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ウッドペッカー•ライフシフト  作者: 三ツ目くりっく
一章 もしも死んだら、と前置きして…。
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11 森々格差社会。③

緑色。

決まり事は、守らないとね。

あーあ、破った悪い子。見つけちゃった。

いーけないんだ、いけないんだ。



 皺になった服を下に撫でつけて、左右を見回してからまた歩き出す。

 迷わせようとする緑一色。

 ぐにゃりと歪んで巻き込んでしまおうとする森の色。逃げ出してしまいたくなる緑。目が痛くなって、ぼんやりぼやけてしまいそうな緑。


 いや、だめだ。これ以上は。


 焦っちゃいけない事は解っていた。けれども、これ以上止まっては居られない。ぼんやりとしていちゃ、ぐるぐると回って真っ黒な所に攫われてしまう。

 深くに一歩、深い緑に一歩、近づきすぎた。


 これだめだ。

 そう思った。


 蛇と目を合わせないこと。蜥蜴に近づき過ぎないこと。赤い花がある先は覗かないこと。高い声を出さないこと。心臓が止まる感じがしたらすぐ逃げること。


 大丈夫。忘れていない。


 止まってたまるかと進み続けた。踏みしめる水気の多い腐葉土が靴をぐちゃりと巻き込んでいく。もたつかせるような土を蹴飛ばす勢いで振り回しながら、収也は足早にただ進む。


 だめ、ダメ、ダメ。

 そう頭で唱えながら、忘れないように繰り返し繰り返し、何度でも頭を決まり事で埋めていく。

忘れたら終わりだと言わんばかりに。


 へびと目をあわせないこと、とかげに近づきすぎないこと赤いはながあるさきはのぞかないことたかい声をださないこと心臓がとまるかんじがしタラ──────

 一つ一つ途切れそうになりながら、ただ、ここではない場所へと、

 早く、早くと、


───「───、ッ」。

 ぴたり。収也は立ち止まる。

 「……え………?」


 辺りをきょろきょろと見回し、目を見開いて何かを探す。首を捻るたびに湿気と汗で湿った前髪が、額に貼り付きべたべたと主張している。

 

 なぜ───そう言った意味の言葉を吐く。そう、まさに、収也の頭はなぜとしか思えなかった。眉尻を歪めて、一点に当たりを着ける。

 進むはずだった方を少し外れ、若干森の深部へ向け、走り出す。獣道すらなくなったからか、小枝が服や肌に存在感を残していく。チリッ、と痛みがあった。

 恐らくは、膝小僧の下辺り。

 不思議とあっちこっちと散漫になることはなかった。内側も、外側も。

 行こうと思い、走り出した後も、

如何するの?なんて考えなかった。

 

 がさりがさり───息切れがしてくる。自らの体躯には無理があったのだろうか。ちらりと何処かで、立ち止まれと声が。そんな気がした。

 ジャらんグらんと背で暴れる袋が煩わしい。放り投げてしまいたい。

 いらない───いや、だめだろう。

 口内の肉を噛んだせいか鉄臭さが回る。それだけで随分と不良を起こした気になるから、服の袖で全部拭ってしまう。袖にじんわりと濡れた感触が残る。


 がさっ───収也が目前の緑を叩くようにかき分けた先、その存在達を睨みつける。


 五人。木ノ園に通う同学年の子ども達。女の子二人に男の子三人。

 名前を知っているのは、幹明乃と多空練太。アドレスは、確か何処かの金持ち息子と名家の息子。あと一人の女の子は、赤いピンを付けている。クラスメイトにいた気がする。

 泣きっ面の男の子達にも、背を曲げる女の子達にも、“怒り”が湧いた。だがそれは今どうでも良いと、その怯えの対象に目を向ける。


 鱗。


 爪で触るくらいじゃ剥がれない、両手を使っても難しいだろうびっしり(そろ)った鱗で、子どもの体躯じゃ丸々飲み込んでしまうんじゃないか、飲み込めなくても歯で噛み千切ってしまえるんじゃないかと想定できる、(ほほ)が膜状になった、ゲルみたいな生唾を垂らす頭部。

 四つん這いにしては前足が妙に長く、しゅるりと細い。

 バシンバシンと木々を撃つ、長い尻尾。

 本能的生命の危険を叫ぶ恐怖心を見ない振りして、収也はそれどころじゃないと声を上げる。


 「逃げろよ大バカ!死んじゃうよ!!」


 声を上げながら動いていく。必要なことが取りこぼしされないように、行えるよう、思い付いたことを。

 目に効力を持つ胞子の花。刺すような痛みのある綿毛を引っ掴んで、女々しく涙を浮かべる金持ち息子を見ている、大蜥蜴のその目に後ろからぶち当てる。上手くいく保証のない振り向かれたら即おじゃんになる行為。止まったら負けだと奇声をもってジタバタのたうつ大蜥蜴を無視して、腕を引く。


 引っ張った金持ちm───(かね)息子と、(めい)息子はどうした何だと立ち上がりやしない。

 「何っ、何だよ!」駄々をこねる金息子に、怒鳴りたくなる。それを呑み込んだ。

 明乃は目をぱちくりとしばたかせているし、赤ピンは真っ青なまま下を向いている。

 そんな場合じゃないだろと、「あの!いくよ!ほらっ!」と名前を呼ぶ。


 その子も、ほら立って、行くよ。逃げるよ。

 おまえおとこだろ、ちゃんとしよ!れんた、きみも。行かなきゃ、立って!いい?行くよ。ここあぶない。おきちゃうから。あれ、ずっとはきかない。はやく、ね?行こ?ほら早く!


 声を掛けて、男の子達は半ば引き摺って、女の子達はちょっと気を付けて。


走るよ、良い?

そう問いかけた時、大蜥蜴は尾で木をへし折った。バコンと砕ける音。やばい。

急がないとと、収也は急かす。






好きなシーンです。割と。

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