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第9話 傭兵として雇われる

 王都の入り口門の前に着いた。さすがは王都だ。入り口前には見張りの兵士が数人いる。

 ナターリアはこの国の斥候小隊長だけあってほぼ顔パスで通され、そして俺もナターリアが融通利かせてくれたおかげですんなり通ることができた。

 本来なら通行所が必要で、戦時下ではスパイなどが紛れ込むのを防いだりするのが目的らしい。

 とはいえ、あの双子姉妹なら偽造の通行所とか別の方法で潜入していただろう。あそこで倒せてよかった。

 ちなみに持ってない人はここで取り調べを受けることになる。本来なら俺も取り調べを受けるはずだったんだけどな。

 俺たちは門を通り抜け、城下町へとたどり着いた。


「さすがに大きいな」

「王都だもの。当り前じゃない」


 セレスとは比べ物にならないくらいの人の多さだ。遠くには立派な城がそびえ立っている。あれも俺が描いたものと全く同じで変な笑いがこみ上げてきそうになるな。

 わかっていたとはいえ、ここまで同じだとなんか不思議な気分になってきた。



「とても戦争中とは思えないな」

「王都まではまだ戦火の影響があまりないのよ」


 俺たちは城下町を歩いていく。


「ところで、俺は取り調べなくていいのか?」


 俺はわかっていながら、あえて聞いてみた。


「あんたはあやしい者じゃないってわかったから。わざわざ、取り調べる必要はないわ」

「なんでだ? もしかしたらあの二人を討つこと、つまり犠牲にして君の信用を得て、怪しまれずに王都に潜入するなんてことも考えられるんじゃないかな?」

「⋯⋯冗談言うならもっと面白いこと言いなさいよ。ひねりが足りないわよ」


 ナターリアはいかにもつまらなさそうな顔をしている。

 もっとぶっ飛んだことを言えばよかったか。中々冗談言うのも難しいな。


「そうは思わないのかい?」

「第一、あんたほどの実力があるんだったらそんな回りくどいことしなくても潜入できるでしょ。それこそあたしも殺してさ。あの二人はいらないじゃない」

「たしかにそうだな。これはつまらないことを言ってしまったよ」

「否定しないのが腹立つわね⋯⋯」


 ナターリアは横目でこちらを睨みつけてきた。


「それで、これから君はどうするんだ?」

「あたしは任務の報告をしに城に戻るけど、あんたはどうするの?」


「俺は――」


 ここまではほとんど予定通りなんだ。頼むから原作通りの展開になってくれよ。

 俺は内心祈りつつ、この先どうするか伝える。⋯⋯もちろん嘘だが。


「――最初に言った通り傭兵としてこの国に雇ってもらうつもりだ。⋯⋯止めるなよ? 俺の実力は知っただろ?」

「たしかに、あんたなら戦況を変えるぐらいの力があるかもね」

「世話になったな。もし戦場であったらよろしくな」


 俺はそう言い残し立ち去ろうとしたが。


「――待ちなさい!」

「まだ何かあるのか? 今更取り調べるなんで言わないでくれよ?」

「それはもういいわよ。⋯⋯あんたは信用できそうだし」

「一応理由は聞いておこうかな」

「女の勘よ!」


 ナターリアは胸を張って言い放った。

 原作通りなんだけど、⋯⋯なんだけど、もっとまともな根拠が欲しい。


「で、取り調べじゃなければ何だ?」


 ナターリアはふふんっと笑い、俺に人差し指を指しながらはきはきと喋る。


「あんたはあたしが傭兵として雇ってあげるわ。ありがたく思いなさい」

「は? どういう風の吹き回しだ?」


 俺はきょとんとした顔を演じてみせた。

 だが、心の中ではガッツポーズをしている。

 いかんいかん、嬉しさを表情に出さないようにしないと。


「なによ。あたしが雇ってあげるんだから、素直に喜びなさいよ」

「待て待て、だからなんで君が俺を雇うんだよ」


 ああ、やばい。うまくいったことが嬉しくて顔がニヤけそうだ。ここは耐えろ、俺。


「その方が手っ取り早いからよ」

「どういうことだ?」

「国に雇ってもらうんだったら色々手続きを踏まないといけないのよ。志望動機から始まって経歴と実績の有無、実技試験、それに合格してからは軍の一員として動くことになるから、軍の規則を一からみっちり叩き込まれるわよ。それでもいいわけ?」


 俺が設定したこととはいえ、かなり面倒だ。ちなみにこれらをすべてクリアするには一週間はかかる。しかもその期間は自由に動けず、監視まで付くというオマケつき。つまり、どこぞ知れぬヤツを簡単には雇わないということだ。

 こんなの真面目にやっていたら次の戦いに間に合わなくなる。それだけは避けたかった。


「⋯⋯それは、面倒だな」

「でしょ? だからあたしが雇ってあげるって言ってんの」


 俺は顎に手を当て、考えるフリをする。もちろん答えなど最初から決まっているが、あえてそうした。そのほうが自然だろう。


「⋯⋯一ついいか?」

「なに?」

「そうまでして俺を雇う理由は何かな?」


 このくらいは聞いておかないとな。もしかしたら原作と動機が違うかもしれない。


「理由はは三つよ」


 え? 三つも? 原作だと一つだけだったはずだけど。


「一つめは戦に参加してもらうわ。あんたの実力なら本当に戦の状況を変えれる。そんな確信があるわ。国に雇ってもらうのもいいけど、審査の間に状況が悪化するかもしれない。それだと遅いのよ。敵は待ってくれないわ。それにあんただと審査に落ちる可能性があるし」


 これは原作通りだな。あとの二つは何だ?


