殲滅しました
さらに奥へと進む。
ようやく洞窟の最深部にたどり着いた。
そこには今までとは比べ物にならないくらいの数のゴブリンがひしめきあっていた。
最奥には体調三メートルはくだらないくらいのゴブリンがいた。
ゴブリンの王、ゴブリンキングだ。
その周りにはゴブリンキングを護るようにしている数体の騎士ゴブリン。
いいね。そう来なくっちゃ。
さぁ第三ステージ開始だ。
俺はゴブリンのあいだを縦横無尽に駆け巡る。
今ではもう魔法を使っていなかった。
全てを自分の手で切り殺していく。
今までのゴブリンは単独でしか挑んで来なかったが、さすがは王の近くにいる精鋭達と言うべきか、連携をとって攻撃を仕掛けてきた。
二体のゴブリンが前方から切りかかって来た。
俺はそいつらの頭に剣を突き刺す。
その隙に両サイドから大量のゴブリンが剣を突き立てて来る。
その攻撃を空中に飛び上がることで回避して真下にいるゴブリンに向かって剣を全力で振り下ろし突き刺さったままのゴブリンを真下へと叩きつける。
ズガァァァン!
凄まじい衝撃とともにゴブリンは他のやつらも巻き込み地面へと叩きつけられた。
地面には小さなクレーターが出来ていた。
その中心には叩きつけられたことにより潰れているゴブリンたち。
しかしそんなものに一瞥もくれずに両手にあった剣を投擲。
剣は弧を描くようにして飛翔し次々にゴブリンを斬殺していく。
まだ眼下にはかなりの数のゴブリンが残っている。
俺は地面に着地すると同時にその勢いを使って地面を叩きつける。
すると地面がめくれあがって目の前に巨大な岩石が出現した。
俺はその岩石を全力で殴りつけ爆砕。
破片の雨が目の前にいたゴブリンに向かって容赦なく降り注ぐ。
これで粗方片付いたな。
後はあいつらだけだ。
残っているのは騎士ゴブリン三体とキングゴブリンだけだった。
騎士ゴブリンがこちらに向かって来る。
邪魔だ。
俺は一体の騎士ゴブリンの剣を奪い喉に突き立てる。
まずは一体。
続いて近くにいたやつの足を切りつけバランスを崩す。
地面へと沈んでいく。
その頭に剣を突き立てた。
二体目。
次で最後。
最後のやつが剣を振り下ろして来た。
それを俺は慌てることもなく突き立てた剣で引き抜きざまに防いだ。
キィィィンッ
激しい金属音が響き渡る。
敵は鍔迫り合いに持ち込もうとするがわざわざ相手のやりたいことをさせるわけがない。
俺は力を入れていた剣からパッと手を離した。
すると急に力の転換により前のめりになって倒れて来る騎士ゴブリン。
俺はその隙に全力で蹴り飛ばした。
騎士ゴブリンは物凄い勢いで飛んでいき壁に当たって絶命した。
ようやくラスボスだ。
見るとキングゴブリンは仲間が殺られたことに憤怒しているのか顔を歪なくらいに歪ませている。
するとキングゴブリンが急激に飛び出してきた。
今までのやつよりも桁違いに速い。
流石はキングだ。
俺は冷静に相手を分析しながら危なげなく躱す。
自分の攻撃が当たらなかったことで完全に切れたキングゴブリンは我武者羅に腕を振り回し始めた。
短調すぎる。
つまらん。
もう飽きたので早急に勝負を決めることにした。
「死ね、脳筋野郎」
俺は周りに無数の氷の槍を生み出しその全てをキングゴブリンに向かって放った。
数秒後そこにはキングゴブリンの串刺しがあった。
これはこれでなかなかの芸術作品ですな。
俺は氷の槍を消しながそんなことを思った。
こうしてゴブリンの巣一人の冒険者によって壊滅させられた。
外に出て元来た道を引き返しているとレア度の高そうな防具に身を包んだ冒険者の大規模集団に出くわした。
ん?今日なんかあるの?
俺は興味本位で訪ねてみた。
「これから何かあるんですか?」
「んっ?なんだ少年知らないのか?今日は年に一回現れるキングゴブリンの討伐日だぞ」
えっ、キングゴブリン?
あの?
「それってあのキングゴブリンですか?」
「どのキングゴブリンかは知らないけどSランク指定のキングゴブリンだぞ」
Sランクだと!?
あれが!?
「あの、それならついさっき俺が殺しましたけど......」
「ハハハハッ嘘は行けないよ少年。いいかい、いくらSランクの中で一番弱いと言っても俺たちみたいなAランク以上の冒険者が束になって何日もかけてやっと勝てる相手なんだよ。それが君みたいなヒヨッコが殺せるわけがないだろ」
そりゃ信じてくれないわな。
でも今ならまだキングゴブリンの死体残ってるんじゃね。
それを見たら信じるよね、きっと。
魔物は死んでから一時間ほど経つと完全に消滅する。
その前に各部位を取ると消えずに残って素材として売ることが出来るのだが面倒臭いので俺は取っていない。
見れば周りの冒険者も俺のことを笑いながら見ている。
ってことは俺がやってたのって別クエ!?
