12 森々格差社会。④
はしって。
半泣きの金息子の背をひっぱたいている時、名息子は何か置き忘れたように停まるからほらっ!と声を大きく、練太は以外とすぐ切り替えて前を見ているから大丈夫だろうと判断。後は…、と。
「…あ、ね、ねぇ……」
「後で。行くよ」
クい気味に声を出して遮る。言葉に詰まる俯いた明乃。ああ、やってしまったかもと思いながら、収也は“静かな”方の自分を優先する。
みしり────ギィィィィィ…………。
また木が一本、折れた音が聞こえた。
奇声が、耳の中でぐるぐる反響する。
彼らを見回した。女の子二人が不安要素ではあるけども、そうも言ってられないだろう。
切り離された感覚は、頭を幾つかに分けていく。
危ない感覚だ。戻し方を間違えたら駄目になってしまう気がする。混じって細切れになってしまったら、もう戻せない。痛みも苦心も分からなくなる。危ない。危ないよと。
お前がお前じゃなくなるよと。だからちゃんと、ちゃんと。
───決まり事が、収也の何かを留めておいてくれる。
蛇と目を合わせないこと。蜥蜴に近づきすぎないこと。赤い花がある先は覗かないこと。高い声を出さないこと。心臓が止まる感じがしたらすぐ逃げること。
無干渉なら何もしてこない蜥蜴の仲間。干渉してしまったから獲物に成り下がった自分達。“近づくな”はそのまま、彼らとの協定であったはずなのに、それを破った自分達。
共存のための“決まり事”を破ったのは自分達。“怒り”にぶつけえるものを持ちえないのだ自分達は。だって破ったのは自分達が先だもの。
森の主の傘下である大蜥蜴。種族名すら知らずに犯してしまった彼らの領域。
詫びるなんて出来ない。無干渉が一番の共存方だから。
だから自分達は、反撃出来ない。
大人で強者だったとしても、小さな子どもは尚更に、
この村の出身である限り、森の彼らを殺せない。
故に、逃げるしかない。
「走って!」
声とは限りなく釣り合わない、色が削げ落ちた表情で収也は言った。
有無を言わせぬその不自然さは、向いていた前方の目線により知られることはなく、弾かれたように全員を突き動かす。それが今の最善であり、自分達に出来る唯一生きれる手立てだったがため。
ま、まってッて!いいから!ほっ、ほら!走って!!行ってッ!
息苦しさと、背後を振り向けない恐怖は、幼子には重すぎるモノだった。
時折、責め立てる木々の折れる甲高い悲鳴が聞こえる。それが、足を止めずに居られる薬になった。勿論、良薬になりはしないのだけども。
いった……!だいじょうぶ…!?止まらないで!
走って!!
うねうねと、後付のように走っていった。それが幸を煮やすとは欠片とも思わなず、ただついやってしまったかのような愚行。やらないよりはマシとも擁護出来ない、無駄な足掻き。それでもやらないより、楽ではないか。
少なくとも気持ちの面ではと、一人ごちた。
前世と今が混じってきてるの、解りますでしょうか。
思うんです。
前世なんて言う大層なもん、一気にばーんって必ずなるわけ無いじゃんね。ごっちゃになるパティーンもあるんでないかい?
そんな疑問が3割成分な本編です。