第2話 魔物を討伐する
【魔力探知】で感じた通り、ワイルド・ウルフの数は五匹だった。
ワイルド・ウルフは集団で狩りをし、全身茶色の毛で覆われているのが特徴だ。
戦闘能力自体は低いもの集団で襲ってくるため力のない女や子供は奴の餌食になってしまう。
だが、敵数にもよるが、城の兵士とか傭兵であればさほど苦労することなく、普通に倒すことができる。いわゆる雑魚だ。でも俺は戦闘経験などない。
反射的に逃げだしたがすぐに回り込まれ、奴らに囲まれてしまった。このままでは奴らの餌になってしまう。
とにかく戦うしかない。剣術なんて素人だが、何もせず食われるよりマシだ。
慌てて抜刀しようとするが、それより魔物たちの方が速い!
真正面にいるワイルド・ウルフが飛び掛かってきた。
だが、その動きは遅い。
――いや違う、遅いのではなく、遅く見えているのだ。
明らかに動体視力が向上している。この姿に転生したおかげか。俺は難なく上体を逸らして攻撃を躱す。
その後もワイルド・ウルフたちは上手く連携し、襲いかかってくるが、それを巧みに避けていく。
⋯⋯おかしい、必死とはいえ、俺にこんな動きができるか? ただの漫画家だった俺に。
その時女神の言葉を思い出した。
『あの姿に相応しい力と潜在能力はありますから、後は貴方次第です』
そんなこと言ってたな。ということは戦えるはずだ。隙をみて両腰にある刀を抜刀した。
「恨むなよ。仕掛けてきたお前らが悪い」
足を肩幅より少し大きめに開き、腰を落とし、前傾姿勢になる。
刀を持つ両手はそれぞれ体の左右斜め後ろに構えた。両腕は後方にほぼ伸びきった感じで、刀は左右地面に対し水平に構える。
これがリョウが敵に対して突っ込むときによく使う構えだ。
正確に言うと俺がそういう場面でよく描いていたと言うのが正しいか。⋯⋯適当に構えたにしては妙にしっくりくる。
――正面の二匹が同時に飛びかかってくる!
俺はそれに合わせるようにほぼ同時に突っ込み、二匹の間をすり抜けながら双刀でそれぞれ斬り裂き、二匹は絶命した。
そして右に横っ飛びし、その勢いで双刀を振り抜く。
その場にいたワイルド・ウルフは頭、上半身、下半身、綺麗に三つに切断される。
今度は後ろから一匹が俺に牙を向ける。
だが刀を振り抜いた勢いを利用し、体を捻らせワイルド・ウルフの顔面を蹴り上げ、瞬時に接近し、左手の刀で斬り伏せる。
そして素早く納刀し、最後の一匹に左掌を向けた。
「【シャインショット】!」
光弾が最後のワイルド・ウルフの胴体を貫き、力なく倒れた。
これであっという間に五匹倒したことになる。
「なんとかなっ――っ!」
背筋に悪寒が走った。
辛うじて生きていた一匹が最後の力で飛び掛かってきている。
瞬時に振り向くと同時に斬り伏せ、ワイルド・ウルフは息絶えた。
「危なかった、油断大敵だな」
今度こそ起き上がってくる気配はない。俺は刀を納刀し、安堵の息をついた。
⋯⋯不思議な感覚だった。魔物たちの攻撃を躱すときもそうだったが、刀を振るう時もどう動けばいいのかわかった。これが神が言っていた[力]か。
これなら、魔物などに襲われても対処できる。
でも、できる限り戦いたくはない。
俺は前世、何十年も戦争のない平和な日本で暮らしてきたんだ。こういうことは初めてだしあまり慣れたいとも思わない。
とはいえ、俺はこの世界を救うために転生した。いや、正確には強制的に転生させられたか。なんにせよ、これからも戦いは避けられないだろう。
「どうせこのまま何もしなければこの世界は消滅するし、前世で俺が生きた証[ウェイク・オブ・マジック]の存在を消されないようにしなければ」
⋯⋯覚悟を決めないといけない。この先相手にするのは魔物だけではないのだから。
気を取り直して町に向かって歩きだした。移動中、町に着いてからどう動くか考えていた。
俺の予想が正しければ、今向かっている町はセレスというところだ。
もし、原作一話と今の時間軸が合っているとすれば、あの町で彼女に出会うはず。
それなら町に着いたらまずは彼女を探すことから始めよう。もしかしたら原作と同じ流れになるかもしれない。
さっき現れたワイルド・ウルフ五匹も原作で同じタイミングで戦っている。偶然で済ますには早計だろう。
日が傾き始める前に町に到着した。
さて、彼女がいるか探してみよう。後、俺の顔もどうなっているのか確かめたいところだ。