりそうな雰囲気だ。
ロードはとにかくキースをなだめる。
ジェーンはキースの迫力に怯えているが、ここまで怒る事に驚いているようでたまにきょとんとしているのが、キースの怒りの火に油を注いでいる。
ロードは深くため息をついた。
「とにかくクインは連れ去られた可能性がある。暗殺の話もあるしすぐに探そう。」
キースはジェーンを無視してロードに話す。
「ああ、そうだな。ジェーンは約束は守る。いきなり逃げ出したりはしないからな。」
「えっでも急にいなくなったんだよ。結婚が嫌だったのかもよ。」
「いやないな。それなら俺ともう一度話し合う。」
ジェーンは上手く事が運ばない状況に内心焦りながら次にどう動くか考えていた。今までクインの事をちゃんと見ず、感情のままに動いたジェーンは2人がここまでクインを信頼している事を知らず大誤算だった。
牢屋に入って5日が経った。食べ物も与えられず飲めるのは天井から滴る水だけで心も体も疲弊し、1日中壁にあいた5センチ程の穴を眺めていた。
急にそこから何かが押し込められて牢の中にぽとりと落ちた。手に取ると見たこともない装飾が施された指輪で薬指にピッタリとはまり、中央の石がキラリと光った。
なんだか部屋の魔力の流れが変わった?手始めに異空間から食べ物と飲み物を出す。
出せた。声を出しそうなのを抑えて食べる。目をこらすと近くにあの衛兵もジェーンもいないので、とにかく出して食べ続けた。
「ふぅ、生き返ったわ。まだまだ食べ物も飲み物もあるし何とかなりそうね。本当にありがとう。この指輪をいれてくれた人。」
穴からはもう何も見えない、そもそも外も見えないし。
キーンコーンカーンコーン。
またチャイムがなったやはりここは学校のようだ。微かに感じるのは治癒の魔法ばかりなのでジェーンが創った学校かもしれない。
5日で得た情報はそれくらいで後は何も分からない。
異空間から何でも出せるので今まで溜め込んでいた聖水を牢の中にばらまいた。ここに来てから空気の淀みに思考力を奪われていたので、2本分を頭からかけて考えを巡らせる。
「清めた事によって魔力が少し戻ったわ。爆破。」
またうんともすんとも言わない。やはり攻撃の魔法は無理なようだ。結局、出る方法はないまま5日目が終了した。
次の日、衛兵は部屋と私を確認しても何も言わずまたどこかへ行ってしまった。
衛兵は魔力の流れや部屋の清らかさは見えないらしい。なので堂々と弱ったフリをしておいた。
「そして異空間にしまってあったこれ。」
魔法の鍵。あの旅で揃えた宝物は私が持っている。これで何でも開けられるじゃないか。どうして忘れてたのかしら。
カチャリと牢の扉は開いてくれた。よし逃げようと開けたその先に信じられない光景が広がっていた。
ボロボロのスコープと剣を持ったキースとロード。ジェーンは2人の後ろで怯えている。
「なんで、どうして?何があったの?」
「クイン!お前今までどこにいたんだ!ずっと探し。」
キースは私に駆け寄って話しかけているけど届いていない事に気が付いて話すのを止めた。
自分の血が氷のように冷たくなっていくのを感じる。スコープは反撃せずやられっぱなしだったようだ。
「スコープ、何があったの?」
駆け寄ってスコープの体を起こす。小さく私にしか届かない声で話す。
「クインに指輪を届けたのを見られた。そしたらこの人達がここにいる罪人に脱獄の手引きをしたと言い出して。学校の地下に監獄があるんだって。でそこにいる僧侶の彼女が僕がクインを誘拐したのを見たと言い出して、その後僕にだけ聞こえる声でクインがどうなってもいいのって言われたんだ。人間って怖いよ、でもクインが無事で本当に良かった。ああ、ねえ、ダメだよ彼等は騙されただけだから。僕と気持ちは一緒だった君を守りたかったんだよ。クイン彼等を憎まないで。」
私の腕の中でにっこり笑いスコープは目を閉じた。
「クイン、誘拐犯から離れろ!」
キースがこちらに来てスコープから離そうとする。私は強くスコープを抱きしめた。私の行動にキースはショックを受け私の腕を離した。
スコープはどんな思いで私を助けにきてくれたのだろう。指輪をいれてくれて、見つかって罠にはまって私の為に攻撃を受け続けた。
私はスコープを抱きしめたままキースに問いかけた。
「ねえ誘拐した証拠はあるの?」
キースはいつもと違う私の雰囲気に戸惑いながら呟いた。
「ジェーンがそう言った。お前を誘拐したのはこいつだって。」
「そう。」
自然とジェーンを見つめていた。見つめられて居心地が悪いのかジェーンは目を逸らす。キースは少しずつ真実が見えてきたらしく剣を落とした。ロードはまだ何が起こっているか分かっていない。その鈍感さにいつもなら癒されたが今は怒りしか湧き上がらなかった。
「ねえジェーン良かったわね。思い通りになった。後は私が死ねば気が済む?ねえ?」
「クイン何を言ってるの?あなたが見付かって私嬉しいわ。」
いつものジェーン。でももう騙されない。
「誘拐犯のあなたが見付かって嬉しいって馬鹿馬鹿しいわね。」
ロードはまだ分かっていない。キースは地面に膝を付いた。
「ジェーン、お前が裏切り者だったのか。最低だ。」
ロードはびっくりしてキースを見た。そしてジェーンを。ジェーンは急いで駆け寄ってキースに縋って泣き始めた。呪いの言葉のように何度もキースに愛していると言っている。キースはジェーンを振り払う事もせず地面に手をついている。
腕の中のスコープを見下ろす。もう私はどうなってもいい。全魔力を捧げて禁忌の魔法を唱えた。
その瞬間、まばゆい光が広がった。




