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ウッドペッカー•ライフシフト  作者: 三ツ目くりっく
一章 もしも死んだら、と前置きして…。
19/31

19 キツツキ四号。

単発系ぽーん。



 幼少よりズレゆくもの───

 違和感が人を〖ー〗すまでの、序章なり。

 定めととくとき、その心は。


的な?



 小さな小さな、今の収也の掌に収まりほどの、本当に小さなぬいぐるみ。赤い鳥だ。キツツキの、マスコット。


 縫い跡はぶちぶちとまばらで、触ると布と糸とが凸凹として感触は悪い。

 黒地に白と、小さく赤が当ててある。ボタンは目玉っ首辺りに縫い付けてあって、大きさのせいか、薬でもヤってるような目になっている。


 羽を広げている訳でもなく、閉じているからかキツツキには中々見えない。調和というものがとれていないからぽてんと倒れてしまうし。

 立つことの無いこのキツツキは、止まり木もないから机に倒れたままに放置するしかない。

 


 壁にもたれて、収也は自作のぬいぐるみを両手で握った。

 

 見た目よりも固いのだ。形を作るために詰めた布が柔らかさとほど遠くしているのだから。


 「キツツキ四号」


 一番最初に作ったのは黄色の虫。蜂か、蟻かもよく解らない、意図して似せようと作ったのではないその、色分けすらされていない代物。二号は灰色のナイフ。モドキ。色分け無しの、残念賞だった、今思えば、ちょっと思う。

 三号は茶色い犬。ベタ塗りの如く真っ茶っ茶で、且つぺったんこだったはず。

 

 一号は母に、二号は父に、三号はビガーにあげたものだ。

 何かあげたかった、ような気がする。

 家にビガーと二人で暮らしてね、会えるの凄く少なくなるけど、大好きだよ、それだけは分かって、元気でいてね……他にも色々言われたけれど、兎に角急いで何か、何かって考えて、思い付いたもの。


 針は難しい。布の切り方もよく解らない。どう作るか、どうやるか。難しいし、解らない。

 うんうん考えて、指先を針跡だらけにして、何とか出て行く前日に渡せたもの。

 

 『お、おおぉ……これ……包丁、…か?……上出来だな』


 『もーお父さん!息子が才能あることしたのよ!もっと後押ししなって!』


 『イテッ!イテェッつの!やめろ……!』


 『ほーらっ!おーとーうーさーん?』 


 『鬱陶しいわ馬鹿、………よくやった。才能あるぞ』 


 『もーそれじゃ上から目線すぎなーい?』


 『お前には言われたくない』


 『あはははっ!』


・・・・・・・・・・・



 『え?……俺に?』


 『わ~かわいいねっ!大事にするよ~!』


 『……所でこれ、馬さん?』


 『えええええぇ…………そんな笑うー?』


 『俺まで貰っちゃって、何か照れるね~』


 『じゃ、次は収也の分も作らないとね~。応援してるよ!』



・・・・・・・・・



 『…………………カラス?』


 『えっ、キツツキ??』


 『わあああっ!キツツキ!!そうだねそれキツツキだねっ!ちゃんと見えるよ!!キツツキ!』 


 『…………ちょっと~!』


 『よく笑うね~収也は~ふふふ』


 『俺の持ってるの、三号何だよね?じゃあ次は、四号かぁ』


 『もっと色々作ろっか。また出来たら見せてね!』





 キツツキ四号。

 四号からは『キツツキ』も付けることにした、ぬいぐるみの番号。

 

 「………」

 収也は考える。

 コイツを作った時は、どんなだっただろうかと。

 

 色を分けて、立体になるように気を張って詰め込んで。

 ビガーに貰ったボタン、また使って。

 (くちばし)は上手くいった。上手くいったもんだから思わず頭だけの時に見せに行って、凄く驚かせたんだった。

 生首を手に、満足げに掲げて……うわぁ、忘れてビガー。

 

 一号より、二号より。

 三号よりも上手く出来た気がした。凸凹だけれど、上手くいったと思ったのだ。

 何故かとても、勿体ないことをしている気がしたけども。

 

 だって、これは自分に向けて作ったものだった。他の誰かにあげるものじゃなく、自分に。何となく誰かに宛てて作っていたものだったから、自分に宛てた途端、どうしようかと悩んだのだ。

