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第11話 手合わせをする

 俺たちは宿舎の外に出る。外は中々の広さで障害物などは無く、模擬戦をするにはもってこいの場所だ。


「ここは兵士たちが訓練するにも使われているのさ。あっちの小屋に訓練用の武器があるから来なよ」


 レナはそう言って小屋に歩いていくので俺とナターリアもついていく。


「ここの敷地はナターリアもよく使うのか?」

「そうよ。一応、城の中にもちゃんとした訓練所があるんだけど、わざわざ城でやるよりこっちの方が移動しなくていいから楽なのよ。ほとんどの兵士はここを使っているわね」

「そうなるよな」


 俺たちは小屋の前に着いた。随分古い小屋だ。


 レナが扉を開け、中に入っていくので俺たちもレナに続いて中に入った。小屋の中も古びており、掃除がほとんどされてないのか埃っぽく、訓練用の木でできた剣や的などが置いてある。的は弓を射る練習に使うものみたいだ。


「こっちこっち」


 レナが手招きするのでそちらへ向かった。

 レナの元に来るとそこには使い古した武器が並べられている。それらをよく見ると刃先が潰されており、斬れないようになっていた。

 真剣で訓練すると事故の危険があるため、その安全策だろう。どうやらこれを使って勝負するみたいだな。


「ここにある武器でやろうぜ。好きなのを取ってくれ」


 レナはそう言うと自分が使う武器を選び始めたので、俺も探すことにした。

 ――色々見ていくが、使い古されているのと手入れがされていないのか、刀身が所々錆びている武器もある。

 使えそうな武器を探す中、ふと横を見るとナターリアも訓練用の武器を探しているみたいだった。

 ナターリアとは勝負する約束はしていないのになぜだろう。俺は気になったので聞いてみる。


「ナターリア、なんで君も武器を探しているんだ?」

「ついでだからあんたに鍛えてもらうわ」

「任務の報告はしなくれいいのか?」

「後でもできるからいいのよ」

「いいのかよ⋯⋯」


 ナターリアのことだし、本人がいいなら気にしないでおこう。ついでだ、ナターリアとも手合わせしておきたい。経緯は違うけど原作でもここで勝負するし。


 俺たち三人はそれぞれ訓練用武器を手に取り、小屋を出た。周りに兵士の姿はなく、俺たちしかいない。 俺とレナは自分の武器を置き、訓練用武器をもって敷地中央に移動する。


