3話 魔女(3)飛ぶ鳥を落とす
「さてさてお楽しみの野営たーいむ!」
全然楽しみじゃない。食料はあるのか?
「一応行軍食持ってるよ、でもー!あたしは!鳥が食べたい!」
……捕って来いと?
「アムランの成長を確認するのが師の務めなのだー」
誰が師だ。
……仕方ない。ちょっと行って来よう。
旱魃の影響で鳥も随分減った。
盗賊団でも毎日鳥を狩ったが、あそこは裏手の森に結構な数の鳩や山鳥がいたから楽だった。ここは草地だからなあ。……地道に探すか、高所の「大物」を狙うか。
上空に大型の鳥が旋回しているのは少し前から気付いている。多分、ミカはアレを取れと言っている。
しかしなあ、アレ……「魔獣」だぞ。
あの高度では弓も届かない。おびき寄せるのが正着か。うーん、嫌だなあ。
――ザク
仕方ないので短剣で腕を軽く切った。
攻撃的な魔獣は血の臭いに敏感だ。多分これで……うおっ!もう来た!お前も腹減ってんのか。
グエエ!グエエエエ!
急降下し、火炎弾を吐き出す鳥の魔獣。
【障壁】は展開済みなので防御は気にせず弓で狙う。魔力量からみて障壁が抜かれる可能性は低い。
【変性】【冷却】【硬化】。発射して【加速】!
この小弓は俺の自作だ、弓自体に大した威力は無い。鏃に魔石を使い、そこに様々な術式を込める。矢は術式のキャリアーとして使っているようなものだ。
これで魔獣を倒すには魔法付与を上手く考えないとな。
バシュッ!
3本連射したうちの一本が降下してきた魔獣に命中。
向こうの障壁はこの程度の術式で簡単に抜けるようだ。意外と呆気ない。まだ若い魔獣か。
火炎弾を吐くような魔獣には、「体内に魔力による加熱器官が存在するもの」と「自ら術式展開するもの」との二種類がある。もちろん後者の方が手強く、幸いにも白鷲魔獣は前者だ。
加熱器官が冷えると途端に弱体化するため、そこを冷気系の術式で狙うのが定石。そうでなくとも鳥は冷気に弱いしな。
硬化・加速した鏃で障壁を抜き、変性した魔力を魔獣の体内に浸潤させ冷却効果を発動。即席だがなかなかの論理構成じゃないだろうか。
グギエエエエエア!
魔獣の火炎放射。本来かなり危険な攻撃だが、やはり若干温度が低いようだ。効いてる効いてる。このままいけるか?すかさず連射。
バシュ!バシュ!
小気味良い音を立てて突き刺さる矢。魔獣がふらつき、地面に落ちる。
体長2メートル程度、やっぱり若い、魔獣にしては幾分小柄な個体のようだ。
魔力の暴発を警戒して遠距離から仕留める。更に数発撃ちこんだところで動かなくなった。
「おお、やるじゃん!手際がいいねー」
あっさり持ち帰った魔獣を捌いていると何かをズルズル引き摺りながらミカが来た。……でかい獲物。
「ああ、その子の親かなー?家族で魔獣化しちゃったのかな」
3メートルほどの鳥の魔獣。親にしては小さくないか?あ、模様が違う。そっちは雄で俺のは雌かな。
「そっかー、白鷲のつがいが魔獣化したんだねー。まだ若いから大したことないけど」
白鷲は通常1メートル弱の肉食の鳥だ。それが魔獣化するとこんなにでかくなる……不思議だよな。
南のザルパ山脈近くにはたくさんいるが、この辺ではほとんど見かけない。迷い込んで帰れなくなったか。
「これだけあると食べきれないねー。まあ、川沿いの町まで行けば売れるかな!」
食糧難の最中だ。飛ぶように売れるだろう。
しかし……これを担いで行くのか?マジで?
取り敢えず血抜きして小分けにするか。血は今夜の料理に使おう、なかなか貴重な食材だ。残りは持てるだけ持って移動かな。
その後、散々鳥肉、いや「魔獣肉」を食べた。久々の肉だ……美味い。うん、美味い。
焼いて塩を振っただけの料理だが、魔力が多いせいなのかとても美味い。
この味を知っていれば魔獣討伐も進むんじゃないか。
そして食べる傍から力が湧いてくる。
体の芯から漲るような、溢れ出すような、煮え滾る……うん?
「うふふふふ。獲れたての魔獣肉、元気出るでしょー。魔力抜きしてないからねー。うふふふ」
……謀ったな。しかし今夜は耐えるぞ。
年齢不詳の魔女は範囲外だ。顔も好みじゃないし。好みじゃないし!好みじゃ……
あれ、またミカが可愛く見えてきた――魅了だ、まずい!クソ!油断した。魔獣肉の魔力か……
快感に身を委ねたい――いやいやダメなやつだ。耐えろ。耐えるんだ。
笑顔が可愛いな――待て待て。まだ諦めるな。
ああ、この足舐めたいな――ダm
ご奉仕しなきゃ……
こうして、鳥の魔獣を美味しく頂いた俺は、魔女に美味しく頂かれるのでした。これぞ食物連鎖……?
ちゃんちゃん。