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6話 魔女(6)偶然、たまたま

6話~10話更新します。



さすがに疲労困憊なので出発前に少し休むことにする。

魔獣――「タイラント」はミカとしばらく話すと大人しく去っていった。ここまで強大化した魔獣が突然消えると生態系が狂うらしく、ミカは数度に亘って念入りに回復術を掛けていた。白鷲魔獣の肉も半分ほど食べさせた。これで捨てずに済む。


奴はイグニス川を下って北部辺境に戻るらしい。

あの巨体で目立たず移動なんて無理かと思ったが……なるほど、川を泳いでいくのか。

何で辺境の大魔獣がこんなところにいたのかとか、魔獣が人語を話すとか、あれは念話なのかとか、色々と疑問はあるが取り敢えず置いておく。



それにしても。

……名持ちかもしれないとは思ったが。まさかアレが「あの」タイラントとはね……。


諸侯から莫大な報奨金が掛けられ、討伐パーティーは全員特級認定に爵位授与まで間違いなしと言われる伝説級の大魔獣、「北部辺境荒野の主」。

そんな相手と知っていれば手を出す訳がない。っていうかミカもミカだ。気付いていたなら止めてくれればいいのに。



「だってー、なんか決死の撤退戦に赴く兵士みたいな雰囲気出してたからさー?邪魔立ては無粋じゃん?」

……それ絶対死ぬやつ。死に場所見つけた系。


「もちろん助ける準備はしてたよー。しかし脱水した泥炭から起爆して水蒸気爆発まで引き起こすとはねー、魔獣に回復魔法かけたのはさすがに初めてだよ」


え?ちょっと待って知らない。泥炭なのは分かってたけど水蒸気爆発って?


奴の足元に【軟化】を使ったとき、この辺り――イグニス川下流地域にはそこら中に泥炭層があることを思い出した。泥炭は乾燥すると脆くなってよく燃える。今年は旱魃もあって水分少なそうだから、地下の泥炭層から【集水】しまくれば奴の自重で足元が崩壊するかも?くらいの考えだった。軟化させるより効果ありそうな気がして。

【着火】すれば燃えて崩れそうじゃん。そのまま燃え広がれば逃げる時間も稼げるかな、という、その程度の考えだったんだが。



「ええー偶然なのー?マジかぁ……感心して損しちゃったー。

ねぇアムランさーどんだけ危ない橋渡ったか分かってる?いくら脆弱な泥炭層とは言え魔獣程度の自重じゃ上手くいっても数十センチ凹む程度が精々よ。躓いてくれればラッキー!って段差ができるだけ。しかも相手は足元に【硬化】掛けてたでしょ?……はぁ?忘れてた?まあ……今回はそれも結果オーライなんだけどね」


おおぅ、俺の論理構成じゃ何のダメージも与えられなかったわけか。

硬化……確かに俺の軟化術式にカウンターで発動してたな。完全に忘れてた。

やっぱり思いつきで上手く立ち回れるほど軽い相手じゃないか。

それならあの爆発はどんな仕組みだったんだ?水蒸気なんて発生する要素あったっけ?



「泥炭層は可燃性気体――たまに動物の腐乱死体が爆発したりするやつ、知ってるかな?それを含んでる場合があるの。脱水されたことで、かなりの可燃性気体が集まったみたいね。かーなーりーの。

そこに【着火】すれば?……はい、どっかーん。

まあこれ自体は大きめの【爆破】程度の威力なんだけど、そこで発生した熱が【集水】で集まってた水分を一斉に気化させるわけ。水って気体になると体積がものすごく増えるの。分かる?地面の下で瞬間的にそんな膨張が起きたら、そりゃもう大・爆・発!!」


……なるほど。泥炭層から集めた水の行方までは考えてなかった。そうか、水が爆発……こういう使い方もできるのか。


「しかもしかも。爆発の衝撃は奴自身が【硬化】した地表面を効率よく吹き飛ばす。

硬化した土は硝子板のようなものだからね、意外と知られてないけど、限界以上の衝撃が加われば鋭く割れるの。

つまり……足元から爆風と共に高速で噴き出す鋭利な刃物の嵐よぉ?えげつないわねぇ。普通の魔獣なら100回死んでもお釣りがくるわ。

二段階の爆発プラス相手の術を逆手に取るなんて、アムランやるじゃん!


――とか思ったんだけどなぁ」



……うへぇ。俺の知らないところでそんな殺意全開の術式が発動してたとは。魔法こわい。

じゃあ最後の、相手の火炎が爆発したのは?あいつも予想外って感じだったけど。


「爆発の余波で可燃性ガスがそこら中に噴き出してたのね。そんなところに火を撒けば、ねえ。あたしの圧力障壁も3層吹っ飛んだわよ」


おおう……今回はミカがいなければ死んでいた。

素直に礼を言おう。ありがとう。

「うふふ……誠意は言葉じゃなく、ね?……エヘヘ……フフ……今夜も楽しみだわあぁぁぁ」



うん、撤回しよう。

そもそもの原因、魔獣肉じゃん。鳥が食べたいとか言った奴が全部悪いと思う。





少し仮眠をとり、魔獣肉の残りを持てるだけ持ち、昼前に野営地を出発。

今日の目的地である「川沿いの町」へと着く頃にはもう夕暮れが迫っていたが、道中は朝の騒ぎが嘘のように平穏だった。平和が一番である。……魔獣こわい。魔法こわい。



何だかんだ言いつつ俺もミカもさすがに疲れ切っていたので、宿に着くと食事もそこそこに床へ就いた。久々のベッドだ。今夜は部屋も別だし、安眠できるだろう。



翌朝、目が覚めたのは陽が高く昇ってからだった。こんなに眠れたのはいつ以来だろうか。


隣室で同じように寝ていたミカを起こしたところで、……お互いかなり……その、臭うことに今更気が付く。

盗賊暮らしの俺は勿論のこと、ミカもこの数日は野営続きだったらしい。


こんな状態でよく二晩も同衾していたものだ……。世の中には多少臭い方が捗るという輩もいるようだが、今のところ俺にそのような嗜好は無い。はず。



宿の親父に湯と布を頼み、髪を洗い、体を拭う。

これで大分マシになった。出発は明日にして、今日はゆっくりと過ごすことに。冒険者時代なら何てことも無い「休日」だが、今はとても贅沢な時間に感じる。ああ……生きてて良かった。

今日のうちに残った魔獣の肉を売り、武器防具の手入れもしておこう。



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