「ルールはレナに決めてもらって構わないよ」

「うーん、そうだなぁ。魔法有りのガチ勝負で――」

「そんなのダメに決まってるでしょ! 危ないし、周りをめちゃくちゃにする気!?」


 ナターリアが大声で制止した。そりゃあ止めるよな、レナの魔法だとこの敷地が悲惨なことになるから、もしナターリアが止めてなくても俺が止めていた。


 レナは唇を尖らせる。


「えー、仕方ねぇな。魔法は無しの一本勝負にするか」

「わかった。それでいいよ」

「んじゃ、始めっか」


 レナと俺は互いに武器を構えた。レナが使う訓練用武器は戦斧ハルバードだ。

 ハルバードは両側に刃が付いており、先端が槍になっていて斬ることも突くこともできる。

 ちなみに俺は訓練用の剣を適当に二本取ってきた。訓練用の刀なんて置いてないからな。


「はあぁぁ!」


 レナはハルバードを振りかぶり、俺に接近し真っ直ぐ振り下ろしたハルバードを右にサイドステップで大きく躱す。

 振り下ろされたハルバードの刃が空を切り、そのまま地面に叩きつけ、轟音がする。割れた地面が飛散するが、俺は飛んできた地面の破片も難なく避けた。

 割れた部分は直径一メートルほどのクレーターになっていて威力の大きさがわかる一撃だ。


「いきなりだな。今の当たったら怪我じゃすまないと思うんだけど」

「⋯⋯余裕で避けておいてよく言うよ」


 その時、離れて見ていたナターリアがレナに言った。


「レナ、あんまりやり過ぎないでよ。後から直すの大変なんだから」

「わかってるって」

「⋯⋯絶対わかってないわね」


 ナターリアがジト目で腕を組みながらレナを睨んだ。


「おりゃぁぁ! でやぁぁ!」


 レナは今度はハルバードを左右に薙ぎ払ってきて、俺はそれを紙一重で躱しながら下がっていく。


 レナはパワーファイターだ。まともに剣で受けても受けきれない。細身の彼女だが、純粋な力だけでみれば、俺より彼女の方が上だ。

 多くの獣人は人族より力が大きい。種族にもよるが、特にレナは獣人の中でも極めて力が高い種族に入る。そういう設定だ。


 レナは左右の薙ぎ払いに振り下ろしも交えて俺に攻め続ける。ハルバードを振り下ろされるたびに地面にクレーターができていった。

 それを見ているナターリアはもう諦めたか、肩を落としながらため息をしている。


「どうしたぁ! 逃げてばかりじゃ勝てないぜ!」


 攻撃を躱しながら下がっていた俺はついに敷地の壁際まで追い詰められた。


「もらったぁ!」


 レナは大きく右に薙ぎ払うが、俺は跳んで回避し、そのままレナの頭上を越え背後に着地と同時に振り返りながら左手の剣でレナの首元を狙う。

 しかしレナも素早く対応し、振り向きながらハルバードの柄で剣を払われてしまった。


「っ!」


 剣を払われた衝撃で左手に痺れるような痛みが走り、バックステップでレナから距離を取る。


 ⋯⋯剣を払われただけでこの衝撃かよ。やはりまともに受けたら押し負けるな。

 原作でもこの模擬戦でまともに剣で受けているシーンは描いていない。無理に原作と違う戦い方をすれば不利になることもあるはずだ。なので原作と同じ要領で戦うのが基本的にベストだろう。


 俺は原作にある台詞を言うことにした。俺は原作の台詞もほとんど覚えている。今あえて言う必要はあまり感じないが、いずれ役に立つ日が来るはず。


「力は凄いが、動きに無駄が多いな。特にここ一番で武器を大きく振り過ぎだ。そんなんじゃ俺にかすりもしない」


 もちろん原作の台詞をそのまま言っただけで、はっきり言って本当にそうなのかわからない。俺は戦闘知識においては素人だからな。ただ単に戦い方がわかるだけだ。

 でも、壁際に追い詰められた時の一撃は明らかに無駄に大振りだった気がする。


「じゃあ、これならどうだ!」


 レナは今度はハルバードの槍の部分で鋭い連撃の突きを放ってきた。


「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ!」


 鋭い突きを連続で出してくるが、それも俺は最低限の動きで躱し続ける。


「くっ! ちょこまかと」

「単調すぎるよ。むやみやたらに突けば良いわけじゃないさ」

「くっそぉぉ!」


 また原作の台詞を言っただけだ。ただ口調はちがうけどな。原作だともっと棘のある言い方だけど、彼女にそんな酷い言い方は俺にはできん。

 それに素人である俺にはレナの突きは凄いと思う。でも余裕で躱せていることから多分言ったことは間違っていないと思いたい。


 ――さて、そろそろ決めるとしよう。ここはとりあえず原作通りにいく。


「でやぁ!」


 レナは渾身の突きを繰り出してくる。――今だ!


 突き出されたハルバードを左手に持つ剣で受け流しながらレナに肉薄し、右手の剣を突き出し、刀身を首筋を触れるすれすれのところで寸止めした。


「なっ!?」


 レナは何が起きたかわからない感じの表情をしている。


「俺の勝ちだね」


 俺がそう言うとレナは持っていたハルバードを手から離し地面に落下する。そしてレナは両手を上げた。降参のポーズだろう。俺はレナに突きつけていた剣を下ろした。


「早すぎて見えなかった。参った、降参だ」


 レナは笑いたいような情けないような一種妙な顔つきだった。ふさふさの尻尾も、だらんと垂れ下がっている。


「いや、レナのパワーには驚いたよ。力は俺より確実に上だと思うよ」


 俺はフォローのつもりで言ったが、多分フォローになってないな。


「慰めならいらないよ。ここまで完敗したのは初めてだからちょっとショックだっただけさ」

「もう少し振りをコンパクトにすれば良くなると思うんだけどね」

「そう言うなら次からやってみる」


 レナは頷きながら言った。そして腕組みをし何かを考え、そして口を開く。


「なあ、リョウ」

「なんだ?」

「あたいにも鍛錬つけてくれねぇかな?」

「ああ、いいよ」

「いいのか!? へへ、ありがとな。これからよろしく頼むぜ」


ちなみにレナからは依頼ではなく頼みとして聞き入れたので、お金を取る気はない。

ナターリアに関しても鍛錬分のお金は取らないでおこうと思っている。こちらとしても鍛錬積むには良い相手を得たと思うし、まあ、お互い様ってやつだ。


「⋯⋯結構やってくれたわね」


 ナターリアは辺りを見渡しながら、ため息をつき、俺の方を見る。


「まあ、穴空いたところはあんたとレナに直してもらうとして」


 俺もかよ。連帯責任ってやつか。


「依頼通り、あたしを鍛えなさい」

「人に頼む態度じゃないと思うんだけどな」

「依頼なんだからあんたは言う通りにすればいいの!」


 ナターリアは腕を組みながら高圧的な口調で言う。まあいいや、とりあえず戦ってみてで彼女の実力をみよう。


「わかったよ。それじゃ、戦ってみようか」

「本気でやらないでよね?」

「出さないよ。出したらナターリアは一秒もたないからね」


 ナターリアは顔を険しくする。


「言ってくれるじゃない」

「事実を言ったまでだよ」


 どうもナターリア相手だとついつい言い返したくなるんだよな。


「そこまで言うなら本気で来なさいよ!」

「後悔するなよ?」


 剣を構える。それに合わせ、ナターリアもダガーを構えた。

 それじゃ、一秒以内で勝つとしよう。特に難しいことではないはずだ。

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