7 自己紹介なり頭痛薬。②
ぼくの部屋。ぼくの魔法。
キッチンの入り口の、丁度真正面辺り、左の扉。
中は木の机と椅子、かすっかすの本棚が左側一面にあり、右側は低めのベッドとクローゼットがある。中は服と保存食、そして布と糸、あと針。
そこに、机に置いてあった羊皮紙の束を入れると、クローゼットを閉めた。
ここは収也の部屋である。二階の一部屋は両親の部屋。後は物置と保存部屋。
両親の部屋は二人人が使うには少しだけ広く、二人の私物を置くには狭い部屋だ。
そろそろ掃除をしないと埃が貯まってしまう頃だ。帰って来た時自分の休める処が埃まみれなんてそりゃないだろう。
綺麗で、面白い写真も、格好いいナイフも、剣も、キレイなままにしたい。そう思う。
明日。明日帰ったら掃除をしよう。キレイにしよう。
その頃にはまた、眠くなるだろうけど。それでも。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「先生!みてみてー!」
未宇花は小さく力んで手を翳した。そこから、僅かながらに小さく光り、温かい粒子のようなものを生んでいく。
その流れはとても不規則で、危なっかしい。
「ええ、出せていますよ。そこから少し、丸めるように、手を回して………、」
言う通りに動かすと、桃色に色が纏まっていく。手中に集まり、小さく纏まっていく。
「それを、グラスに入れて御覧なさい」
持ち手が細いグラスに入ると、ガラスには当たらず漂いだした。
「魔力はこのようにガラスに触れる事無く、一定の幅を開けて留まります。そして、」
グラスを未宇花に持たせ、上へ振り上げるよう、教師は促す。
迷わず上へ突き上げた未宇花の魔法は、上へと打ち上がり天井にぶつかると、ふわぁ───っと広がり、消えた。少しの桃色を壁に残して。
「ぶつかり、広がり、色を残して消えます。濃ければ濃いだけ、きちんと放出出来ていると思いなさい。それが均等になるほど、出し入れの動作は上手くなっていると言うことです。今初めて披露したであろう未宇花さんは、力が強い、魔法の効力が広い可能性があります。
よくできました、未宇花さん」
「わぁ~……!はい!」
「では皆さんも、それぞれのグラスを取りなさい。上へ、上げるのですよ?人に向けてはいけませ───」
────ボウンッ!!
黒板に、オレンジのペンキのような色が広がった。
「………、多空練太さん、後で残りなさい」
「…はーい(^O^;)/」
黄土色の髪に八重歯、だぼついた服を着た男の子は、多分本当には参っていないだろう態度で頭の後ろをかいた。
「いやーやっちゃったねー!」その声に一部がクスリと笑う。
「さぁさぁ他も早く始めなさい!」
声高に放たれる内容に、それもそうだと手を翳す。力んで、表に出そうとううんっ……と、力んで、力んで……、上手く出ない。
あれぇ?こうではないのかと、違うのだろうかと首を捻る。
「腹の底から、力を入れるように。肩の力は抜きなさい。初めの一歩は自然体に、扱うようになってから気合を入れるのです。
息を吸い、吐いて、
初めからすぐに出来ると言うものではないと思いなさい。放出するための、“穴”を空ける、造るのです。」
穴……。自分の手の所に穴があいて、空いちゃったからその穴を覗くと教室の床が───
いや止めよう。ダメダメ。怖い、怖いって考え方。
お腹に力を入れる。多分こうだ。落ち着いて、落ち着いて。
粒子は不安定に、掌をふわふわと漂い出す。
肩の力。大丈夫。
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。
色が付き、消え、付きを、繰り返し。
安定しない。
そのまんま穴が空く訳じゃなくて、留めてしまう自分の身体から出ていけるように、
“穴”を造って、そこから。
辿々しく手中に集めていく。緑はもやもやと漂い、小さく、小さく。
…えーっと、グラス。
一定の幅。はば、はば……あ、ホントだ。
うっすらとした緑は、極々小さくグラスに納まる。
あとは……。
上に突き出す。
すると、
さあっ───広く、浅く、均一に緑は広がっていった。
収也は言う。
「……できた」
上を見上げて、自分の緑がそこにあると視認する。えも言われぬ高揚感が湧いてくる。
うわぁ…!出来た…!
「できたよ!みう!あけ!」
「やったね!しゅう!」
「わたしもっ……!」
色を弾いたような鋭い白を残した明乃は、にっこりと笑った。それに収也も笑い返す。
「………あっれー……?」
赤いピンを付けた茶髪の女の子は、上手くいかないのか首を捻る。うんうん唸り、やはり上手くいかないようで教師に聞いている。
「先生、出てこないです…」
「………ふむ。………どうやら魔法が使えない体質のようですね。魔力粒子と貴方の体質が根本的にそりが合わないようです」
「えー!そうなのー!?」
「はい、
…魔法にも、元から持って生まれた才能というものがあるのです。出来ない人もいます。逆に、足が速かったり、筋力が優れていたりします。
世には様々な人種が居ますから。今回、その器が無かった。それだけと言えばそれだけの話です」
「そっかー」
女の子は、ざんねーんと少しぶつくされて、次に、じゃあ鍛えるかぁーなんて言い出した。
おおぅ…、強くなるんだ。そして鍛えちゃうんだ。あの子すごい。
出来ない人もいる。出来る人もいる。
元からそういう人。後から出来るようにする人。別の事をする人。
……自分も、出来ることを。
自分の緑を見つめ、そう思った。
授業回。地味に楽しかったとこ。あと欠片とも考えてなかった設定がここあたりにポーンした所でもある。なんでや。