4 舞台装置。
無慈悲なダレかの、使いは弾く。
そんな話です。
白い箱。
菱形の箱の中は、表も中も元は白。
時を刻むにつれ奇麗に彩られていった似通っているようでいて一つとして同じもののないその色は、ある日を境に黒ずんでいく。
自覚し無ければ良いものを、昔からあったそれに気付いて、気付いた時には消す努力も無駄であるかのように取れなくなっている。
それからは、その黒さ隠して、時に焦りながら消しゴムをこすり、恥であると公言しながら自分はそうでもないんですよと、偽りながら過ごしていく。
いつしか妥協点をつけて、そこに在って、そこにあることは当然であると何処かの隅では考えるようになる。そうすると、酷く穏やかに生きていけるはずだ。
何もおかしいことじゃない。黒塗れになってしまうのが問題であって、黒自体の全てが存在してはいけない訳じゃない。
黒が無ければ存在しえない事もある。黒が無ければつまらない事もある。
色としての黒に、悪い事がある訳じゃない。自分の中の黒を、どう扱うのかが問題なのだ。
全ての色がくすんでいき、色の名前を忘れた頃、菱形の角は既にぽろぽろと崩れていって、終わるその時、下に落ちていくのだと思う。
中には色鮮やかに彩る途中に、中には黒ずみを消しゴムで消そうと躍起になっている途中に、落ちてしまうこともあって。
その落ちる時がくるのを、恐れながら何時もは忘れて、過ごしているのだと思う。
何千何万何億何兆の、大小様々な菱形。
普通なら、終わる時に落ちていって、いくべき処に運ばれていく一つの菱形。
留め、引っ張ったが故、形の崩れてしまいそうな、危うい菱形。
多くの中からそれだけを引っ張った存在は、無機質な“手”のようなものでそれを小さく弾く。
舞台装置にすぎないその存在は、一つ、また一つと押し留め、語らず求めず、ただ弾いていく。
残酷に、義務のみを果たす存在に、怒り悲しみ憎しみを……、どれだけぶつけた、ぶつけようと、届けようとした感情であろうとも、
心打つことなど出来ない。心など無い、感情など無いが故。
届かない。存在に声は、届かない。