急いでギルドカードを確認するとクエストは達成されていなかった。
しくったぁああ!
俺が一人で頭を抱えていると冒険者が話しかけてきた。
「とにかくだこの辺はうち漏らしたゴブリンが出るかもしれないから君も早く帰りなさい」
「はい......」
俺は完全に空返事で答えた。
「分かればよろしい!それではな少年」
俺は過ぎ行く冒険者の背中を呆然と見つめていた。
そして
「マジかぁぁぁあああああ」
発狂した。
その後俺はきちんとクエストの方の小さい巣を潰してから街に戻った。
★
「さっきのなんだったんでしょうね」
不意に隣からそんな声がかけられる。
「さあな」
それに対して少しぶっきらぼうに答える。
彼の名前はローカス。
名の知れたAランク冒険者だ。
ローカスは今キングゴブリン討伐のクエストにリーダーとして参加していた。
ローカスは毎年このクエストには参加していて言わばベテランだ。
「ああいうのってよくあるんですか?」
こう聞いて来るのは先ほど話しかけてきたローカスよりも少し若い冒険者。
名前はシンド。
彼は今回初参戦だった。
「ヒヨッコの冒険者は自分のことを何故か強く見せようとするからな。きっとその類だろ」
ローカスはさして興味が無いように答える。
「それよりも、もうすぐでヤツらの巣に着く。気を引き締めて行けよ」
ローカスは隣にいるシンドだけでなく参加している冒険者全員に聞こえるように声を張り気を引き締めさせる。
するとその声にタイミングを合わせたかのように巣が見えてきた。
ローカス達は油断せず隊列を組んで慎重に中へと突入した。
しかしすぐにこの場にいる全員が異変に気づいた。
ゴブリンが全く見当たらないのだ。
しかし地面には血溜まりが出来ていて、あちこちに武器が散乱している。
ならば一時間以上前にここで戦闘があったということだ。
ローカスは混乱するのをなんとか顔に出さずに心の中だけに留める。
「おいどうなってんだ」
「なんでゴブリンどもが1匹もいないんだよ」
「俺が知るわけねぇだろ」
だが明らかに他の冒険者は混乱を露わにしていた。
「全員落ち着け!」
なのでローカスは混乱を収めるために声を張りあげた。
「ここで何があったかは知らないが俺達のやることは変わらない! 奥へと進みキングゴブリンを討伐するのだ!」
「「「おぉおおおお」」」
なんとか混乱を収めることが出来たローカスはホッと息をつく。
「何がどうなっているんですか? ローカスさん」
すると横からシンドが少し怯えた様子で話しかけてきた来た。
「正直全く分からないがおそらく何処ぞのバカ冒険者パーティーが討伐に向かったんだろう」
「なら奥もこんな感じなんですかね?」
「いや、それはないだろう。」
「なんでですか?」
ローカスの否定の言葉にシンドは首をかしげて質問してくる。
「この奥はここよりもさらに広くなっていてゴブリンの数もこことは比べ物にならないくらいに多い。だからそこらのパーティー風情がこれ以上進めるとは思えん」
何度もこのクエストに参加しているローカスの言葉は説得力があった。
シンドは納得顔で歩みを再開した。
奥へと進めばゴブリンは次々と湧いて出てくると思っていたローカスは一向に現れる気配のない状況に本格的に混乱し始めていた。
そしてついに一体も現れることなく大きな広間に出てしまった。
そしてそこにあった光景にローカスは完全に目を奪われて固まった。
またもや血溜まりと武器が地面に散らばっていた。
ここでローカスはの脳にここへ来る前にあった少年の言葉が蘇る。
『あの、それならついさっき俺が殺しましたけど......』
(まさか嘘だろ)
だが目の前の光景がその言葉を現実たらしめている。
ローカスはあの言葉を嘘だと確信づける為に奥へと再奥へと走り出した。
「あっ、ちょ、ローカスさん」
後ろから自分を呼び止める声が聞こえるがそんなものに構っている暇はないと走る。
そして再奥についた時自分の目を疑った。
そこにはなにかに貫かれたのか体に無数の穴を開けたキングゴブリンが絶命していたからだ。
「はあ、はあ、ちょとどこ行くんですかローカスさ――」
そして後からやってきたシンドも目の前の光景に唖然とする。
(間違いないあいつだ......あの私服の冒険者だ。見たところ他に仲間はいなかったみたいだからこれを一人でやったてことかよ......)
そしてキングゴブリンの死体は消滅した。
こうして今年のキングゴブリン討伐は一度も戦闘が行われることなく幕を下ろした。




