18 お前だろ。下
短めかつ、誰にも知られないような敗北感。
「やめなさいッ!」
───桃色が、不完全な黒を弾き飛ばした。
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パァアンッ────風圧は新を二•三歩下がらせる。
甲高い衝突音。黒を弾き飛ばす、否、完全に打ち消した、打ち消していた。
右脇腹の地面に添えられていた左手と、石を握った右手のまま、収也は動けずに停止する。
疑問だ。何故彼女は叫んだのだろう。
何故自分に背を向けているのだろう。
あの打ち消せるような魔法は、いつ。
あの魔法は何だろう。
見たことは、あっただろうか。
人に向けて、危ないんじゃないだろうか。
迷わなかったのだろうか。
そんな疑問が、浮かんでは、消えた。思い浮かび、熟考には至らず、何処かに消える。
何よりも頭を真っ白に、
怒りも負けん気も反撃心をも真っ白にした、彼女の行動。
「みう(・・)?」
未宇花を呼んだ時の感情を、収也は知らない。
未宇花は言った。
収也がぴしゃりと固まるには、十分な威力を持っていた。
「しゅうをいじめるなんて許さない!それも魔法で!!よわいものイジメはさいていよ!刻々新!!」
「みうかさんっ!?ち、ちがいます!!そいつが───」
「いいわけはむようです!!」
弁明しようと慌てる新。
毅然とした態度を変えない未宇花。
何の悪夢だろうと、嫌な予感が背を這う収也。
気高さが大気に澄み渡るようで。
有象無象が霞んでいくようで。
彼女に備わったもの。それが決して、自らに良い方にはいかないんだろう予感が気にいらない。受け入れ難い。
待って。まって、みう。ちがう、違う。
話はどんどん飛躍していく。跳ね返されていく新の言葉。未宇花は同時に、収也の言葉も跳ね返す。取り合わない。
耳を貸さない、ではないのだ。気持ちを代弁出来ていると、信じて疑っていないだけで。
それがどう影響していくのか、こちら側を間違って認識しているだけで。
真っ直ぐ、断罪の如く堂々と、きっぱりと。
ぐわんぐわんと視界が揺れる。風一つないその世界で、ぴくりとも動いていないはずなのにぐにゃりと歪む。
熱い何かが頭を巡る。それは、感情に直結しえない何かの激流体。外面は寧ろ凍ったように震えている。瞼は重く、野暮ったい。額は凍えていた。
指先の感覚。解らない。何か持っていたはずだ。何を。……そう、石。ただやられて堪るか、返り討ちにしてやると、しっかり握りしめたはず。どっちの?………そう、そうだ、だから違うんだと上げかけた声は霧散する。
新を追い返してしまった後のこと。腕を広げ、逆らえない感の才能を開花させた少女。漸く見えた彼女の背中。
胸を、胸に、爪を立てたような違和感が奔った。
「しゅうっ!」
「悪いイジメっ子はわたしが追いはらっちゃうから!しゅうは気にしないでね!」
手を差し出す未宇花。
花が咲くよりも、可愛い笑顔。
確固たる自信を持っている、少女の笑顔。
…ふと、聖女に救われた平民のようだという感想を持った。
その手を、もう手遅れになってしまったという合図に思いながら、打ち消されるんだろうなという諦念のままに取ってしまう。
やってしまった。
諦め悪く、収也は口を開く。それじゃあ、何も無くなってしまうと焦燥に駆られる。
「…ね、ねえ、みう」
「だいじょうぶだよ!ぜったいたすけてあげるから!これからも、ぜったい!わたしが守るよ!」
眩しい。綺麗。
明るくて、前向き。人を救える何か。自信。
尊い、何か。
こういう人が誰かを救えるんだろうと、そう思う。
なんせ、真っ直ぐだから。
だから、こう言った。
「………うん、みうはすごいね」
収也は思った。何度か考えて、やはり救いは彼女の特許であると、そういう人なのだと認識した。
だか、とは収也は言えなかった。思っていても言えず終いだった。
────嫌いだ。
あの感じは嫌い何だと、自らで飲み下す。
胸を、抉ったような違和感が奔った。
幼少編は、これを絶対書くつもりでいた気がします。決定打には届かないけど、一因にはなる感じです。
あと、教養が無駄に、余計なとこで何かに発揮される話も、割とありそうじゃないですかね?子どもだからこそ、歯止めが効かない感じをイメージしているんですが、ないでしょうかね?
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書き溜めのなかの、十分の八の部分ですコレ。一章の。
「8、不穏。」て書いてありました。まあ、不穏だわな。
すっきりする話にはならないです。幼少編後しばらくは、多分、恐らく。
早く開き直りたい。