1月23日
「そっくりさんっていても得するもんなの?」
好きな子に許さないと言われてしまった。
しかも理由不明。自分にもびっくりするくらい心当たりがなく、ただ戸惑ったり、すこし落ち込むだけである。
ーーーー「理由はサンタが自分で気づくべきだよ。私に言われて気づくなんてもっと最低だもん。」
先週の土曜日に言われたことを思い出す。
モモはどういう気持ちであんなことを言ったんだ?
それでも笑顔だったのはどういうことだ?
ああ...なんと情けない話だ。
まさか好きな子にあんなこと言われて未だ理由がわからないとは......。
正直脈なしにしか思えない。
しかし脈なんかあっても今の僕では到底オーケーしてもらえないだろう。
雪の降る街を家へと向かい歩いていく。
雪は降るが街は寂しく気温は低い。
寒さだろうか身体と心どちらも痛む。
「お前なんでそんなに落ち込んでんだよ!馬鹿になるぞ!?」
馬鹿の声が聞こえる。
そう。僕の隣にいる馬鹿は真の馬鹿。
オカワリ、その名も細井真。
あだ名の由来は知らない。
こいつがどれだけ馬鹿かというと.....
「なあ今日さー、ナツに魅力的な頭してるわねって言われたんだけどあいつ俺のこと好きなんじゃね?」
「それ褒められてないぞ.......。」
制服の上にコートも着ず傘もささず歩くこの男。
こいつは馬鹿だけどとんでもない才能?体質がある。
こいつの周りでは超常現象が起こりやすいのだ。
「でさー俺なんか最近変な感じするんだよね。部屋の家具がかってに動いてたりとか。」
「なにそれ?ポルターガイスト?」
「かもなー。まあそんな気にしてないんだけどね。」
「さすが.......。」
ポルターガイストまで誘発するとは見事な超常体質。どうしてこんな災害みたいなやつと知り合ってしまったんだ。
僕はオカワリに構わずモモのことを考えることにした。好きな子に許さないと言われて平然としていられる程心は鋼ではないのだ。
雪はしんしんと降り積もり街を白から純白に変えていく。信号は青から赤へ。馬鹿が隣で話を続けているが、適当に相槌うちながら歩みを続ける。
ハルマキにスポーティな子が好きって言ったことがあったっけ。そういえばなんでスポーツの雰囲気のしないモモが好きなんだっけ........。
………………………………。
ラインが来た。
誰からかと思い画面を見ると心がざわつく。
「今日暇だからサンタの家に行ってもいい?」
モモからだった。
どうしてモモは許してないはずの僕と笑顔で接しているのだろう。まったくもって理解ができない。
返事に迷い、しばらく考えて了承の返信をする。
「ありがとう〜。」
やっぱりわからない。釈然としない。
本当にモモは僕の家に来て楽しいのだろうか?
ラインがまた来た。
「あとハルマキとオカワリも行くから〜。」
「オカワリとハルマキも来るの?」
「ならちょうど今オカワリといるからハルマキと一緒に来てよ。」
既読がつく。
しかし返信が来ない。
あれ?と思いしばらく待つ。
「誰から?」
オカワリが覗きこんでくる。
「やめろよ人のスマホかってにみんの。」
覗かれそうになったスマホをかろうじて隠す。
画面を見ると返信が来ている。
「今、私とハルマキもオカワリと一緒にいるんだけど。」
「本当に隣の人はオカワリなの?」
............は?
僕がオカワリの方を向いた時。
オカワリじゃないかもしれない謎の人物はしっかりとサンタのラインの会話を覗いていた。
顔から馬鹿みたいな表情は消え、なにも語らない。
瞳が暗くなり、感情が読み取れない。
「お、お前.....本当にオカワリか?」
「ああ、俺はオカワリだし細井真だよ。正真正銘のな。」
ゆっくりと謎の人物は重い口を開く。言葉も重くのしかかるような声をしている。じっくり見てみても、顔から姿全てオカワリとなんら変わらない。違うのは雰囲気だけだ。
「証拠は?証拠はあるのか?」
「お前は自分が自分である証明なんてできるのか?それとも友人を疑うのか?」
「..............。」
答えられずに口を閉じる。
男はニヤリと笑い、オカワリの顔で口を開く。
「ドッペルゲンガーって知ってるか?」
「..........知らない。」
「意外だな。興味ありそうだけどな。ある人物そっくり、偽物とかいうレベルじゃなくてガチもんの本人がもう一人現れるんだよ。それでモモの方にいるのが俺の偽物。俺が本物っていうわけだよ。」
「なんであっちが偽物だって断言できるんだよ。」
「.......馬鹿だな。さっき言ったばっかじゃねぇか。泥男って言う話知ってるか。男が沼地で雷にうたれ死んだ時、奇跡が起きて電撃で男と姿形から記憶性格まで全部本物の泥のコピーができたんだよ。思考回路も喋り方も家族との接し方も一緒。そいつも自分が男本人だと主張する。お前はそいつが死んだ男の偽物だと思うか?」
「............。」
「そいつが本物か偽物かなんて誰も決めらんねえだろ。これは有名な哲学の話だが、俺は馬鹿だと思うね。そいつが本物かなんて実際どうでもいいじゃねえか。誰も困んねえよ。」
「定義しか考えないやつはきっと人生を苦労しすぎてる。大事なのは何はなんなんだじゃなくて、それがどうだからこれからどうするだろ。まあそれがやりたくて定義を考えるやつもいるだろうけど、俺らに大切なのは後者だと思うね。」
「......お前の言ってることはメチャクチャだよ。じゃあなんでモモといる方が偽物だって言うんだよ。」
「そりゃそうだろ。俺は自分の事を本物だと思ってるしオカワリはこの世界に2人もいらない。スワンプマンが本物と証明するには本人が本物だといえば十分だ。俺がオカワリらしくいれば誰もわかんねえよ。」
「じゃあどうするんだよ。」
「殺す。あっちを殺して俺が本物だと証明する。」
オカワリはすごいな。あいつはこんなにも日常から危険にさらされているのか。馬鹿だけど同情する。
でも断言できる。この男は偽物だ。
「お前は偽物だよ。」
「はあ?なにを根拠に?」
「根拠なんてないけど。根拠がないのならみんなが偽物だと思う方を消せばいいだけだよ。僕達が知っているオカワリはお前みたいに頭良くないし、殺すなんて考えないよ。少なくとも僕はそう思うね。いつから存在してたんだ?お前は。」
「ずっと前からだよ。本物が物心ついた頃から。」
僕達と一緒にいたオカワリはオカワリじゃないのかもしれないのか。思い出に影が差し込む。しかしどのオカワリも本物に思えた。
「狂ってるなぁ.......。お前は主観だけで人を消せるのか。」
とオカワリは上を向いて空を見上げた。
しばらく立ち尽くす。
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しばらく考えこむと偽物が口を開く。
「そう言われちゃかなわねぇな。偽物だと思われたままお前らと過ごすのも面白くねぇし........。観念して俺は消えるとするよ。本物も良かったな。大切にしてくれる友人がいて。」
「なんで?なんで消えるの?」
「言ったじゃん。この世界にオカワリは2人もいらない。しかも俺と本物が出会ったらどっちも無事じゃないんだ。本物のためじゃないぜ。俺はお前らのために消えるんだよ。」
「そっか.....。」
「あとなあ言っとくけど。」
徐々に消えて行く男の口が続ける。
「別にモモはお前のことを恨んでるわけではないぜ。まあ自分で後は考えることだな。」
男は消えた。