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ウッドペッカー•ライフシフト  作者: 三ツ目くりっく
一章 もしも死んだら、と前置きして…。
13/31

13 森々格差社会。⑤

幼少期編、一つ目の事件ようやっと終了。

(書きたいことって、増えるんですね)


次は後日談から始まります。



 昼を過ぎ、もう直ぐ夕暮れという時間まで、自分は森に居たようだと収也は理解した。帰ろうと思っていた時間はとうの昔に過ぎており、食べ盛りの子どもにはちょっと辛いもので。

 

 両手両足、(つい)でに顔も首も切り傷擦り傷でちりちりと痛む。今朝の自分ならくよくよ泣き出したかもしれない。この年頃は随分と多感なもので、“泣く”なんてエネルギーの要る所行を何故に小さい頃は大安売りばりに行えるのだろうか。


 “泣く” エネルギーは、その頃にとって如何ということもないほど“在る”のだろうか。

 それなら案外、掃いて捨てるほどのものを持ちえているのかもしれない。凄まじい消費量じゃなかろうか。


 息切れを抑えたばかりできちんと蓄えた、補給できた気がしない空気。

 乾咳を繰り返している自身と、横目に映る人影。

 それらを、まるで小分けしたように役割分担する自身の中心部分に薄気味悪さを感じている。気がする。

 もやもやと(とどこお)っているはずなのに、何処かでは納得もしていて、すっきりともしているような、そう、本当に今、自分は感情を役割分担している。

 一致しない何処かの何かが、あれを削って、壊してしまいそうな気さえした。


 そして、“その存在”を見つけた事で、

─────ぐりん、ガチリと。

 無理矢理合わせた感覚で、激情のまんまに。

 


 それは、

 「死ぬかとおもった」

 名家の息子のそれか、


 「よかったー!」

 多空練太のそれか、


 「クソとかげ」

 舌を打った金持ち息子か、


 「……ほぉ…………」

 安心した幹明乃か、


 「うっへぇ………」

 気の抜けた赤いピンの子の声か、



 どの声が川霧になったのか。

 


 少なからずボロボロで、(にじ)んだ赤い血と走り疲れた小さい足。

 ぺたんと座り込んだ女の子達と、清々しそうに笑う吹っ飛ばすような練太の声色。悪態をついた反省ゼロの金持ち息子は、無責任に押し付けているし、名家の息子は当たり前みたいに終わった事にしている。

 

 終わってない。終わってなんかない。

 見なかったのか。分からないのか。如何なんだ、ねぇ、

 わからないのか?


 「───なんであのときすぐ逃げなかったの!?だめなのに!!止まっちゃったら死んじゃうのに!?死んでも良いってゆーの!?!?やめてよ!!!ばか!!!」


 真っ赤に頭が覆われ、吐かれる言葉はどっかがズレていた。

 別の事が言いたいはずだった。一番言いたいものだった。

 言えない。

 どれだ。

 どれだったろう。

 どれだったか、分からない。

 巫山戯ないで。笑ってんな。言って。言ってやれ。ちゃんとやれって。ざけんなって。やめろって。何を?


 何を、言えば良い。


 ごちゃごちゃになった言葉。伝えたかった言葉。一拍置くべきだったのにと、呆れているどっかがある。

 一個の感情がキャパオーバーに暴れる。ぼわぼわと思考を(かえぎ)る。


 痛いのに。知りもしないで。

 痛いじゃないか。痛いのに。なのにもう、次の話で。


 塗り潰された。“一番”を掻き消した。してしまった。

 泣き叫ぶ。どっかの誰かが泣き叫ぶ。


 端から見て、涙の跡は誰にも無い。


 「ご、ごめっ……ね………、しゅう……」

 「ごめん………ご、ごめん、ごめん!」

 大慌てで謝罪する明乃と練太。くしゃりと歪めた顔で悲痛に謝る。

 「何で泣きそーなの!!平気だったくせに!!大きな声出しちゃだめなのに!!死ぬじゃん!!ばか!!大バカ!!!」


 言い募る中、残りの人らも声を出す。


 「ご………めん……」

 言葉少なに名家の息子が、


 「バカバカうるせえんだよ!」

 納得がいかないと金持ち息子が噛みつき、


 「あらた!しゅうやくんはあたしらしんぱいしてるの!」

 赤いピンの子がそれを(いさ)めて。


 「死にたがり!!死んじゃったらどうすんの!?わかんないの!?だめにしちゃうつもりだったの!?ふざけないで!!ふざけないで!!」


 収也は口が動くまま、持て余した怒りをぶつけ続ける。

 言い過ぎだとも、気付かないまま、


 「───死んだら“終わり”じゃないよ!!“終わる”んだよ!!大バカ!!!」



 泣き出した女の子、慰める男女、黙る男の子、非難する男の子。


 やってしまった。

 それだけがずしんと罪悪感になり、足下を狂わせる。

 泣かせた事。

 人に自分が、下であると断じられたこと。

 

 悔しく、屈辱で、

 熱を持ったように、当たり散らしたいんだと思考が止まる。

 暴れ回りたい。そんなの恥ずかしい。みっともない。


 頭の熱を取って、冷まして。いっそ温度が上がらなくなれば。


 当たってはいけなかったのに。泣かせた。


 死にたくなるほどぐちゃぐちゃに、走ってぶつけてボロクソにして、そうしてしまいたい。

 だが駄目だと、今心配されでもしたら、本当にしでかしては駄目なやらかしをしてしまいそうな。

 胸を、引っ掻いたような違和感が趨った。

 傷付くはずのないもので、思わずといったほんの少しの不注意で引っ掛けてしまったような小さな痛み。苦しい気がする。

 かりかりと引っ掛けて小さく跡が付いたもの。

 時折感じる見逃してきた、見逃そうとしてきたものだ。

 チリチリと色んな所が痛む。滲んでいる血を拭おうとする。既に乾いてしまったから擦ってもポロッと落ちていく。べたべたと貼り付いていた前髪は、髪の毛同士でくっついて。見た目はともかくセットしたように固まっていた。


 ボロボロだ。所々痛くてしょうが無い。

 幸い手当てすればそれは良い。

 

 引っ掻いたような違和感。

 胸の……、否。心臓をつくこの痛さを、どうにか、消せないか。


 〖イタイ〗


 「だめだ……だめだ………だめだったんだ……っ…」


───無理だ、と。

 兎田収也はどうにも出来やせず、無理だ無理だと(うずくま)る。

 どうにも出来ないと、蹲る。

 “違う”を口に出せない。何を言ってるんだと言われるだろうと。そんな勇気は無いんだと、混ざる何かに、“苦しい”があっても。

 呑み込んでいく。


 混ざるごとに、悪癖(あくへき)ばかりを引き出して。







一言良いですか。


………長っ。


 ついでにもう一つ。


………手こずりスギィ。




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