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HERB  作者: まさひろ
第6章 薬草追加販売中 ~新しい世界~
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第23話 人の役割、街の役割

(ルーナ)


 宥めてすかして脅かして、ようやく落ち着いて話が出来る状況になった。私とゴードは人影のない夜の町中で相対する。


「いい、もう一度言うわ。私は貴方の敵じゃない」

「はっ、その言い方は味方でもねぇって事だな」


 流石は苦楽を共にした旅の仲間、心の内は分かっている様だ。


「まぁね。私の立場は中立よ。貴方の様にこの世界を地獄に変えようとも、シージの様に絶対の覚悟で守ろうともしないわ」


 所詮は個人が出来る事などたかが知れている。私はその流れに乗るだけだ。


「ならなんで、介入した」

「それは当り前よ。私の認識疎外の魔法では機械の目はごまかせないわ」


 私はそう言って夜空を指さす。空白の北九州であの戦いは大いに目立った筈だ。


「はっ、それがどうした。この世界の住人ごときが束になってかかってこようと俺の敵じゃねぇ」

「まったく、弱い犬ほど良く吠えるってことわざを知らないの? 確かに貴方は強いわ、けど数の暴力の前にはいつか追い詰められる」


 それは最強の肉体を持つシージだって同じことだ。つまらない事で同胞の命が奪われるのは忍びない。それが私に危険を及ぼす事ならば尚更だ。


「魔女狩りなんていやよ私」


 まぁ機械の目には私の魔法は通じないが、人間相手ならば話は別。認識疎外や魅了の魔法、なんでもござれのお手の物だ。


 私は2人とは違い、こちらの世界の住人と肉体強度はさほど変わりが無い。だがそれを補って余りうる魔法の力がある。

 こちらの世界に飛ばされた後も、僅かに残った魔力を駆使して、今の戸籍を手に入れたのだ。


 2人がどれ程大暴れしようが、そう簡単には私が彼方の世界の住人とは、こちらの世界にはばれない筈だが、あそこでどちらかの死体が残ってしまうのは拙いと判断したのだ。


 私達の体はこちらの世界の住人とは全く違う。幸い見た目こそは同じだが、少し調べればその違いは直ぐに分かる。血液検査程度の簡単なものでも異生物と判明するのは十分だ。


「兎に角、喧嘩をするならば、誰の目も届かない場所で、最後までやり遂げて。私まで巻き添えになるのは真っ平よ」


 そんなに喧嘩が好きならば、2人仲良くどっかの火口で灰になるまでやったらいい。


「はっ、相変わらずドライな奴だ」


 ゴードはそう言って口角を歪める。まぁしょうがない。それがパーティでの魔法使いの役割だった。

 私はそう言う風にインプットされたのだ。


 シージを盾に、ゴードを鎧に、そして私が剣となる。それが当初の役割だった。まぁ結局は、全てシージが突っ走って食い破ってしまったのだけど。


「それで、ゴード、貴方の目的はなぁに?」


 私の目的は平穏無事に生きる事。それは例えこの世界がどうなろうともだ。

 私の質問に、ゴードはニヤリと笑ってこう答えた。


「俺は王になる」

「王……ですって?」

「ああ、王だ。命令される側から命令する側に、分かり易いだろ?」

「ええそうね」


 答えは簡潔明瞭、これ以上ない分かり易いものだった。


「俺はこちらの世界に来た時、とあるヤクザに拾われた。あの草がこっちの世界に持ち込まれるまでは、その世界で王になろうと思っていた。

 だが、アレが来た。彼方の世界とこちらの世界は繋がっちまった。それならば十全を尽くすべきだ、全力を尽くすべきだ、俺の持ちうるすべてを使い、この世界を総べる王になる」


 呆れた話だ、全く持って呆れた話だ。どうやら本気の本気らしい。全く持って義理堅い。

あんな魔女の言う事にここまで縛られる事も無いだろうに。


「ヤクザの王様じゃ満足できなかったの?」

「ああ、足りない。俺はこの世界(地球)の王になる」


 ゴードの頭の中は大概ファンタジーなようだ。手段なんて浮かんでないだろうに、彼は何処までも力を求める。いや手段と目的がごっちゃになってしまっている。


 とは言え、私はそれでも文句は無い。この世界に薬草が満ち、その結果マナに溢れる世界となれば、息苦しさから解放されることになるので、それはそれで好都合。


「そう、分かったわ。それじゃあ頑張って、応援してるわ」


 私はこれまでの生涯の中で最大級の営業スマイルでもって彼の旅立ちを祝福してやった。


<早乙女>


「腹案がある」


 そんな戯けた寝言を言っていた政党が、あれよあれよと言う間に選挙に勝っちまった。

 まぁある意味では仕方がない、あれしか方法は無かったとは言え、前の内閣は大胆にやり過ぎた。幾ら理屈をこねようとも、自国を火の海にしちまうような政党に日本のかじ取りは任せられねぇって事だろう。


「しかし、正気かねこりゃ」


 北九州復興、その為の腹案と言う奴はこうだった。


「何読んでるんですか社長?」


 日本語が理解できるかどうか分かんねぇ奴が、新聞を読んでる俺に話しかけて来た。


「あー、北九州をPX特区にするって話だよ」


 速水レベルでも分かる様にかいつまんで説明してやるとこう言う事だ。既にPXに汚染されちまった北九州はいっその事諦めて、そこでPXを栽培しちまおうって事だ。


「そんなの、制御できるわけがないじゃないですか」


 珍しく、速水の奴と同意見。どっかの離島ならば話は別だが、その島を捨てりゃいい。そう俺たちが蓮屋の奴を捨てちまったあの島の様に。


 ところが北九州は福岡県の端っこだ、有事の際は九州丸ごと捨てる気だろうか?


「しかも、しかもだ。WHO経由で国連軍がその管理に当るんだとよ」

「W,H,Oってなんすか?」


 馬鹿に説明するのは大いに疲れる。要するに現政党のバックである中国がちょっかいを出してきたって事だ。


 今後は北九州の上でアメリカと中国の綱引きが始まるって寸法だ。


「今まで日本のケツもちはアメリカがやってたんじゃないんですか?」


 おお、馬鹿の癖に物知りだ。だがその話は薬草が出回る前までだ、あらゆる傷を治しちまう魔法の薬は、東西の諍いと言う奴も癒しちまった。


 なんてうまい話がある訳はない。北九州の惨状を目に、何処の国も自国での実験をビビっちまったって仕方がない。

 傀儡内閣の背後では、アメリカと中国が片手に銃を持ったまま仲良く握手を交わしている所だろう。


 現政府は、復興支援と引き換えに北九州を世界の火薬庫にするつもりだ。

 俺はその時気が付かなかった。白黒写真の隅っこに、郷田の姿が映っていたのが。

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