宇宙船が飛び立ったら③
「俺の友達の定義? 俺友達しかいないからわかんないだけど。」
「あんたなんでそんな懐かしいラノベみたいなことやってんの?」
私、ナツこと稲村奈津は笑顔でお弁当を食べている目の前のモモに話しかける。
今日はハルマキは部活の仕事で一緒に弁当を食べることは出来ず、男どもは別なところで食べているので、モモと二人きりでお昼ご飯を食べているのだ。
「何が?」
表情を崩さずにただしらばっくれるモモに軽蔑の視線を送る。
「私、モモのそういうところ、自分だって本当はサンタのこと好きなくせに遠慮するようなところが本当に大っ嫌い。」
それでも笑顔を崩さず箸を進める。
まるで天使のような笑顔で。
「よくわかったね、私がサンタのこと好きなんて。」
「そりゃそうよ、私とあんたの仲じゃない。でも親友だからこそ許せないわね。サンタもあんたのことが好きなのに、なんでそれを無視してまでハルマキとくっつけようとするの?」
今話している彼女が「本物」か注意する。
「別にヒロイン気取りしてもいいけどね、ハルマキに失礼じゃない? 自己陶酔してるやつは死ね。」
「それで?」
「それだけでなく人の気持ちを考えない奴は苦しみながら死ね。」
モモから笑顔が消えた。いつも守ってきた笑顔が。
親友にしか見せない本物のモモが現れたのだ。
達観したふりをしても自分の意思が溢れ出した時に現れるモモは、何を考えているかわからない。
「ありがとう。私はナツのそういう自分が正しいと思ったらビシっと言って叱れるところが好き。」
「私はそういう性格だからね。で、ほんとのところはどうなのよ?」
笑いながらモモに聞く。
モモはいつもと違う、感情が表に出た笑顔で答える。
「別にどうもこうもないよ。私と付き合ってもサンタに得なんかないよ。私みたいなねじ曲がった根暗よりもハルマキみたいにまっすぐ真剣な子と付き合った方がサンタは絶対幸せになる。」
「.........『地球では自分のあるべき姿なんてわかりっこない。』 この言葉は本当ね、なんでそんなに卑屈になるの? 気持ち悪いわよ?」
私はできるだけモモの心を抉るように言葉を選ぶ。
友達として相応しいように。
沈黙。モモは笑顔のままだ。
「誤解しないでね。私は別にサンタのために引き下がるなんて一回も言ってないよ? 私はハルマキを応援したくなったから自分の心に従ってするだけ。何かおかしい?」
モモは笑顔で言うが、目が笑ってない。
実際そんなこと考えていなくても、どうせモモはハルマキにサンタを譲っていただろう。
自分が好いているサンタを、自分を好いてくれてるサンタを傷つける覚悟を持って。自分から悪人になろうとするのだ。優しすぎる。サンタの為を自分の為と嘘ぶいて、自分にもそう嘘を教え込む。
だからこそモモはナツの親友なのだ。ナツがどれだけ公正でも勝てないエゴとエゴを貫く覚悟を持つ、だからモモはナツの親友であり尊敬する人物なのだ。
「それでこそ我が親友。」
ナツは笑って、モモの共犯者になることに決めた。
2月15日の昼休み。