卒業
3月9日。
約二年振りに外へ出た。
寒さに固く縮まっていた体が、暖かく過ごしやすい陽の光の中で、段々と伸びて行くのが分かる。
その中でやってくるちょっぴり寂しい別れと、新たな世界への期待にそわそわする二つの空気が混じり合って、いつもなら気持ち悪くなる騒がしい空間も、今日という日なら何となく許せる気がした。
「卒業おめでとう」
「?! お前、、、、、、」
ピンク色に染まる黒い服を着た集団。
その中で、微かに光る少ない記憶に、かならずいた彼を見つけ、そっと声をかける。
声をかけられた彼は驚いて一瞬、目を大きく見開き、それからそっと微笑んでくれた。
「ありがとう」
彼はそう言ってから一筋、はらりと涙を流した。
なぁ、君にずっと伝えたいことがあったんだ。
あの黒い空間から逃げ出した臆病な僕。どんなに辛くとも逃げずに常に一緒にいてくれた優しくて強い君。
最後の日、君は酷いことを言って傷つけた僕に、そっと寂しそうに微笑んだ。
そして、言ってくれた。
「待ってるから。ずっとずっと、君を待ってるから」
その言葉に、僕はどれほど救われたのだろう。
結局、もう一度この黒い空間に戻れなかった僕だけど、最後に、君にどうしても伝えたい。
「ありがとう。今まで待っててくれて、僕に手を差し出してくれて、本当にありがとう」