絹の終・転生
「はい、お話はこれでおしまい。どっとはらい」
赤い目をした綺麗な少女が、黒い髪をつややかに揺らして声を上げる。白い髪の少年は、赤い目をつむって溶け落ちそうなあくびをした。
「ちょっと! 白樹! ちゃんと聞いてる?」
「はいはい、聞いてるよ、黒枝。慣れないじいちゃん風語りといんちき方言、乙でした!」
「あー! あんた馬鹿にしてるでしょ!? 雰囲気出そうと思って、一生懸命しゃべったのにぃ!」
「まぁ、頑張りは評価するけどさぁ……何度も聞いた話だから、ほんの少ぅし飽きてただけ」
「えぇえ!? 信じらんない!!」
赤いワンピースの少女が、大げさに可愛い声を立てる。白いシャツにデニム地の半ズボンの少年は、くちびるを尖らして言い返した。
「だってそれ、何百年も前の話だろ? お前の先祖の話より、今の方が大事っていうか」
「うぇえ!? あんたのご先祖の話でもあるのにぃ!?」
「俺のは『先祖』って言わないだろ? 俺は都からこの村に引っ越してきたんだもん」
「で、でも先祖みたいなもんじゃない? てっか、言ってみれば先祖よりずっと近しいし!」
「聞く耳持ちません。遠い昔の話より、やっぱり今が大事だろ?」
かたくなな白樹少年の態度に、黒枝はふいに艶めかしい笑みを見せた。
「分かった。……白樹、またあたしの『あれ』が見たいんでしょう?」
「そりゃ見たいよ? 男だからさ」
あっさり認める恋人に、黒枝が笑ってのしかかる。
「あたしも見たいな。……白樹の『あれ』」
ふたりはくすくす笑いながら、互いの服を脱がしにかかる。白樹のシャツのボタンをぷつりぷつりと外しながら、黒枝は何ごとかささやいた。
「……何?」
「何でもない」
小さく首を振ってみせて、黒枝が白樹のズボンのチャックをゆっくり下ろす。トランクスのすきまから少年の槍を引っぱり出し、根もとに浮いた赤い花形のあざに、指先でそっと口づけた。
白樹も息を荒げながら、黒枝のスカートを引きまくる。引きずりおろしたピンクのショーツの向こうから、まだ咲いていない割れ目がのぞく。くっと指を入れて展翅すると、桃色の肉のすきまに、血のように赤い花型のあざが浮いていた。
「……ねぇ。今度生まれてくる時にもさ、ふたりしてあざ持って生まれてこようね」
「あぁ。良い目印になるからな」
そう応えた少年は、草のじゅうたんに少女をぐっと押し倒した。ふいに切なげな目になって、少女の耳もとで甘い声で名を呼んだ。
「……雪花……」
「違う」
恋人の赤いくちびるへ指をあて、少女はふんわり微笑んだ。
「今は、黒枝よ」
「……黒枝……っ!」
「白樹……しろき……っ!!」
幼い恋人同士は互いの名を呼びながら、日光の下で抱き合った。
黒髪と白髪がもつれ合い、ほつれ合い、織物の綾のようにきらきらと日に輝いていた。
これは、あなたの知らない世界の話。
とある蚕が見た夢の、まぼろしのような物語。(了)