第27話 町へ出かける
ナポス砦から南に行軍するまで後七日。
結局昨日はエルヴィラが来て軽く騒いだ後、ナターリアもレナも鍛錬する気が削がれてしまったため、その後は一人ぼっちで鍛錬を続けた。
今日はナターリアが忙しく、鍛錬に参加できないらしいので、レナと二人っきりで鍛錬していた。
エルヴィラはどこで何しているのか知らない。
最初は軽く模擬戦をして今は魔力制御をを見てやっているところだ。
「いきなり魔力循環を速めずにもっとゆっくりと少しずつ速くしていくんだ」
「おう、やってみる」
レナはまだまだ魔力制御がうまくない。このままでは【魔力開放】すら発動することができないだろう。
原作だとそう遠くないうちにできるようになるのだが、早く習得できればそれに越したことはない。だから見てあげている。⋯⋯まだ【魔力開放】については教えてないけど。
「そうそう、そうやって少しずつでいいんだ。慣れてきたら徐々に循環速度を上げていけばいいよ」
「話かけんな! 今集中してるから」
怒られたのでしばらく無言でレナの様子を見ていた。
⋯⋯うん、数日前と比べれば少しはマシになってきているな。
それから昼近くまでレナの魔力制御鍛錬を見てやり、この後彼女は砦から北東にある町、ローカに用事があるらしく、鍛錬はここで終了する。
さて、砦の食堂で飯食ってまた鍛錬するかと思った時、レナに話かけられる。
「なあ、リョウ。昼飯食ったらまた鍛錬するのか?」
「そのつもりだよ。他にすることもないしな」
「だったら一緒にローカに行かないか?」
「え、なんで?」
思わず疑問で返してしまった。なぜならレナは南領地奪還のために人員補充、調整のためにローカにある王国軍事施設に行き、担当者と協議することになっているはずだ。俺は関係ないはず。それに原作で誘われる展開はない。
「だってさ、リョウはここに来てから朝から晩まで鍛錬しかしてないじゃないか」
「他にすることがないからな」
一応ナターリアの護衛依頼はあるのだが、四六時中彼女と一緒にいると他の兵から視線が痛いしナターリアからも「頼んだ時だけでいいわ、ずっと居るとウザいし」と言われてしまった。ウザいはあんまりだろ。
⋯⋯護衛依頼って一体何だったんだ? ホントに。 これは推測だが、あの時双子姉妹にやられそうになったため半ば勢いで依頼してしまったんだろう。
「鍛錬ばっかじゃつらいだろ。息抜きも必要だぜ」
「そうは言ってもな⋯⋯」
俺はこの先の戦いに向けて少しでも強く、そしてこの体と魔力の扱いにももっと慣れないといけない。敵は待ってはくれないんだ。それにそろそろ奴にナポス砦での一件について報告が届いている頃だろう。
なら数日後には戦いが起きる。息抜きなんてしている場合じゃない。
「だあぁぁあ! もう! お前見てっと以前のリアを思い出すんだよ! いいからあたいに付き合え!」
⋯⋯ここまで言われるとさすがに断りづらい。俺は今日ここを離れても大丈夫なのか、この先原作で起こることを思い出す。
――今日なら問題ないな。それに今、気になること言ったし。まあいいか。鍛錬ばかりでつらかったのは事実だしな。
「わかった。行くよ」
「じゃ、馬借りて行くぞ」
「俺、馬なんか乗ったことないぞ」
「あーそうだよなぁ。⋯⋯仕方ねえ二人乗りで行くか。少し待ってろ」
そう言ってレナは馬小屋に向かって行った。そして少しして馬に乗って戻ってくる。
「後ろに乗ってくれ」
「えっと、やっぱり後ろなのか?」
「乗ったことないんだろ? あたいの後ろ以外どこに乗るんだよ」
「⋯⋯だよな」
俺は渋々レナの後ろに乗る。
「よし、行くぞ。しっかり掴まってろよ」
「あ、ああ」
俺は遠慮気味にレナの肩に掴まった。
「もっとしっかり掴まれって、飛ばすから振り落とされっぞ」
「そうは言ってもな⋯⋯」
「うん? もしかして照れてんのか?」
レナはニヤついた表情でこちらを見てくる。
「べ、別にそんなんじゃないって」
「くくっ、リョウもこういうのは恥ずかしいのな」
「悪いかよ、普通は位置が逆だろ」
普通男女で馬に乗るなら男が前で馬を操り、女がその後ろで掴まるのが一般的のはず。これでは格好がつかない。
「気にすんなって。ほら、しっかり掴まれよ」
「わかったよ⋯⋯」
俺はレナに密着し両腕をレナの腹部へと回した。⋯⋯やっぱり恥ずかしいなこれ。それに密着しているせいで顔にレナの髪が触れてくすぐったいし、なにやら良い匂いがする。女の人ってこんな良い匂い放ってんだな、不思議だ。
「よし、行くぞ!」
