6月25日
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
昨日帰ってから現在に至るまで、健介は胃の腑が重くてたまらなかった。
人の形をした物を尋常ならざる力で損ない、破壊する感触。
命を奪った手応えを、手足がはっきりと覚えている。
正しい事をした、取り返しのない事をした。二つの思考が健介の中で幾度となくせめぎ合う。
やっとの思い出で学校から帰ると健介は一路、丸の内に向かった。
ぼんやりと考えるのは、これからのこと。本格的に首を突っ込むのかどうか。
今、名古屋では異常な事が起こっている。
証拠を抑えない限り、誰も信じないだろう。
また異形に変身する事が知られたなら、自分もまた街から排斥される。
自分と認識を共有し、共に行動してくれる誰か。今の健介が最も欲しているのはそれだ。
現場を探して歩き回っていると、立ち入りが規制されているビルが目に入った。
紺色の制服に身を包んだ警察官がビニールテープの前に立っている。
警察官は規制線近くに屯する報道者らしき人々に、厳しい視線を投げている。
30人近くが殺害された大事件だからか、その数は多い。
健介は踵を返して、人だかりから離れていった。
成果を期待してきたわけではない。
しかし状況を解決するためには、行動しなければならない。
自分はどうすればいいのか。こんな状況への対処法など教えられていないし、考えたことも無い。
歩きながら、健介はスマホを取り出す。
楓と省吾を呼び出し、無駄話に興じる。
今のところ、二人は無事のようだ。
地下を目指す道中、健介は感知距離内を動き回る3つの気配を感知する。
いずれも図書室の少年に近い、純粋で強いものだ。
健介は発生源を目指して駆けだした。
肉体の力を引き出して走っている為、そのスピードは一般道を走る自動車と余裕で並走できる程だ。
振り返る通行人を無視しながら、発生源に近づいていく。
向こうも気付いたらしい。徐々に近づいてくる。
まもなく、特異な信号を発する3つの人影が視界に飛び込んできた。
会話が出来る距離まで近づく。
顔立ちの幼い男が「雨宮千晃」、所在無げに視線を泳がせている女が「山岸涼葉」、背の高い男が「海野秀人」と名乗った。
三人は松寿大学付属高等学校の生徒で千晃と涼葉が1年。秀人が2年だ。
健介は国道沿いの喫茶店に入ると、話を切り出した。
「一応聞くけど、ある日突然ッてクチ?」
「はい。風邪がダウンして、治った時に気付いたんです」
「私は…よく覚えてないです。気付いたらこうなってて…」
「二人に助けられた翌日、既にこうなっていた」
ほぼ同時期に力に目覚めた千晃と涼葉の二人は、秀人の窮地を救った事を切っ掛けに市内で起きた事件や噂を調べるようになった。
予算や時間の都合がある為、頻繁には行けないし、大抵は途中で見失ってしまう。
だが辿り着いた先で怪物に遭遇する事もあり、その場合は主に千晃が闘うのだと。
「ふーん、ガンバッてるじゃん。ヒーローみたい」
「そんな大したものじゃありません。僕はこの街で起こっている何かから、身近な人を守りたいだけです」
「俺も同じだ。放っておいても、良い事はなさそうだし。後、個人的に二人に守ってもらいたい」
綽綽と口にした秀人に、健介はつい、口を入れてしまう。
「情けない事言ってんじゃねーよ」
「そんな事言われても俺、喧嘩なんてやったことないし。ホラーも嫌いだからな。こんなヤバい状況だ、千晃達にくっついていた方が安全だろう?」
秀人はぬけぬけと言い放つ。
弱気な台詞に千晃は苦笑し、健介は言葉を失う。
思う所はあるが、下手に繕おうとしない分、好感は持てる。
「私も…他にやりたい事もないし」
最後に涼葉が、力なく微笑む。
しばしの沈黙の後、健介は思いつきを口にした。
「それって俺も手伝っていいわけ?」
健介が尋ねると、三人は驚いたように目を瞠った。
「いいの?」
「いいっつーか、何かしなきゃなーって思ってたんだよ。そっちがいいんなら、俺も仲間に入れてくれよ」
「勿論です!これから頑張りましょう!」
(4人パーティーか…、前衛は足りてるから、後方支援系だと嬉しいんだが、どうかな?)
千晃が右手を差し出すと、健介も「おう」と面映ゆそうしつつ応える。
ひとまず4人でグループを作ってから、現場のビルに引き返す。
間をおかずに来た事もあるが、報道陣の数が減ったようには見えない。
「やっぱ多いな…」
「少し遠くから調べてみよう」
現場に近づいている途中、人だかりが目に入った当たりで、秀人が突然しゃがんだ。
戸惑う健介に千晃が説明を始める。
秀人が持つ能力は2つ。
一つは地面に触れることで、現場周辺の痕跡を暴露する能力。
もう一つは指定した痕跡を辿る事で、相手を追跡できる能力。
ただし前者の能力には効果範囲の制限があり、半径50m以上先には届かない。
靴紐を素早く弄りながら、秀人はそっと地面に触れた。
その時、存在感を増した気配が映像となって、目の前で展開された。
「お、これならわかりやすいな」
「見えない気配を辿るより、いいだろ?」
「これって」
涼葉が呟く。二人も立ち上がった映像を確かめた。
気配の正体は仮面の怪人。
怪人は土汚れが目立つ浅葱色のボロ布に身を包み、見開いた丸い目で四人の前を走っている。
それが連続写真のようにビルの真ん前から続いていた。
四人は投影された画を追って、街を走り抜ける。
前を行く写真は、京町通りに入ったところで途切れていた。
秀人は地面に触れ、気配の残滓を浮き上がらせるが結果は同じ。
その追跡が困難である事は秀人の様子を見ずとも三人には理解できた。
「近くを探してみましょうか」
しばらくあたりを観察して回ったが、めぼしい物は何も見つからない。
数十分して四人は集合。「今日は収穫なしか」と秀人が嘆息する。
今日中に進展は見込めない、と見切りをつけ、四人はそれぞれ帰途についた。
ありがとうございました。