「二つめ、あたしの護衛をしてもらうわ」

「それ、必要か?」

「万が一のためよ。またあいつらみたいのが現れないとも限らないし」


 たしかにそうだが、ナターリアとてそこらのヤツと比べれば十分強いんだけどな。まあ護衛して特に困ることも無いし構わないけど。


「そして三つめ、あたしをを鍛えてほしいの」

「⋯⋯へ?」

「だから、鍛えてほしいって言ってんの」


 ナターリアは腰に手を当て、偉そうな態度で言ってきた。

 彼女の態度はともかく、これは予想外。

 というのも原作でもナターリアや他の仲間たちを鍛えるシーンはあるのだが、こうやって頼まれるとは思わなかった。


 そもそも原作主人公、リョウ・タチカワという人物は冷血、無愛想、礼儀知らずと物語序盤はかなり歪んだ性格だ。

 ゆえに、仲間との衝突はもちろん、特にナターリアとのケンカは度々ある。だから「鍛えてほしい」と言われるのはもう少し後の話なのだ。


 あーそうか、そうだよな。俺の姿はリョウ・タチカワだけど、中身は伊藤直也だもんな。まず性格が全然違う。さすがにあの歪んだ性格までは演技するのは不可能だ。

 平気で仲間に酷いこと言ったりするし、俺にそんなことできるわけがない。

 たとえやったとして必ずボロが出る。それに今更だ。それゆえなのか、ナターリアの態度に少し原作と違いが出てきているのかもしれない。


「一つ条件があるな」

「な、何よ。――はっ!? だ、ダメよ! そういうのは!」


 ナターリアは頬を紅潮させ、両手を胸の前に出して拒否感を露わにする。


「⋯⋯まだ何も言ってないんだけど。勝手に妄想するのはやめてくれ」


 この子は一体今、何を妄想したのか。聞くと後悔しそうなので聞かないが、俺を鬼畜外道とでも思っているのだろうか。


「前金だよ。路銀が尽きそうだって言っただろ」

「あ、そ、そうね。そんなこと言ってたわね」


 自分の早とちりが恥ずかしくなったのか、ナターリアは顔を俯けた。


「そ、それで、いくら欲しいのよ」

「⋯⋯そうだな。金貨一〇枚でどうかな」

「じ、一〇枚!? 高すぎるわよ!」


 ナターリアは目を見開く。

 この世界では銅貨一〇枚で銀貨一枚、銀貨一〇枚で金貨一枚の価値がある。

 前世の日本基準だと金貨一枚で一万円の価値となり、つまり俺の要求額は日本円で一〇万だ。ちなみに白金貨というのもこの世界にあるが、価値にして金貨一〇〇枚分になる。

 原作通りの要求なんだけどな。まあ、原作でも高すぎるって言われてるけど。


「戦場に赴くうえに、他にも要求があるんだ。これくらいの前金は取るよ」

「せめて半分にならないかしら」

「⋯⋯特別だぞ。その分依頼達成時の報酬は弾んでくれよ?」

「それはあんたの働き次第ね」

「それなら問題ないな」

「ほんっと、あんたのその自信はどこからくるのよ」


 ナターリアは呆れ顔になった。本当にころころ表情が変わるな。見ていて飽きない。


「それは証明しただろ?」

「あ、あれぐらいで調子に乗るな!」


 怒られてしまった。じゃあ「あれぐらいにやられそうになっていたのはどこの誰だよ」って言ってやりたかったが、さらに怒るのは間違いないので言わない。


「ほら、これが前金よ」


 ナターリアに手渡され、ズボンのポケットにしまった。


「しかしこれじゃあ、毎日宿に泊まればすぐに金が尽きるな」

「それなら問題ないわ」

「なんでさ」

「城の宿舎の一室を貸してあげるわ」


 よし、これで完璧だ。これで原作と同じ流れで話が進んでいくだろう。だが、護衛やる以上、同じ部屋の方が良いんじゃないのか。


「君と同じ部屋じゃないのか?」


 その瞬間ナターリアから白い目を向けられた。


「は? あんたバカなの? ヘンタイなの? 頭おかしいんじゃないの?」


 酷い言われようだな、おい。


「護衛任務ならその方が良いんじゃないのか?」

「そこまでしなくていいわよ! まったく」


 護衛任務とは一体。いや、その程度の護衛でいいと言うことか? それなら失言だったな。


「いいからついてきなさい。宿舎まで案内するから」


 そう言ってナターリアは歩き出したのでそれについていく。

 さて、城の宿舎に着いたら彼女に出会うはずだ。どんな感じになっているのか楽しみで仕方がない。

 俺は期待に胸を躍らせていた。

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