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ウッドペッカー•ライフシフト  作者: 三ツ目くりっく
一章 もしも死んだら、と前置きして…。
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8 自己紹介なり頭痛薬。③

説明会。朝ご飯にしよっか。



 「キの国は、大国三つの内の一つです。ウの国、タの国、そして小国であるメの国やホの国は、ホロウ大海の向こう側にあります。

 均衡を保つための条約はここ三百年破られること(たが)わず、メやホの国は商人を通して武器や食物を輸入出する貿易国であるのです。


 森や洞窟、海の開拓が繁栄に追いついていない我らは、自分の身は自分で守るが鉄則。ですから、戦い方を学び、生き方を学ぶのです」


 木造のアスレチックの下で、学びな先生はそう厳粛(げんしゅく)に語る。

 だが正直耳をかたむけている人は居なくて、今ある遊び場に夢中になっている者が大多数。

 この語りだって、ほんの一部。次から次へと絶えることなく語る先生の話は、何故か底がないように区切らない。話が尽きること、無いんじゃないだろうか。


 大きな柱が二つ。間にロープ。乗るための頑丈な縄。腕を使わないと反対の方まで行けない。

 何とか次の縄を掴む。おおっと、あぶなっ。

 自分はサル。自分はサル。そう唱えて次へ、次へ。

 ズザッ───。少し手を()ってしまった。痛い。


 〖まあこのくらい、全然あれ(••)の比にゃならんわな。〗


 ………ん?


 「おいしゅうや、早くいって!前!」

 「…あ、ごめん」

 急ぎ次のアスレチックに飛び乗る。鉄の鎖が丸太を支え、動くたびにぐらぐらと足をとられる。


 うっ、よっ。「ったあ!うおぁっ!?」──ん?

 後ろの人がスッ転んでいた。連鎖するようにこちらにも衝撃がくる。それはやばい。

 タタタタッ────体制を整えるのもままならない全力疾走。勢いのままに凹凸に地面に刺さった丸太の木目を駆け上がり、滑り台になっている処に滑り込もうとした処で──────────、


 ────ズコッ。

 収也は転んだ。



 「だいじょうぶ?しゅう」

 「だいじょうぶだいじょうぶ。男だもん、へーきだって」


 デコを擦って血をにじませた収也は、水で流して砂を落とし、軟膏を塗られて教室へ戻っていた。未宇花に心配されるも、平気だと手を振って席に戻る。

 「速かったねぇしゅう。ねこさんみたいだったよ!」

 「え、そう?ありがと!」

 頭にあったのは猿だけども、と余計な事を考える。

 聞けば未宇花は、あまり速くは走れなかったらしい。女の子に負けなかったと言う所で少しホッとしたのも仕方のないことだろう。

 なんせ未宇花は既に自分が知りえない事を知っている。それに置いていかれないように。何とも情けないようだけれど、こればっかりはしょうがないのだ。自分も何かやらなくてはいけないだろうと、決意する。

 クローゼットの中、羊皮紙の束を思い出し、次の授業に向かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「ただいま!ぼくちょっとお勉強するからごはんあとでねっ!」


 ちゃんとドア閉めてー───と流すビガーを横切りに自室へ。ベッドに飛び乗って、膝立ちでクローゼットを開ける。羊皮紙の束を引っ掴んでベッドを降り、机に叩きつける。こう、気合を入れる感じで。意外と凄い音がしてビクる。雑に椅子を引いた。


 ガタンと音を立てて座り、竹の筒で出来た筆立てから、布で巻いただけの木炭──簡易羽ペンを手に取る。そして、今日の反省文を書き出した。


 『きょうはガラスのこっぷをつかって、まほうをつかいました。そとでがんばりました。ぼくはがんばりたいです。』



 「………」

 書き出してみて、思ったのだ。何故か、書きたい事が書けない。

 ああしたい、こうしたいと思うのに、浮かぶ言葉はどれも違うと感じてしまう。

 こうして、こうすれば、こうなって、ああなって…───あれ?

 何処を書けなば良い?何を書けば良い?ぼくは、なにがしたいの?

 わからなくなった。


 〖イタイ〗


 ───ッ!


 ガタタッ、ゴトッ、パララッ────羊皮紙のページが(めくれ)れ、椅子の倒れた大きな音が響いた。それに構うことなくぶつかるようにクローゼットを殴り、バタバタと中に逃げ込んだ。入れてあった服の束が崩れ、それを乗り越えるように奥へと身体をねじ込み、小さな体躯(たいく)を丸めて頭を抱えた。


 〖イタイ。イタイ。駄目なんだよな。まったくさ〗


 頭の何処かで呟く声。

 自分じゃない誰かが一人語りをしているようなうら(さび)しさ。

 自分より年の勝る誰かの独り言。どうしようも無さとやるせなさが()い交ぜになるような苦い声。

 自分が知って良い重さじゃないのに知らねばならないという焦燥感を覚える虚しい思い。

 もういいよと言いながら自分を(のが)しはしない罪悪感。


 駄目だと思った。

 今じゃない(•••••)と思ったのだ。

 ギシギシと(きし)んでいく心が、無理だ無理だと悲鳴を上げていた。なんで?なんで?なんでそんなこと言うの?………って。

 泣いて、鳴いて、ナイて、啼いて、ないてばかりの声が聴きたくなくって。


 「あっちいけ!」



 そう思ったら、叫んでいた。

 堪え忍ぶように、押し込めるように堅く目を瞑ってやり過ごした。

 どっかいけ。どっかいけ。

 あっちいってて。こないで。くんな。

 おねがい。おねがい─────、

 そうやって、眠りについた。




 起きると、上に天井が見えた。ベッドに寝かされていた。

 クローゼットを開けた。

 服の束が、畳まれていた。そっと閉めた。

 ベッドから降りた。机を見た。羊皮紙が閉じられていた。

 椅子が、元の位置にあった。


 扉を開けた。

 何時もより静かに思えた。


 台所の台に乗って、蛇口を捻る。顔を洗う。蛇口を捻った。

 台から降りて、テーブルに手をついた。

 座らなかった。


 ねちゃり──ズズズ─────後ろから音がした。


 何も言わない。何も、言わない。

 だから、自分から。


 「………ごめんね」

 「………朝ご飯にしよっかー」


 「うん」────とてとて、ストン。椅子に座る。

 小さく、腕をつねった。

 痛かった。





じこしょ~~これにて終わり。

地味に長め。

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