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6月24日

【注意事項】


・ハーレムなし。

・デスゲームなし。

・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。

・読みづらい。

・残酷な描写や暴力表現あり。

・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。


「ハァ…」


 中区のとある企業に勤める原田芳久は、手を洗いながら安堵の息を吐いた。

今日の仕事は片付け終わり、あとは帰宅するだけ。

ただいま夜の8時。定時より一時間遅いが、日によっては更に残業が長くなることもある。

長時間労働の抑制に社全体で取り組んではいるが、内容次第では黙認される。同じ課で残っているのは、彼含めて3名。


 トイレからデスクに戻り、荷物を手早くまとめる。

残っている社員に挨拶していこうと思ったが、オフィスには自分以外誰もいない。

荷物は残っている為、帰ったわけではないらしい。


(なら戸締りはいいな)


 退室してドアを閉めた直後、2階廊下に棚を倒したような音が響いた。

芳久が思わず身体が硬直させた時、エレベーターが到着する。

直後、衝突音と悲鳴のスタッカートが始まった。

状況を呑み込むまでの間、芳久はしばし混乱する。


 呼吸を整えた芳久の脳は、次に起こすべき行動を手当たり次第に提示していく。

警備を呼ぶ?警察?見に行くのはやめた方がいい。社内に残っている人間がいるなら、避難させた方がいいのでは?

様々なプランが浮かぶが、諦観を催す演奏が止んで10分経過した時点で、芳久は一目散に帰る事に決めた。

芳久は音を立てないよう慎重に足を動かし、手すりに縋り付いたまま階段を下りていく。


 同僚も上司も知らない。明日会社が無くなっていてもいい。

俺は家に帰る。この時間に帰るのは久しぶりなんだから。


 這う這うの体で、芳久はエントランスに辿り着く。

扉からビルの外に出ると、ワンピースの若い女が手を腰に当てて立っていた。

呆けた老人のように口を開け、身を屈めているサラリーマンを見て、彼女は如何にも愉快そうに笑っていた。

芳久は彼女に危険を知らせようとする。「こ…」と発した時点で女は大股で歩み寄り、「…こは」まで言い終えた芳久の胸を細い腕で突き飛ばした。

学生時代にバスケットボールを胸で受けた時のような、華奢な見かけからは想像できない衝撃。


――は?


 女の予想だにしない行動に、芳久の思考は漂白される。

それと同時に緊張が解けた。

言い返さなければ、と芳久が考えた時、倒れかけている背中に何かが触れた。







 健介は稽古後、楓達と名古屋駅まで繰り出した。

ファミレスで食事をし、近鉄パッセをぶらついてから構内で省吾と別れる。

二人は岩塚で降りると、自宅を目指して歩き始めた。


それと同時、健介の意識に怖気のような雑音が走る。

すぐに調べたかったが、まずは楓を家まで送る。

健介は一人になった後、駅まで戻ると感覚を頼りに、行き先もわからぬまま歩き出した。

しばらく歩いていると、左右に振れながら歩く人影が目に付いた。


 二人は大通りから遠ざかる。

逡巡していた健介は、意を決して声を掛けた。

人影は無視しているのか、変わらぬ調子で歩き続ける。

肩に手を掛けた時、健介はふと気づいた。


――静かだ。


 車の音が聞こえず、付近には誰もいない。

さらに鉄錆のような臭いが、目の前から漂ってきた。

振り返った影は、どうにも特徴を感じられない男だった。

醜すぎず、整いすぎず。不潔さはないが、華もない。風景に溶け込む中年の男。


 男はいつの間に持っていたのか、金槌を健介目がけて振り上げた。

身を引いた拍子に、健介は尻餅をついてしまう。

続けて金槌が振るわれ、咄嗟に腕を突き出して盾にした。

叩きつけられた衝撃は予想したほど強く無く、痛みもすぐに抜けていった。


「おーい、誰か―!」


 大声をあげつつ、健介は逃げ回る。

目の前の一見、普通のおじさんは、怪猿と似た気配を放ち始めた。

ただ外見に異常は無く、普通の人間そのもの。

変身するのは論外だ。こんな街中であの力は使えない。


 ちらりと振り返ると、男は目と鼻の先にいた。

健介は咄嗟に、顔目がけて拳を振るう。

パンチで傾いだ男は、怯みつつ金槌を横薙ぎに振るう。

それを視界の端に捉えた健介は、体重を乗せた蹴りを食らわせる。

男は勢いよく吹き飛び、一撃で骨が砕けた。


 超人に覚醒した健介の肉体は、精神活動に応じて強化されるようになっている。

不審者に対して抱いている緊張と恐怖は、彼の打撃力を大きく向上させた。

文字通り殺人的威力の蹴りを受けて、男は崩れ落ちた。

足裏の反芻しながら、健介は消滅を見届ける。


 健介は不様に倒れ込み、大きく胸を上下させる。

まもなく、咳き込みながら立ち上がった。

もし今の現場を見られていたら。

健介は不安になり、様子を窺うと脇目も振らず駆けだした。





 その日の晩、健介は市内で猟奇殺人事件が起こった事を知った。

『発表によると今日午前8時ころ、名古屋市中区丸の内▲丁目にあるビルで「社内で人がたくさん死んでいる」などと110番通報があったということです。

発見者はビルに勤務する女性会社員で……』


 ニュースによると発見された遺体は29名。

いずれも通報者と同じ会社に勤務する会社員で、一部の遺体は首や手足をバラバラに切断されているらしい。

キャスターは「県警は昨日出勤したまま、行方が分からなくなっている男性社員が何らかの形で事件に関与していると見て調べを進めている」と事務的に告げた。


ありがとうございました。

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