1.彼女は絶対惚れている
世の中には、○○一の美少女などという言葉が存在しているが学園一の美少女というやつは(仮に誰もが認める可愛さであったとしても)現実には存在しないものだと俺、中路 翼は思っていた。
と言ったことから分かるように、うちの学園にはいたのだ。まあ主観は混じっているのだが。
幼稚園から高等学校までの一貫校である私立雀ヶ原学園は全校生徒約二千人が通う学園で、可愛い女子は普通にいるがアイツ、南雲 心咲はその中で群を抜いていた。在り来りではあるが容姿端麗、頭脳明晰、品行方正など彼女を言いあらわす表現を考えたならばキリがないだろう。そして彼女には秘密がある、それは――
「俺に惚れているということだ…」
登校途中にも関わらず、思わず口に出してしまっていた。
「おはよー。今朝もぶっ飛んだ考え変わんないねえ」
この失礼な男、名を黒浜慶次郎という。
「あのな、いいか?俺の推察にはいくつか証拠がある。第一に、俺に会うと必ず挨拶をしてくる。次に、俺と話す時彼女はいつも笑顔だ。そして」
「ははは、ストーカーってこういう思想なんだろうなってお前を見てると痛感するよ」
「うるさい、ストーキングは行っていないのだからストーカーではなかろう。それにだな、俺の見立てでは今日にも彼女は俺に告白してくる。もう知り合って三年だぞ、痺れをきらす頃合いだ」
「そりゃ良かったな、もし告白されたなら教えてくれ」
そう言っているうちに教室へと着いてしまった。
俺たちが教室へ入ってから数分の後、彼女は登校してきた。そして彼女の席である俺の隣の席へとやって来る。
「おはよう、ナカミチくん。いい朝ね」
「おう、おはよう。確かにそうだな」
ほらな、完全に惚れられているだろう。どうだ、と言わんばかりに慶次郎のもとへ行くと、
「いや、あれは、たぶん名前の字すら、覚えられてないよ」
「な。そんなはずないだろう、それから笑いを堪えるのをやめろ」
「あんまり面白くてさ。あ、そろそろ先生来るぞ」
今日貸す予定だった本、貸さないでおこうと思いながら席に戻った。
一日の授業が終わり、部活へ行こうと荷をまとめていた時だった。
「あら、これは…」
隣の席で彼女が持っていたものは、
「それは、ラブレターか?」
「ええ、たぶん。…呼び出されたから、行ってくるわね。」
「おお、そうか、ってなんだと!?」
(俺に惚れていながらなぜ受けに行くのだ?あれか、彼女は優しいから聞くだけ聞きに行くのか)
などと衝撃を受けつつも、しっかりと彼女の開いたラブレターから場所を覗き見た俺は雑具倉庫前へと先回りして行く末を見届けることにした。答えは分かりきっていることだがな。
彼女がそこへ現れてから数分の後、なんともパッとしない男が現れた。どうやら告白が始まったらしいが、あまり内容が聞こえない。
少しして、彼女の頭が下がり男がとぼとぼと帰ってゆき(やはり)彼女は断ったとみえる。
さて、俺も帰るかと倉庫の物陰から立ち上がった時だった。
「はあ。こう頻繁に告白されるのも困るのだけれど。私は誰と付き合うつもりもないし、誰のことも好きじゃないのに」
その言葉が俺の中でこだまする。思考が回らなくなり、身体も動かなくなる。唯一俺にとれた行動は、
「なんだと!?」
ただただ叫ぶことだった。