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第29話 溜まっていた鬱憤を吐き出させる

 翌日、相変わらず俺は鍛錬をしている。

 今日はレナが部隊編成の割り振りなどで会議があるらしく不参加だ。

 かわりにナターリアが朝だけ時間があるとのことなので一緒に鍛錬している。

 原作だとこんな頻繁に鍛錬を付き合ったりはしない。このことに関してはかなり原作とかけ離れているが、この先の未来(ストーリー)に影響はないと判断してるし、依頼の件もある。だから一緒に鍛錬しているのだ。俺自身も良い鍛錬になるしな。


「はぁぁぁあ!」


 気合と共にナターリアは俺に接近しダガーを突き出してくるが、それを躱して反撃の一閃を彼女の脇腹に叩き込んだ。


「きゃあ!」


 ナターリアは横に吹っ飛び倒れこんだ。もちろん訓練用に刃を潰してある剣を使っているので、大事には至らない。――それでも結構痛いだろうけど。


「攻撃が素直過ぎる。それじゃあ反撃してくれと言ってるようなもんだぞ」

「くっ、まだよ!」


 ナターリアは立ち上がり、肉薄してくるが、彼女が繰り出す攻撃を躱す、受け止める、そして反撃してナターリアは再び倒れては、また起き上がり向かってくる。


 ⋯⋯おかしい、彼女は冷静さを欠くと単調な攻めになりやすいのはここ数日でわかったが、それを考慮しても動きが変だ。

 ただ単にがむしゃらに向かってくるだけ。そこに攻めの工夫とかは感じられない。


 その証拠に――


「ああっ!?」


 足払いをしてやり、彼女は向かってきた勢いそのまま、ヘッドスライディングするかのように派手にずっこけた。


 ナターリアは上体を起こし、こちらを睨みつけてきた。青いその眼には怒りを感じる。


「ふざけてるの?」

「ふざけてなんかいない。こんな足払いに引っかかる君が悪い」

「っ! まだよ、もう一回!」

「いや、一旦休憩しよう」

「いやよ、まだやれるわ」


 ナターリアは敵意むき出しの表情をしている。


 俺はため息をつき、両手に持つ剣を後ろに放り投げた。


「どういうつもり!」

「今の君ならこれで十分ってことさ」

「バカに、するなぁぁあ!」


 ナターリアは突進し、斬り付けようとするが、俺は彼女が持っているダガーを蹴り上げ、ダガーは宙を舞う。


「あっ!?」


 ナターリアがそれに気をとられている隙に後ろへ回り込み、足払いで彼女を仰向けに転ばせ、そして落ちてきたダガーをキャッチし、彼女の首元へ突き付けてやった。


「休憩しろ」


 俺は少し声を低くして言うとナターリアは、


「⋯⋯わかったわよ」


 と絞り出したかのような声で返事をする。その顔は今にも泣き出しそうだった。


 とにかくナターリアを砦の入り口にある階段に座らせ、俺はその隣に少し間をとって座る。


「⋯⋯いったいどうしたんだよ。今日の君は何か変だぞ」

「⋯⋯」


 ナターリアは俯き、黙ったまま何も言わない。


 ――昨日レナが言っていたことを思い出した俺は空を見上げながら彼女が喋るのを待つ。


「――ねえ」

「ん?」


 どのくらい待ったかわからないがようやく喋る気になったみたいだ。

 下手にこちらから聞き出そうとするとかえって何もしゃべってくれないからな。こういう場合待つのが一番無難だ。


「あんたってどうしてそんなに強いのよ⋯⋯」

「どうしてって、そりゃあ鍛錬の賜物ってやつだな」

「⋯⋯あたしだってちゃんと鍛錬してるわよ」

「ナターリアは軍に入ってからどのくらい経つんだ?」


 昨日レナから聞いてるし、俺自身知ってることだけど、ここは知らないふりをしておかないと色々面倒事が起きかねんからな。


「三年よ」

「じゃあ、年季の差かな? 言ったと思うけど俺は十年間鍛錬してきてるから」

「そんなのはわかってるわよッ」


 じゃあ何だっていうんだよ。


「くやしかったのよ⋯⋯」


 ナターリアはつぶやくように言った。


「あんたと鍛錬積んでいく中でその気持ちがどんどん大きくなっていったの」


 俺は黙ってナターリアの話に耳を傾ける⋯⋯。


「あたしさ、小さい頃から魔法が使えてさ。いつかこの力で皆を守るんだって思って入隊したの。この国だと魔法使える人は珍しいから。でもね――」


 そこから先は昨日レナが話していた内容と同じだった。初めは周りからバカにされてたけど必死に努力して隊長まで成り上がった、と。もちろんレナとの絡みに関しては言わなかったけど。