 

 飾る?それは如何かと思った。飾って、はい終わりにはしたくなかった。何てったって、自信作だったから。

 四号は自分だ。自分の特別。

 何処かにそんな意識があったんだと思う。

 初めて生き物っぽく出来たんじゃないかと、鼻高々になるくらいには自信作だったので。

 

 だから結局の所、誰かにあげようと思った。

 できれば、仲の良い誰かに。四号で遊んでくれたらなって思った人に。


 「………」



 ベッドの端。ベッドの脚がすぐ隣にある、クローゼットがある壁。

 もたれていた背を離し、ベッドに膝をついて乗っかる。少し方向転換をして、クローゼットを開けた。動くたびにギシリというのに、壊れて膝でもヤって仕舞わないかと思ったり。

 膝立ちをした体制で、キツツキ四号をクローゼットの奥に仕舞う。服と、読まない絵本で見えないよう隠す配置。

 静かに閉じられたクローゼットが、もう開けるなと、バッテン印を付けた気がした。


 「……」


 収也はベッドから降りる。

 とっとっとっ、扉のノブに手を掛けて、引く。

 ギィィ───バタン。

 自室から、出て行った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「……しゅう、ごめん」


 「……うん」

 明乃は家を出てすぐにかち合った。

 がっちごちに固まった少女は、いっそ笑ってほしいのかと思うほど些細な事で転びそうになり、舌を噛みそうになっていた。


 無言で歩き、そろそろ未宇花が待つだろう辺りに来て、明乃は謝った。下ばかり見て、ぶつかりそうだなという様子で。

 

 「…昨日」

 

 「うん」


 「しゅう、みうといっしょだったでしょ?」


 

 眉が真ん中に寄りそうになりながら、「うん」と相槌。



 「れんたくん、……あやまってて…、あやまらなきゃって、はなしかけてもらえないって…、」


 「そっか」

───桃色と、全部を掻き消す白がちらつく。



 「こわくて……、ねえ、しゅう……わたしたち、ともだちやめてないよね……?」



 「やめてないよ!だいじょうぶだって!」

 苦笑しながら、笑い飛ばす。

───聖女と平民の、何処か見覚えのある絵画がちらちら見えた気がした。



 「そう……?……よ、よかったぁ……!」


 

 「しんぱいしょうだって!それ、気をつけなよー」

 顔は、笑う。

 切断されたように、顔と中身が切り離れていた。

───眩しい笑顔。綺麗な笑顔。明るく、可愛い、強い、笑顔が目から離れてくれない。

 じわりと点滅する、目眩に似た。


 どうしよう、どうしようと慌てふためく自分を、見ている“だけ”の自分がいる。

〖凄くイタそうだね〗……って、言ってるだけの自分がいる。

 


 「あのー!しゅうー!」



 「み、みうー……おはよ」

 「おはよーっ!木ノ園いこっ!」

 「うん!」

 「うん…!」


 

・・・・・・・・・・


 

 安心仕切った、控えめな笑顔。ちょっと引っ込み思案だけれど、意外に手が出る女の子。

 快活で元気な、花のようね笑顔。真っ直ぐ通った芯のある、皆に好かれる女の子。

 誤魔化すような、眉の下がった笑顔。インドアかつアウトドアな、手先の器用な男の子。


 三人は幼馴染みである。

 

 名家と武術家、そして平民。身分差の中、意識せずして親繋がりで知り合った、最初の友達。

 

 キの国山脈中部、その下。北の森を過ぎた所の、森と岩に囲まれた、とある村のことである。

 (もく)の村にて生まれた子ども達は、小さい頃、約束をした。

 “騎士”になろう。

 三人揃って騎士になろう。王様を守ろう。

 三人揃えば、出来ないわけ無いと笑い合った。

 

 少年はそれを喜んだ。

 出来る事を学んで、きちんと身に付けて、強く。

 そうすれば二人の役に立てるだろう。育ててくれた母と父、親戚のような土の精霊を助けてあげられるのだろう。

 楽しみ以外あるはずないと、百点満点の笑顔で言った。



 無念と私怨。気遣いと人の良さ。盲目と事故解釈。

 前と今。外面と内面。

 (たが)え、違えてしまった、それだけの話─

──





……おおう。

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