第25話 特にやることもないので鍛錬する
砦奪還から一夜明け、ナポス砦の外――今日も朝から鍛錬に励んでいる。
そこへレナとナターリアがやってきた。
「お、今日もやってんな」
「あんたって暇さえあれば鍛錬してるわよね」
「来たな。じゃあ、早速始めようか」
さて、今日は【魔力隠蔽】について教えることにしよう。
原作だとこんな頻繁に教えたりするのはもう少し後からの話だが、彼女たちに万が一のことがあってはならないからな。基本的なことから教えていくつもりだ。
「――それでやり方なんだけど、以前教えた魔力制御の鍛錬は少しは慣れたかな?」
「教えてもらった時より良くなってると思うわ」
「あたいも、少しづつだけどできるようになってるぜ」
ちゃんと鍛錬しているみたいだな。
「じゃあ今度は魔力循環を意図的に遅くするんだ。そうすることによって魔力が小さくなっていく。これが【魔力隠蔽】なんだ。そして循環を遅くすればするほどより完璧な【魔力隠蔽】になる。まずはやってみよう」
二人は【魔力隠蔽】の練習を開始する。そして程なくして――
「こんな感じかしら」
ナターリアから感じる魔力が小さくなっていく――そして一般人と変わりないくらいまで魔力が小さくなった。
「すごいな。もうできたのか」
俺は感心する。
原作でもナターリアは魔力制御にセンスがあり、基本的なことはさくさく習得していくのだが、まさかここまで早いとは思わなかった。
ちなみにレナは相変わらず苦戦している。
「ふふ、【魔力隠蔽】に関してはあんたと並んだかもね。もうちょっと練習したらあんたより上手くなるかも」
「へえ、じゃあこのくらいはやってもらわないとな」
【魔力隠蔽】状態になる。そして一般人まで小さくした魔力をさらに小さくしていく。――つまり魔力の循環が極端に遅い状態だ。
「え? こんなに近くにいるのにあんたから魔力を全く感じないわ」
「ここまでやれれば【魔力探知】で気付かれることはまずないはずだ」
以前双子姉妹サラ、サリーと戦う前に使った【魔力隠蔽】がこのレベル。
さらに【魔力隠蔽】は魔力属性も判別しづらいのだ。もちろん質によるけど。
「あんたってなんでそんな色々できるのよ! むぐぐ、くやしー!」
それは俺も知らん。原作者だからなのか、俺自身にセンスがあるのか、あるいはこの体だからなのか――もしくはそれ全部ひっくるめてなのか。なぜかできるんだよな。
「伊達に十年も鍛錬積んでるわけじゃないさ」
⋯⋯もちろん原作の話だけど。
「そんだけやってれば強くなるはずだよ。あたいらとは年季が違うや」
レナが苦笑いしている。
――その後、ナターリアが俺の【魔力隠蔽】に追いつこうと練習を続けてていたが、俺に敵うことはなかった。まあ、焦らなくても練習を続けていれば上達していくはずだ。
――鍛錬を中断し休憩している時、ナターリア話しかけられる。
「そうそう、あんたの報酬についてなんだけど、とりあえず今はこれだけ渡しておくわ」
ナターリアから硬貨が入った袋を渡され、中身を確認する。
「中身は金貨二五枚よ。確認して」
俺は袋の中身を取り出し、しっかり金貨二五枚入っていることを確認した。
「数は合ってるな」
「本当はもっと渡したいんだけど、今手持ちがないから残りは後日に渡すわ」
「わかった」
俺としてもこんなタイミングでこれ以上の大金渡されても置き場所に困るからな。残りは気長に待つことにしよう。
「さて、もう少し続けるか」
俺は立ち上がり、背伸びしてから鍛錬を再開した。
「じゃ、あたいらはもう行くぜ」
レナはそう言い残し、二人は砦内へ戻っていった。
その後も俺は鍛錬を続ける。⋯⋯ぶっちゃけ暇だからな。傭兵である俺は特にやることなどないのだ。
こうして昼過ぎまで鍛錬し、昼食を食べ、その後もう少し鍛錬し、終えた後は砦内をぶらぶらしてしていた。
そして夕食の時間になり、俺はナターリア、レナと食事しながら今後のことを聞いているところだ。
「ふーん、十日後か」
「ああ、それまでに人員を補充して部隊を再編制するんだ。そんで準備が整い次第、砦から南側の町を順に開放するため攻勢に出るんだ」
砦を奪還したとはいえ、こちらの被害もそれなりに大きかった。ここでしっかり態勢を立て直す必要があるだろう。
「やっとこっちから打って出られるわね。今まで苦汁を舐めさせられてきたんだから借りはきっちり返すわ。――いや、倍返しよ!」
ナターリアは気合入っているな。入れすぎて空回りしないでくれよ。
「ところでリョウ、聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん? どうしたレナ」
「リョウさえ良ければ兵を貸そうと思ってさ、どうだい?」
「いや、いらないな。俺は一人で動く方が性に合ってるし、何より指揮を執ることに関しては素人だ。そっちは任せるよ」
兵なんて借りたところで俺の速さについてこれるわけないし、兵たちのお守をするのが面倒だからな。
「そうかい――まあ、リョウならいらないよな。でも必要だと思ったら遠慮なく言ってくれよな」
「そうするよ」
夕食を終え俺は一人、砦から抜け出し、少し離れたところに来ていた。
「ここまで離れれば【魔力探知】されることもないはずだな。――さて、やるか」
俺は【魔力開放】を発動し鍛錬をする。砦の近くでやると彼女たちが感づいて敵襲と勘違いするからな。
――ひたすら刀を振り続ける。早くこの感覚に慣れておかないといけない。通常状態と【魔力開放】状態ではやはり体の感覚が違う。この差が命取りになることもあり得るからな。
それと、もう少し二人が魔力制御が上手くなったら【魔力開放】も教えてやらないといけない。
これから先の戦いで必須になってくる技術だ。そもそも基本的なことだしな。もちろんこの先戦う敵も使ってくる。なるべく早く二人が習得できるよう俺も頑張らないとな。
「――ふう、今日はこのくらいにしておこうかな」
鍛錬を終え、部屋に戻り最後に魔力制御の鍛錬を行う。それも終え、部屋にあるシャワーを浴び、そして床に就く。
ちなみに一般兵は数人での相部屋だ。いや、マジで個室はありがたい。おかげでゆっくり休める。
シャワーも設置されてるし、言うことなしだな。
ベットで少しこれからのことについて整理する。十日後か、原作と同じだな。さて、ここからは極力原作を再現していく必要がある。
特に要所でしくじれば取り返しのつかないことになるかもしれない。
自身の行動と言動には十分注意しよう。




