10 森々格差社会。②
分割すべきか…、まじか……
なげぇ。
青い空が見えない。そんな、緑だらけの森の中。視界がぐにゃぐにゃ歪みそうな、同じ色で出来た世界。隔離されているようだ。
ちょっとだけ、逃げ出して、走り出して一気に家に入っちゃいたくなる。
此処から一歩足を先に出しただけで、自分は死んでしまう。
そうと解っているのに、あの鮮やかな緑は吸い付けるように輝いている。
鮮やかな緑の、光沢を放つ宝石のような煌めきは、酸素に触れ化学反応を起こしている猛毒の空間。
精霊に似た、自分とは違うと見せつけられるマーブル模様の水面は、触れれば皮膚を溶かして底に呑み込んでいく死の底なし沼。
綺麗なものには毒がある。
誰が言ったんだっけ。誰が教えてくれたんだっけ。
途端に胸を、引っ掻いたような違和感が奔った。
傷付くはずのないもので、思わずといったほんの少しの不注意で引っ掛けてしまったような小さな傷み。苦しい気がする。
収也は小さく息を吐いた。眉を顰めながら、落とし所を無くした左手を握り、無理矢理目を逸らす。
一気に済ましてしまおうと、深く足を踏み込んだ。頑として振り向く事なく、意地を張る子どものように。いや子どもなのだけれど。
泥の入った瓶と布きれで包んだ赤石を突っこんだ麻布の袋。その紐をしっかりと握り直しまた歩く。
「薬効のあるやつなんだけど、取ってきてほしいな~」───何となくで覚えのある植物の茎を折る。色はこんなだったか?合っていなくともビガーなら何とかしてくれるだろうと割り切って、一緒に纏めるといけない物にだけ気を配りながら袋に入れていく。
少しじめっとした、肌に纏わり付く風。もうちょっとさわりの良い風が吹かないもんかと思う。べたべたに前髪が張り付く前には帰りたいと思った。
所々で、カサカサカサとそれになりの速度を持って横を走り抜けていく恐らく爬虫類だろう生き物に少し可笑しさを感じ、ピーピヒョ~、ブるぉー!とか言う頓珍漢な鳴き声を聞き、別方向ではヒルらしき黒い物体に雨のようにのし掛かられて息絶える大きな灰色の生き物から目線を逸らしと、自然のとばっちりを食わないようのらくらと避けながら進んで行く。
ぼこぼこと歩きにくい獣道の中、両手をついて登るしかない身体全体を動かす難所の前で、一つ息を吐く。
葉や苔に付いた水気で滑り、頭から落ちるなんてそんな痛そうな、さもすれば気絶するなんてあっては堪らない。傷みは被らないのが一番だ。無い方が良いものは、えてして痛いことなのである。
袋の紐をしっかり肩ひ掛け、背に回す。これで落ちる事も無いだろう。穴が空けばそれは落ちるしかないだろうが。枝に引っ掛けないようにも気を付けよう。
よいしょ────、ぼこぼこになっているふとましい根っこの、長寿故かカチンコチンになった不細工な凹みに手を掛け、ほっ……!っと身体を浮かす。
よじよじと登って根っこにまたがり、先に地面をきちんと見た後、身体をまた降ろす。すとん。
皺のよった服を下に撫でつけ、左右を見回してからまた、歩き出す。
まだなんも進展ない件について。(・・;)