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週刊エビハルマキ  作者: とろサーモン
7/9

宇宙船が飛び立ったら①

「宇宙って楽しそうだけど行って何すんの?野球?俺馬鹿だから勉強はやだよ?」


1.


2月が始まり、白色の寒さが日本を覆った。

雪はなんとなく人々の凍った心を溶かし、センチメンタルを包み、いや、さらけ出す。


薄く雪の積もった道に5人の足跡.......。

真ん中の足跡はまっすぐ。小さな足だがしっかりとした足取りで大股に歩いて行く。

他にも小股な女の子のと思われるまっすぐに進む足跡から、男ものの足跡2つ。

そのうちなんとなくなんの特徴も見受けられない足跡の隣には、妙な足跡がある。

運動靴だろうか、他のに比べてなんとなく特徴的で変わった線の入った足跡は何か迷いが感じられる。

途中で向きがずれたり、歩幅が変わったり.....。


この足跡は誰のものか、ハルマキである。

陸上部のハルマキ、多少歩き方は洗練されていてもおかしくない。じゃあなぜ.......?




2.


高原についたいつもの5人は、望遠鏡を置いて浮きだった足を隠さない。我慢は無粋だ。

この高原は町でも有名な天体観測のスポット、周りにビルなどの邪魔物がいないので星がよく見えるのだ。天体観測をしようという誰かのアイディアから寒さをこらえてやってきたのだが、期待どうりの星空は望遠鏡など必要なかった。

しかし5人は通過儀礼とでも言うように順番にスコープを覗き込んで行く。特に意味もないのに。何か探しているのだろうか。肉眼では見えないようなスペシャルな何かを!


ナツ、オカワリ、サンタ、ハルマキ、モモの順番に望遠鏡前に横並び。カイロで身を温めながら星を見上げる。

誰も喋らない.....。

5人はただ震えていた。ただ、寒さからではない。思春期に特別なことを実行できた喜びにだ。




3.


「そういえば知ってる?今日宇宙船が発射されたそうよ。日本から。」

ナツが笑みとともにふと思い出したように喋る。


「へえ!宇宙船!!俺も宇宙に行きてえなあ!」

オカワリという馬鹿が騒ぐ。


「いいなあ....。」

一つ隣、サンタの隣の隣にいるモモは何かうらやましげにつぶやく。


ハルマキは何も喋らない。何かを一生懸命考えているようで、眼には力がみなぎり無邪気な輝きに満ちていた。僕、サンタは横からその顔を眺めていた。

何を考えているのかなんとなく知りたかった。

しかし、ハルマキの顔からは崩し難い何かを感じて話かけられずにいた。



「宇宙船から見た景色ってどんなかな?」

ふと僕が言う。本当に、自然に出てしまった。

みんなその眼になにを映したのだろうか。誰も何も喋らない。


沈黙をやぶったのはモモだった。

「私は、宇宙なんてみんなの想像とはあんまり変わらない景色だと思う。でもそれは同じ景色だったとしても.....」

「とても綺麗な景色なんだよ。きっと。自分が地球人であることなんて忘れるくらい。いつもの陳腐な想像なんて忘れるくらい。」


「私は多分いつもと変わらないわね。」

続いてナツが言う。

「いつもと同じように宇宙船で生活して、いつもどうりに宇宙を眺めて、毎日同じように『地球は青かった。いうまでもない。タヌキのように青い。』とか言いそう。」


なんかすげーナツらしい。

ナツは人間としてのブレがないんだと思う。

その長所であろう自身への自信があるからナツは自分のペースを崩さないし、崩れないんだろう。

崩れないから、人との違いに悩んで、悩んで、天才だからこその苦労に毎日邪魔されてるんだろう。

自分の思う正しいこと、多分それは本当に正しいんだろうけど、甘くない現実との差に打ちのめされながら、失望しながらナツはナツを守ってくんだろうなぁ。あれ?僕上から目線じゃね?


「なんかそれナツらしいね、いいと思う。」

モモがいつもどうりに可愛らしい笑顔で賛同する。

僕はその笑顔になんとなく罪悪感を感じながら見とれてしまう。

モモは何を考えているのだろうか。今ナツに賛同したのは本物のモモなのだろうか。下に僕達と一緒にいる偽物のモモじゃないのか?モモに対してなんか淡い何かを抱きながらも、とても恐ろしく感じる。

モモの本当の性格の謎もだけど、それよりもモモの精神はとても辛いんじゃないのか?無理しているんじゃないのか?上から俯瞰しかできないなんて....

モモはこちらを見てニコッと笑いかけてくる。


『今、私が辛いんじゃないかとか思ったんじゃない?』


心に感じた言葉を気のせいだと思いたい。



ふとオカワリの方を見るとただ空を見上げぼやっと立っているだけだ。だめだコイツ。



...........とても長いあいだだった。

目の前の景色は自分達がとてもちっぽけな存在だとひしひしと伝えてくれるだけで何もしない。

ほんとは特に何もすることなんてないはずなのに、時間がどんどんすぎていく。

まるで自分たちが世界の自転から取り残されたみたいだ。



ハルマキが重い口を開く。まっすぐ夜空を見据えて。

「.......私は、きっと宇宙を眺めてひたすら考えてるんだと思う。宇宙にいる自分の在り方というかさ、その......。」

恥ずかしそうに顔を赤らめて言う。


「宇宙に出たからこそ何か違うことがわかるんだと思う。超客観視と言うかとても別な視点から......。多分自分の生きるべき道なんて地球ではわかりっこないよ。生きている自分をその場で考えるなんてできないよ。私不器用だし。だからこそ宇宙があるんだよ。宇宙には何かがある。出会っただけで自分に革新を与えてくれる絶対的な何かが。いるんだよ。」


ちょっと口下手なハルマキが、口下手なりに放ってくれた断片はとても綺麗でとても強くて真面目で、ちょっと恥ずかしいけど、何よりも一生懸命だった。


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