第13話 どうしてこうなった
翌日、朝から鍛錬に励んでいた。特にやることもないからだ。
途中、ナターリアとレナが鍛錬に加わったので昨日同様に手合わせをし、今回はレナも見てあげた。
これはありがたい、ナターリアとレナでは戦い方が違うので俺にとっても良い経験値になる。
――そんな感じで今日は一日の大半は稽古に明け暮れていた。
たまに兵士たちに話しかけられたりしたが、ナターリアが昨日のうちに俺のことを周りに伝えていたらしく、これなら特に問題になることは無いだろう。
⋯⋯と思ったんだが、たまに話かけてくる兵士のなかに「どうやってナターリア小隊長に気にいられたんだ」とか「手を出したら殺す」など、ナターリア絡みに関してはとにかくうるさい兵士が多かった。
まあ、あれだけ可愛いゆえ、人気なのはわかるが俺に因縁つけたりするのはやめてほしい。
俺とてナターリアに手を出したりなどしない。
俺は前世彼女いない歴=年齢、つまり三八歳独身だったんだ。そんなおっさんが手を出すなど⋯⋯。
あ、俺今この姿だ。じゃあ年齢も一七歳でナターリアも一七歳のはずだから問題無いな。⋯⋯って、いやいや、何を考えているんだ俺は。
俺が描いたキャラ、というか人だぞ? 俺が生み親だぞ? 手を出すなど言わば親が娘にけしからんことをするようなものだ。
そんなのありえんだろう。だから俺がナターリアに手を出すことはない。そんな仲がいいわけでもないし、そもそも原作だとこの時期は非常に仲が悪いのだ。
もちろんレナに対しても同じく、邪な感情を抱きなどしない。
――その夜、俺は宿舎にて偶然会ったナターリアに声をかけられた。
「ちょうどいいところにいたわ。明日話があるから、朝起きたらあたしの部屋まで来て」
「今じゃダメなのか?」
「あたしもまだやることがあって暇じゃないのよ」
「わかった。じゃあ明日起きたらそっちに行くよ」
「朝起きたら必ず来るのよ。わすれないでよね」
ナターリアは踵を返し、歩いていった。
さて、俺は部屋に戻って魔力制御の鍛錬をして寝ることにしよう。
寝坊したらナターリアに怒られるだろうからな。
――翌日。
俺は起床して身支度し、部屋を出る。
昨日言われたとおりナターリアの部屋の前まで来ていた。ドア前に立ち、ドアを開けようとドアノブに手をかけようとした時だった。
何か嫌な予感がし、俺はドアノブから手を引っ込める。
⋯⋯漫画のお約束展開なら、ここでドアを開けると着替え中のナターリアを見てしまうという、いわゆるラッキースケベな展開になすはず。もしそうなれば俺はナターリアにボコボコにされるのは間違いない。
――って俺は何を考えているんだ。ここは現実だぞ。そうそうそんなことがあるわけがない。
いや、待て、そんな展開が原作にあったか思い出してみよう。
⋯⋯うん、無いな。気にしすぎだ。よし、普通にドアを開けることにする。
俺は普通にドアを開けた。
「「え!?」」
ドアの先には一糸まとってないナターリアの姿があった。
「すまん!」
急いでドアを閉めた。が、もう手遅れだ。俺は後悔した。なぜノックをしなかった⋯⋯。それだけで防げたはずなのに。
しかし、ナターリアの裸は綺麗だった。
白い肌に体格に合った大きすぎず、小さすぎない胸。いわゆる美乳というやつだ。そして腰からお尻を通り、太ももまでの曲線美、素晴らしい。
ふっ、さすが俺だ。主要な女性キャラを描くのに一切の妥協してないからな。当然だ。
ってそんなこと思ってる場合じゃないだろ! アホか!
頭を抱えた。この後ナターリアにボコボコにされるどころか殺されるんじゃないか?
いや、解雇させられるかも。それはまずい。てか、どうしてこうなる? 原作でこんな展開無いはずなんだけど。
少しして部屋から着替えたナターリアが出てきた。気のせいだろうか? 彼女からどす黒いオーラが出ている気がするんですけど⋯⋯。
「あの~、ナターリアさん?」
「⋯⋯よ」
「え?」
「あんたはクビよぉぉお!!」
ナターリアは鬼のような形相で叫んだ。
「頼む! クビだけは勘弁してくれ!」
ナターリア懇願した。ここで解雇されたら色々面倒になる。
「うっさい! クビ!」
「うお!?」
ナターリアは俺の首元をダガーで斬りつけてきて咄嗟に身をかがめて躱す。
「クビよ! クビ!!」
ナターリアは執拗に俺の首を狙ってくる。それも正確かつ、無駄のない動きなんですけど!?
俺はたまらずその場から逃げ出した。このままでは本当に殺される。全力で宿舎の外に出たが、ナターリアは凄まじい速さで追いかけてきた!
「【ウィンドエッジ】! 【ウィンドエッジ】! 【ウィンドエッジ】!!」
「ちょ!? 待て! 落ち着け!」
とうとう魔法まで使ってきた。それも俺の首狙いだ。
⋯⋯もしかしてクビって物理的にかよ!? 勘弁してくれ!