「でも、暗殺者にはやられそうになるし、ナポス砦奪還の時も囲まれてピンチになるし、その度にあんたに助けられて、あたしの努力って何だったのよって思って――ううっ」


 とうとう泣き出してしまったよ。参ったな、原作だとこんな場面はないからどう対処すればいいのかわからん。

 優しく抱きしめてやればいいのか? いや待て、ナターリアでこの場合、その行動は絶対に違う。

 ――そういえば『泣いたらすっきりした』とか昨日レナが言ってたな。


「この際思いっきり泣けば? 思っていること全部吐き出してしまえよ」

「じ、じゃあ、ぐすっ、思いっきり言うわよ⋯⋯!」


 ナターリアは大きく息を吸い込み――

「なんであんたはそんなに強いのよぉぉぉお!!」

 と、空に向かって叫んだ。


 そんなこと言われてもねぇ。


「おまけに魔力二種類持っていてしかも光属性持ちだなんてインチキじゃないのよぉぉぉお!!」


 そこはいわゆる主人公補正ってやつだ。

 ちなみにこの世界では魔力属性二種類持ちはそれだけで才能があると言われるぐらいで、さらに言えば光属性を扱える人はかなり貴重だからな。

 わからんでもないけど、それでそんなに嫉妬してると後々俺を殺したくなるんじゃないか? この子。


「人の頭気安く撫でんじゃないわよぉぉぉお!!」


 うっ! まだ根に持ってたのか。


「人の裸を見たドスケベめぇぇぇえ!!」


 やめて! それは俺に効く、あれは事故――いや、俺の不注意だけどその後フルボッコにされたのマジでトラウマだから! やめてくれぇ!


「むっつりスケベ! ド変態! 女の敵! エルヴィラの胸見てんじゃないわよ!!」


 そこまで見てたんかい、エルヴィラの胸に目行ったの一瞬だったはずなんだけど。⋯⋯もう、勘弁してくれませんかね? わかってたけど俺に対する文句しかないし、そんなふうに思われてのか、⋯⋯俺が泣きたくなってきたよ。


「はぁ、はぁ、あーすっきりした!」


 すっきりしたようで何より。俺はかな~りブルーですけどね⋯⋯。


「落ち着いたか?」

「まあ⋯⋯ね」

「それじゃあ俺から一言いいか?」


 ナターリアは身構える。俺が怒るとでも思っているか? それなら違うぞ。


「俺は君を羨ましく思うんだけどな」

「え、どうして?」


 ナターリアはキョトンとした顔になる。


「君は前に『何となく魔法を使ってる』って言ってたな。それ、かなり凄いぞ」

「そうなの?」

「ああ、俺も独学だけどさ、ここまで扱えるまでには苦労したんだよ」


 ナターリアは信じられないと言わんばかりの顔だ。


「正確には俺も小さい時父さんに習ってたけど、その時は全然ダメだった」


 こういうこと言う度に原作の話で俺が言う分には嘘んだよなって思う。仕方がないとはいえ罪悪感がある。


「そうだったのね。意外だわ」

「ナターリアは誰かに魔法を教えてもらったのか?」

「ううん。いつの間にか出来てた」

「だろ。だから凄いんだよ。おまけに俺が教えたことすぐに出来るようになるしさ」

「それはあんたの教え方が良いんじゃない?」


 だとしたらレナもすぐに出来ると思うんだけどな。でも実際はそうじゃないしな。


「いや、ナターリアは魔法の才能がある。だから焦るな、君は必ず強くなれる。俺が保証する」


 そう言うと彼女は少し笑みを浮かべる。


「あんたがそう言うんなら信じてみる」


 ふう、なんとかなったな。

 ――でも、悪口言われた仕返しはさせてもらうぞ。


「頑張れ。君ならやれるさ」


 そう言いながら俺はナターリア頭に手を置いた。

 その瞬間、ナターリアの顔はみるみる紅潮する。


「だ・か・ら! 気安く触んなって言ったでしょうが!!」

「ぶふぉお!?」


 ナターリア渾身の右ストレートが俺の頬に炸裂し、吹っ飛ばされた。


「まったく、調子に乗るな!」


 なんて良いパンチなんだよ⋯⋯。模擬戦時もそのくらいやってくれないかなぁ。

 俺は意識が朦朧としている中――


「⋯⋯本当はくやしかっただけじゃないの」

「え?」

「パクス王国領最南にある港町にあたしの両親が暮らしているのよ」


 ナターリアは沈んだ表情になる。


「でもそこは⋯⋯」

「うん、もちろん帝国が支配してるわ」

「両親は無事なのか?」


 彼女は頭を横に降る。


「最南まで行くと状況は全くわからないわ」

「そうか」

「だから両親を早く助けたいの。そのためにもあたしはもっと強くなりたい。でも、気持ちだけが先走っちゃって、バカみたい⋯⋯」


 ナターリアは自嘲するが、どこか晴れ晴れした表情へと変わっていった。


「さあ、休憩終わり! 続きを始めましょ」


 彼女は勢いよく立ち上がり、仰向けに倒れていた俺も起き上がって鍛錬を再開する。

 どこか吹っ切れた彼女はさっきと比べ、格段に良い動きをしていた。


 この分ならそろそろナターリアには【魔力開放(フルスロットル)】を教えても良い頃合いだな。

 体得すれば確実に大きく成長するきっかけになるはずだ。

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