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5話 魔女(5)想定外


「んんーもっとおー……はにゃ?」


うーん?人の気配が無い。まさかアムラン、逃げた?



――いや、いる。……魔獣だ。



【隠蔽】【防音】【障壁】……こんなもんかなー。

テントからチラリと覗く。

うん、名持ちだね、巨大な縞虎――「タイラント」か。


アムランが強くなってるのは間違いないけど……さすがに無謀じゃないかなぁ。

「あれ」はお姉さんでも躊躇しちゃうよ。魔獣肉の強壮効果が残っちゃってるねぇ。全能感?

ま、いざとなったら助けましょう。でも即死は無理だよ、頑張ってねー。




* * *




おいおいおい無理無理むりいいい!誰だよいけるとか思った奴……。

いい加減学習しろよザルパでも勘違いした全能感で痛い目見ただろぉぉぉ。



うん、絶対「名持ち」だよこいつ。

巨大な縞虎……凄く()()()()が思い浮かぶ。いやいや、きっと勘違い。そうに違いない。奴の住処は北部辺境、こんな場所に居るはずがない。



で、どうする?この強敵から生き延びるために何をするか。


まず、速すぎ。

通常動作が俺の【加速】以上。これじゃいくら【強化】しても埒が明かない。

あと力ね、つまりパワー。

単純な腕の振り下ろしで地面が裂けるの。パーン!って。ナニコレ。

あんなの受けたら障壁越しでも一発で肉片じゃん。どうするどうする。

しかも障壁硬すぎて攻撃から弱体系魔法まで全部阻害されんの。……もう笑うしかない。



【軟化】!埋まってろ!

虎の足元を沼地のように軟化させる。多少は動きが鈍るといいなあ。直接攻撃は障壁で無効化されるので仕方なく足元狙い。

……うわ。軟化した傍から【硬化】で上書き……。手に負えない。

うーん、これはもう(エサ)でも投げてご退場願うしかないかもな。


【魔法弾】!【雷撃】!【氷結弾】!

都合よく弱点属性なんて無いよなあ。お、雷撃は多少通るか。しかし俺の魔力じゃ倒すまでには到底足りない。

ともかく物理障壁は諦めて魔法の乱発で魔法障壁をどうにか抜くって方向か?


【雷撃】【火炎砲】【冷気砲】!うう…魔力がやばい

これだけ節操なく乱発してりゃ魔力も尽きるわな。貧乏盗賊が魔晶石なんて持ってるわけもなく。

こうなったら接近して障壁に直接【抵抗】撃つか……いやそれは死ぬ。もしかしなくても死ぬ。


落ち着け。素数を数えろ。

さっき足元には軟化が通った。そしてここの土壌は。なら……。

イチかバチか。どちらにしても魔力が限界だ。やれるだけやってみよう。どうせミカ起きてんだろ?うん、後は任せた。




* * *




うーん苦戦してるねぇ。そりゃそうだわ。

『タイラント』はババアの時代のそのまた昔から生き残ってる猛者の中の猛者。

さすがにパッと出の2級冒険者にやられるようなタマじゃない。……ってか、あたしでも倒しきるのは無理だろう。


おぉ、雷撃が通った。

アムラン雷撃覚えてくれたんだ、うふふふふ愛かな?カナ?

でもあれじゃ【雷撃】ってより出来損ないの【発雷】って感じだねぇ。対象指定が甘いから魔力が収束しきってない。そんなんじゃ『閃光』の名は与えられん!って言われるぞー。ぷぷー。


んん?

……何か目論んでますねー。何するつもりかな……?


地面に魔力通して……集水……着火……、おおう!その手があったか!いやマジか!やっぱアムランいいわあ、興奮しちゃう……うふふふふ。


――でもそれ、かなーりヤバイわよー?分かってるー?




* * *




――よし!【着火】ぁぁぁぁぁ!



ドゴゴゴゴゴゴゴ―――――――!!!!



爆音とともに吹き飛ぶ地面。立ち上る砂煙。

爆風で数メートル空を飛び、凄まじい音圧に聴覚が麻痺する。……強化と障壁が無かったらこっちが死んでた。

「やったか?」とか言ってる余裕もない。


え、いやちょっと待って。

こんな大爆発になる予定じゃないんだが……何かが想定から抜けていたようだ。そして俺の魔力はほぼ尽きた。できれば、是非とも、お願いだから立たないで欲しい。

風が吹き、砂煙が晴れると――



グギャアアアアアアアア!!!!!



うわぁめっちゃ怒ってる!ヤバイやばいマジやばい。

不規則に吹き飛んだ地面……半径30メートルを超える大爆発だったようだ。深い場所は10メートル以上えぐれている。外縁部に立っていた俺が数メートル飛んだんだ、中心部の衝撃は相当なものだったはず。

その中心部には、怒りを爆発させる魔獣の姿。


うーん……多少は効いたか?っていう程度。

あの爆発でも死なないとかどうなってんだよ魔獣。

それより逃げよう。これは何か来る。もう嫌な予感とかいう段階じゃない。嫌な確信。




「あータイラントくん激おこですわー、これはまずいね」


気付けば隣にミカがいる。いつ来たんだ。


「もうアムたんてばやりすぎー!余裕で陣地魔法のレベルじゃん!」

いやいや、想定外なんですって。

「もうちょっと寄って。あいつの火炎が残存気体に燃え移るよ!【障壁】!」

魔獣が全身を震わせ、膨大な魔力を放出。

そしてその魔力全体が……燃え上がる!魔獣を中心とした灼熱地獄――



ドバババババババ――――――――――!!!!



うぐぁっ!!

……障壁越しに叩き込まれる衝撃。


魔獣が放出魔力を【火炎】に変性した瞬間、あちこちで爆発が起きた。何故か魔獣自身も巻き込まれて吹き飛んでいる。……お前も想定外かよ。

俺はミカの障壁に守られて無事。物理障壁だけでなく火炎への抵抗陣も展開している。何が起きるか分かっていたようだ。さす魔女。



衝撃は数十秒の間続いた。これはさすがに倒しただろう。倒したというか自爆っぽいが。


「もー、さすがに死ぬわよ?わかってんの?自重しなさいよ」


おもむろに魔獣の方へ歩み寄るミカ。え、魔獣に【回復】掛けてるんだが。


《うぐ……。娘。礼を言う》


うわぁ!……喋った。しかも「脳内に直接!」ってやつだこれ。え、魔獣って喋るの?



「礼とかいいから自重しろって言ってんの。返事!」

《分かった分かった。そう怒るな》

「分かったんなら森にお帰り。ここはあんたの場所じゃないよ」

《娘よ。ほう……閃光の系譜か。一つ借りとしよう。……おい小僧。次は負けん。覚悟せよ》



いやいやもうやらないから。あの肉のせいだから。

魔獣肉はしばらく禁止しよう。

……朝から異常に疲れた。


とりあえず今日はここまで。

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