レナは手綱を引き、馬を走らせた。思った以上に飛ばすので途中で馬がバテないか心配だったがそこはうまいことペース配分したらしく、問題無くローカへと着いた。
町の入り口で馬を預け、中へと入る。
ナポス砦に向かう途中の時は町に入ることがなかったため、今回が初めてだ。
町の建物のほとんどはレンガ作りになっており、通路もレンガで敷き詰められている。
それもそのはず、ローカは良質なレンガで世界的に有名なのだ。そのため世界各地に輸出されており、パクス王国の経済にも大きく貢献している。
レンガ作りの建物と通路、その統一感は美しいの一言しか出てこない。もちろん俺が描いたのとそっくりだが、こうしてリアルで見ると感慨深い。
「時間も時間だ、先に昼飯にすっか。安くてうまい店があるんだ、そこに行こうぜ」
「俺は何もわからないからな。任せるよ」
「おう、店はこっちだ案内するぜ」
レナについて行き、やがて商店並びにある建屋へと入った。昼時だからか結構賑わっている。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「ああ、二人だ」
「ではこちらのテーブルへどうぞ」
ウエイトレスに案内され俺達は二人用のテーブル席に着席する。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
ウエイトレスはそう言い、業務へと戻っていった。
「さて、何食うかな」
レナはテーブルの上に置いてあったメニュー表を眺めているので俺もメニュー表を取り、注文する料理を決める。そしてウエイトレスを呼び、料理を頼んだ。
しばらくするとテーブルに料理が運ばれてきた。
「さて食うか。久しぶりにこの店の料理にありつけるぜ」
そう言うレナに運ばれてきた料理は――肉! とにかく肉だ。というか肉料理しかない。しかも量が多い。
俺も肉は好きだが、さすがにこの量は見てるだけで胸やけしそうなくらいだ。
「どんだけ食うんだよ⋯⋯。しかもほとんど肉じゃないか」
「そういうリョウは⋯⋯サラダにスープ、それにパスタかよ。もっと肉食わねぇと力つかねぇぞ」
「バランスの取れた食事は大切だ」
「ふーん、あたいは気にしたことねぇな」
そう言いながらレナは料理を食べ始めたので俺も食べることにした。
――おお、普通においしい。
砦での飯はまともな料理が出てきたが、味は大したことなかったからな。それと比べるのもアレだが、断然こっちの方が良い。
町に出てきて良かったな。誘いを断っていればまた当分はうまい飯にあり付けなかったかもしれない。
食べながらレナを見た。
⋯⋯随分と豪快な食いっぷりだ。ただ女性としてその食いっぷりは少々はしたないぞ。
さっきから「うめー」とか「この肉汁サイコー!」としか言ってないし。――あ、追加注文しやがった、どんだけ食う気だよ、君は。
それから俺達は食事を続け――
「このステーキもう一つ追加頼むぜ」
「まだ食う気か!」
「そういうリョウこそ結構食ってるじゃねぇかよ!」
「いや、食える時にしっかり食っておかないと思ってな」
テーブルには結構な皿の数が積み重なっている。
⋯⋯結局のところ俺も結構な品数を追加注文してしまったのだ。――というのも久しぶりに、いや、この世界に転生して初めてうまい料理を食べたせいか、食が進んで仕方がなかった。
ただ俺自身もこれだけ食えたのには驚きだが、よくよく思うと当然だった。
まず一つ。この体は一七歳、つまりまだ食べ盛りだ。そして二つめ。意外とリョウは大食漢だったりする。原作でもその体格に似合わない食べっぷりを披露し、仲間が驚くというシーンを描いているからな。
こんなところまでちゃんと原作から反映されているとは実に細かい。
「ふう、食った食った」
「さすがに少し食い過ぎたな⋯⋯」
調子に乗り過ぎた、腹が重く、少々苦しい。
それと二人共食うのに夢中になっていたため、全然話をしていない。俺がローカに来た理由は単に息抜きしに来たわけじゃない。
さっきレナが言っていた『お前見てっと以前のリアを思い出すんだよ!』の部分が気になっていた。
いや、すご~く心当たりがあるけど、もしかしたら違う内容かもしれないし、全く原作と同じかもしれないけど。
でも今後ナターリアと接する時に何か役立つことが聞けるかもしれない。
「なあ、さっき言ってた『以前のリアを思い出す』ってなんだ?」
「あ、あれか。うーん」
レナはしばらく悩み、そして口を開いた。
「誰にも言うなよ? もちろんリア本人にもだ」
「ああ、約束する」
「わかった。なら話すよ」
そう言ってレナは以前のナターリアについて語り始めた。




