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ウッドペッカー•ライフシフト  作者: 三ツ目くりっく
一章 もしも死んだら、と前置きして…。
17/31

17 お前だろ。上

ありそうな日常の、どうしようもなく偽善的で、回避しようのない災難なこと、もやもやとする話を。

 

多分忘れてしまうのに、消えようもなく残ってしまいそうな事って、こういうことだと思うんです。



 木ノ園の敷地から出て、一歩進むと広めの通りが現れる。そこを右に行くとキの国山脈中部目前であり、下部は最難危険区の森の入り口だ。

 冬の帰省時期以外で人が通ることはないそこは、数ヶ月ごとに草を刈らねば村の長の敷地まで広がってしまう。通りの左側に建てられた大きな屋敷は、中々の造りをしている、らしい。


 左へ行くと住民の家々が見え始める。

 割と名のある家々は庭も広いし柵もある。それに挟まれる形の他の家庭が、何処か萎縮しているようで収也は好きになれないような気がした。


 進ん行くと段々大きな家はなくなり、やがて密集した石レンガの家々が並んでいく。

 その中に紛れるように白いレンガの家が二•三ある。その内二つは幼馴染みの家だ。

 収也がそれを素通りし、もう少し進んだ所。東の森に少々接した所に、一段と小さい家があり、そこが収也の自宅だ。東南東の辺りである。



 まだ左に曲がり、いかほども経っていない一本道。

 数えて四十分といった所に収也の家はあるため、これからとなると大変に見える。が、数年前から収也は必要物資を集めに南へ東へ、最近は(ようや)く北の方にも許可が下りたのだ。歩幅の問題はあれど、億劫になるほどでもない。

 

 巻いた包帯が肌をちくちくと(つつ)いているようだった。(かゆ)みで他の病や怪我を招いてもいけない。早く帰ろうと小走りで進んだ。

 動かし過ぎるとまた滲んできてしまうらしい右足を庇いながら、撥ねたり止まったりと不格好な歩き方をしていると思う。まあ怪我くらいで質問攻めにするほど此処らは平和じゃないしと、目を向ける大人達に会釈と挨拶をしながら行く。

 「ばいばーい!」

 「また明日ー!」

 後方でそんな言葉が交わされる。家にそれぞれ分かれていく音。

 ばたばたばたと足音は、通り過ぎようとした。そうだろうと察しをつけた。

 明日は何をするだろうか。またボールの奴だろうか。それならそれで、今度こそ。練太の方まで飛ばせるようになろう。今日出来なかった分明日は明日だって気合を入れて。そして出来たら胸を張ってじゃーんとでも言って。今日出来なかった子より、一足先に出来てやろう。

 学びな先生にも見て貰おう。皺くちゃの頬を引き伸ばした、面白くて、優しい笑顔をしてくれるはず。

 

 大きな家の近く。

 家紋に長い首の鳥と、それに抱き込まれる時計。それをあしらった、別の言語で『刻觧(こくげ)』とある家の名前。

 幼馴染みの未宇花と確か交流があって、だが母の言うには、『政略的な意味でねー』と付け足していたように思う。


 せいりゃくって何。

 収也は思えど興味が無かったので忘れていた。

 どうして思い出したかと言えば────


────ガスッ。

 地面がすぐ目の前に迫っていた。

 大慌てで手を付き、足を()ってしまわないよう身体を支える。じん……と掌が痛い。手首の骨を振動が伝った。

 

 収也は怒り余ってそのまま手を滑らす。べたりと地面に転がった。 

 (ひじ)(ひざ)に当たる硬い感触と腹にくっついた地面とに、自分が転んだのだと認識する。

 それすらも頭ではどうでも良くて、収也は後ろを、身体と一緒に向けて見上げた。


 「…何」

 顔についた砂利すらも、今はどうでも良かった。

───刻觧(こくげ)(あらた)は収也の肩を押した力の籠もった腕のまま、ニヤニヤと笑う。

 いつも見下げてくる気がする、黒髪がよく映える小綺麗な服を着た、顔が良い男の子。

 収也が転ぶ前、思い出していた要因。

 森で怒鳴りつけ、「バカバカいってんな!」とごねて、涙目だったくせに偉そうな男の子。

 

 練太との交流後、その内の一人の家が目に入ったがために思い出していた色々を、台無しにされた気がした。

 「お前、悪いから」 

 新は、鼻で笑う。

 「何で」

 収也は、睨む。


 「あけのちゃん泣かしたから」

 「あけも悪い」

 「ちがう。お前が悪いんだよ」

 「何で」

 「泣かしたから」

 「あそこ、行っちゃだめだった」

 「でも泣かしたのお前だろ」

 「だめなのに」

 「泣かす方がだめだろ」


 「死ぬのに?」

 「お前が悪い」

 「死んじゃったらだめもないよ。トカゲ、主のなかま、だめなのやった、みんな」

 「泣かしたのお前」

 「話ちがうんだけ──」

 「ちがわない!お前が悪いんだ!!」


 新は腕を振り上げた。

 

 無属性にしては色があり、闇属性にしては色が薄い。恐らく、不完全だったのだ。思考が停止していたから、そうなった。

 

 収也も頭に血が上っていた。少なくとも、傍目(はため)よりは。

 今から相殺するための魔法を撃つには、モーションも力も足りず、手遅れだ。それが解っていたかは定かではないし、かっとなっていたものだから思い出せやしない。

 ただ収也は、倒れた体制のまま、石を握っていた。

 負ける気はしなかった。

 目は駄目だと、教えられた事が頭をよぎる。目の、上。上の方。額に向けて投げようと右手を力強く振────




「やめなさいッ!!」

───桃色が、不完全な黒を弾き飛ばした。





対極の誰かが自分に与えた影響。

そんなイメージで。

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