どうして原作にない展開になるんだよ! 昨日のレナの件と言い、俺は本当にラッキースケベ属性でもあるのか!? おい! 女神サマよ、まさかそんな属性付けてないよな? それとこれ、なんてラブコメですか? いや、エロゲーと言った方がいいかもしれない。
「⋯⋯朝から何やってんだ? お前ら」
偶々そこにいたレナは呆れ顔になっていた。
――その後、散々ナターリアに追い掛け回された後、何とかクビは免れたが、フルボッコにされた。
俺は今、無様に倒れこんでいる。どこぞの神拳使いのような百裂拳をくらったような気がするが、気のせいだと思いたい。
「いてぇ⋯⋯。ナターリアのやつ、本気でやり過ぎだろ⋯⋯」
あの時、ナターリアの戦闘力は俺以上なんじゃないんだろうか。怒りのパワーとは恐ろしいものだ。
それと去り際に「もうお嫁にいけない⋯⋯」って言っていたけど君はいつの時代の人だよ。
⋯⋯ああ、ここは異世界だった。もしかしたらそういう風習があるのかも⋯⋯。いや、そんな設定作ってないぞ。
「【ヒールライト】」
ナターリアに殴られた傷を癒した。
さて、どうしよう。
いや、どうしようもない。「話があるからさっさと部屋に来なさい!」 とも言ってた以上行かなければならない。
はあ⋯⋯。不注意とはいえ、ナターリアの部屋に行くのは気が重い。
俺は重い足取りで部屋へと向かった。
――ナターリアの部屋に入る。もちろん今回はノックした。
部屋には明らかに機嫌の悪いナターリアとレナもいる。
「まったく。あんたのせいで余計な時間を喰ったわ」
「返す言葉も無い」
「何があったのさ、リア」
「⋯⋯コイツに覗かれた。大事なところ全部見られた」
レナからも白い目で見られた。いや待て、決して覗いてはいないぞ。見たのは事実だけど。
「あれは事故だ。故意じゃないって」
「事故でも見た事実は変わらないわ。レナ~、あたしもうお嫁にいけないよぉ」
甘えた声でナターリアはレナに抱き着く。あ~、レナからも怒られるのか。昨日のこともあるし勘弁してほしいところなんだけど。
「じゃあさ。リョウに貰ってもらいなよ。二人はお似合いのカップルだと思うぜ。にしし」
「ななな、なに言ってんのよぉ!」
ナターリアは一瞬で顔が真っ赤になった。
レナ、頼むからそこでナターリアをいじるのはやめてくれ⋯⋯。いろいろややこしくなるから。
「あ、そうそう。昨日リョウに胸触られたんだぁ。あたいもお嫁にいけな~い」
「なんですって⋯⋯?」
うわぁぁぁぁぁぁぁ! なんでこのタイミングでバラすんだよ!
レナは舌を出してテヘっとしている。昨日のお返しかよ。今じゃなくてもいいだろ!?
「このスケベ、変態、女の敵、あんたはここで死になさい!!」
「ま、まて。話せばわかる話せ――ぎゃあぁぁぁぁ!!」
俺は再びナターリアにフルボッコにされた。
殴られている途中、なんとか流星拳らしき技を受けた気がするのだが、気のせいにしておく。
――そんな感じでぐだぐだになってしまったが、ようやく落ち着いた。なお、ナターリアの裸を見てからここまで二時間くらい経過している。
「――で話って何?」
どんな話かは察しついているのだが一応聞いておく。
「あたしたちはこれからナポス砦に向かうの。千の兵士を連れてね」
「占領されたのか?」
「違うわよ! 今は拮抗している状態ね。でもここを落とされるとかなりまずいことになるのよ」
そう言いながらナターリアは地図をテーブルに広げた。
「これはパクス王国領の地図よ。そしてここがナポス砦よ」
「なるほどな。たしかにここを落とされるとまずいことになるな」
パクス王国は北と南ちょうど半分くらいの場所に東西に山脈がそびえ立っている。そしてそこの一部分だけ山脈が途切れており、そこを塞ぐようにナポス砦があり、軍事的に重要拠点だ。
なぜなら、は帝国は南から攻めてきていおり、北側エリアに攻めるときはどうしてもナポス砦を経由しなければならない。大勢の軍隊で山脈を越えるのは無理がある。故にナポス砦は重要拠点なのだ。
砦を落とされると帝国はここまで攻めてくるだろう。だから、帝国の手に渡すわけにはいかない。それゆえに、なんとか状況を変えるために砦に兵を送り込み、形勢を逆転のしたいのだろうな。
「あんたにも来てもらうわよ」
「もちろんだ。俺は奴らと戦うためにここに来たんだからな」
「なあ、リョウが帝国と戦う理由て何?」
レナが俺に質問してきた。だが、この質問に正直に答えることはできない。
「⋯⋯いずれ、話すときがあるかもしれないけど、今は言いたくない」
「じゃあいいや。無理に聞く気もないしな」
レナは俺にしつこく聞いてくることは無かった。もっとしつこく聞かれると思ったのだが、意外とそうでもないようだ。
「もしかして、あんたが帝国を追っている理由ってあんたのおと――」
「ナターリア、傭兵の過去はむやみに詮索しない。それが暗黙のルールだろ」
「ご、ごめん」
この世界では傭兵の過去を詮索しないという暗黙ルールがあるのだ。
ナターリアも、うっかり質問してしまったらしく、申し訳なさそうな顔をしている。
おそらくお父さんの敵討ちだと思ったのだろう。それは半分正解、半分不正解だ。原作だとたしかに主人公は両親の仇を探しているのだが、俺の場合は違うからな。
「で、いつ出発するんだ?」
「昼には出発するわ。それまでに準備しないと」
「だな。あーめんどくさ」
「もうそんなに時間無いんじゃないか?」
「「誰のせいだと思ってんだよ!!」」
「⋯⋯すまん」
これだけの話をするまでに二時間近くも無駄にした。そのため、二人は準備時間が大幅に削られ、このあと慌しく準備することになる。
⋯⋯どうしてこうなった。ええ、おれがノックしなかったのがいけないんですよ。本当にすみません、お二人さん。




