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第1話 見覚えのある恰好になっていた

 ――俺は目を覚ました。

 草むらの上で寝ていて視界には青空が広がっている。


「本当に転生したのか?」


 いまいち実感がない。上体を起こし、辺りを確認したが、一面草原が広がっている。

 ここは本当に俺が連載していた漫画[ウェイク・オブ・マジック]の世界なのか?


「でもこの景色であの世とは思えないしなぁ」


 漫画家であった俺のこと伊藤直也は、井伊ハルスケというペンネームで一八年間[ウェイク・オブ・マジック]を連載していたのだが、最終話の原稿を提供したその日に交通事故で死んでしまったのだ。


 そして目を覚ましたら見渡す限り白い空間に平行世界を管理するとか言う女神が現れて、俺が描いた漫画[ウェイク・オブ・マジック]は平行世界として生まれ、存在し、本来その世界を救うはずの人物、つまりは主人公が生まれる前に死んでしまったと聞かされた。


「つまり何者かによって歴史が変えられてしまったわけか」


 しかもこのままでは[ウェイク・オブ・マジック]の世界は本来進む歴史から外れ、消滅するとか言うし。

 さらにもし消滅したら前世の世界にも影響し、俺が描いたことも()()()()()()ことになるなんて言うもんだから俺にとっては大問題。


「大人気だったのに一八年間の全てが無になるんだろ? 冗談じゃない」


 おまけに転生して世界を救えなんて言うもんだからますますわけがわからん。


 結局、強引に転生させられて今に至る。


「夢なら覚めてほしいよ。まったく」


 そういえば、そのまま転生されそうになった時『せめて戦える姿にしろ』と言ったら女神が『では貴方にはあの姿が一番適している』と言っていたが、一体どんな姿になっているのだろうか。


 立ち上がり、自身の恰好を確認した。

 黒色のズボンに白基調の上着を着ており、左右両腰に刀が帯刀されている。この格好には見覚えがあった。

 次に髪を触ってみる、手の感覚で理解した。間違いなく髪型も変わっている。

 顔は鏡が無いので確認できないが触ると肌触りが違う。最近気になってた小じわがない。


「おいおい。マジかよ」


 驚愕と同時に苦笑した。

 心のどこかで名も無いモブキャラにでもなっているのではと思っていたが、思い違いもいいところだ。

 この格好は[ウェイク・オブ・マジック]の主人公、リョウ・タチカワ以外考えられない。


 あの女神め、とりあえず主人公にしておけばいいとか適当に決めたりしてないだろうな?

 いや、まだそう決めるには早い、まだ顔を確認できてないのだ。顔だけは別人の可能性もある。

 まあ、それでも敵キャラの恰好よりはマシか。


 帯刀している刀も気になったので、とりあえず左腰の刀を抜刀してみる。

 ⋯⋯驚いた。この刀は主人公の武器だ。

 この独特なまだら模様、俺がデザインしたんだ。見間違えるはずがない。妖刀村正だ。

 村正を納刀し、右腰の刀も確認してみた。

 白銀の如く美しい輝きを放っているこの刀、こちらも間違いない名刀正宗だ。

 確認し終えたので正宗を納刀する。


「恰好も武器も主人公と同じだ。じゃあ、魔法は?」


 左手に意識を集中させる。

 すると一瞬、左手に紫電が走った。

 驚きつつも右手に白い球体が発生するイメージをする。

 ⋯⋯本当にイメージ通りになった。

 このままにはできないので右手を握り締め、球体を消した。

 魔法まで主人公と同じとは、それだけに顔が確認できないのがすごく気になるな。


 その後、他にどんな魔法ができるか試したところ、一つわかったことがある。

 使える魔法は連載初期のリョウと全く同じだった。


 しかし、ここはどこなのだろうか。女神が言うには『貴方が描き始めた時期に転生』と言っていた。

 つまり漫画で表すと第一話となる。

 もう一度よく辺りを見渡してみた。

 遠くにぼんやりと町が見える。俺の勘が正しければあの町は主人公が最初に訪れる町だろう。

 他に行くあてもないし、町に向かうしかない。


 町に向かって歩き出す。しばらく歩くと整備された道に出た。

 どうやらこの道をたどれば町に着けるみたいだ。

 日は真上に来ている。今昼過ぎくらいだろうか。 このペースなら日が暮れる前には町に着けるだろう。


 しかし見渡す限り草原、前世では見たことの無い美しい風景だ。大自然と言ったら大げさかもしれないが、広大だ。

 俺はその景色を眺めながら歩いていく。

 少しして何やらこちらに近づいてくる気配を感じた。


「この感覚、もしかして」


 その気配に意識を集中させる。

 なるほど、【魔力探知(サーチ)】も使えるのか。

魔力探知(サーチ)】という魔法は効果範囲内で魔力の持つ人や物を探知する魔法だ。

 これは慣れると無意識で使え、魔力も消費しない。基本的かつ、便利、というより必須魔法だ。熟練するとかなり遠くまで範囲を広げることもできる。


 数は五、こちらに迫ってくるスピードはそれなりに早い。人ではなさそうだ。

 そして視界にそれは見えた。

 狼らしき獣。俺は奴を知っている。

 あれは俺が描いた魔物、ワイルド・ウルフだ。


 ⋯⋯どうやら本当に[ウェイク・オブ・マジック]の世界に転生してしまったらしい。

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