霊園にて(2)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
「えっ」
「あ」
豪音と共に男女の背後に、何かが現れる。
2人の背後の墓を踏みつぶした、鳥の下肢を思わせる大きく立派な両脚。
中世の拷問器具を彷彿とさせる大きな胴体。
左右に牙が生え揃う身体は、さながら巨人の口を縦にしたみたいだ。
そして口の内側に収められているのは、醜悪な肉塊と女の上半身。
上半身――白髪を振り乱した老婆は獣のような絶叫をあげ、胴体から伸びた3本の触手を振り向こうと立ち上がった男女に向けて突き出した。
3本の触手は締まりのない身体2つに巻き付き、ねじ切らんと締め上げる。
まもなく絞られた果実同様に、赤い飛沫がそこかしこに飛び散った。
返り血は老婆――ジャンピング婆さんの全身にかかり、皮膚や肉の隙間に吸い込まれていった。
(何あれ?)
既知の生態系では括り様がない怪物であった。
轟音が聞こえた時点で霊的視線を戻した道隆が見たのは、墓石の間で狂乱している複数の生物を混ぜたような老婆だった。
道隆は液体となったまま下方に目を配っているが、気配は相変わらずぼんやりとしか掴めない。
やがて老婆の下半身を取り込んでいる肉塊から、黒い泥が吐き出されていく。
泥は様々な形に変化していく。犬、猫、小鳥などなど。
ここで埋葬された動物霊かと道隆が納得するが早いか、泥の獣達は墓参に訪れていた人々や通行人を目指して駆けていく。
不幸にも捕まった人々は首や腕に噛みつかれ、あるいは顔や足を裂かれた。
しかしそれらを食べることはない。
この動物たちは老婆から供給されるエネルギーのみを受け付ける使い魔であり、実体を持った死霊なのだ。
(面倒臭いけど、行くか)
これが外部に広まると、騒ぎは一気に拡大する。
人目は気になるが、道隆は対処する事に決めた。
結界を張る時間は、とても工面できそうにない。
道隆は老婆の頭上で己の肉体を液体から固体に変換。
気配の濃度は一気に増大。むせ返るような心地悪さは、煙草の副流煙によく似ていた。
公園で戦った男では比べ物にならないほどのプレッシャーだ。
道隆は勢いをつけて踵落としを試みる。
男女を持ち上げる触手の間を通り、老婆の脳天目がけて右足を振り降ろす。
老婆が金槌で打たれた様な衝撃を覚えた直後、その頭部が陥没した。
着地した道隆は追撃を試みるが、僅かな物音を拾うと背後に跳躍。
まもなく意識を取り戻した老婆は頭部を修復することなく、活動を再開。
掴んでいた死体を捨てると一歩踏み出し、青い怪人に泥の獣を差し向けた。
道隆は摺り足気味に更に後退。並行して獣達や周囲の雨滴に命令を下す。
獣達は命令を受け付けないが、天は道隆の味方だった。
この時、天白区の降水量が1時間あたり1mmから20㎜にまで一気に上昇。
区内で外出していた人々は非難の言葉を口々に並べながら、急いで建物内に避難していった。
更に道隆は自分の周囲に降る雨粒をかき集める。
まもなく水球が4つ、5つと出現し、そこから放水が行われる。
鉄すら砕く水の刃によって、獣たちは残らず砕け散った。
(やっぱ、雨天だと違うな)
その水球の速度、圧力、何もかも晴天時とは違う。
獣の群れを退けた道隆は、雨粒を使って足場を宙に作成。
地を蹴って飛び乗ると、自身の周囲に全長2mほどの杭を4本出現させた。
これは外界にある全ての水、空間を区切り支配する結界術に続く、変身した彼が持つ第三の武器であった。
4本は音に迫る速度で老婆に迫り、瞬き程の時間を置かずに命中。
発射したうちの半分は触手によって叩き落とされたが、勢いは健在。
2本は敷石を吹き飛ばし、地面を抉る。
その片方は道隆が止めるより早く、霊園を突っ切り、グラウンドに滑り込んだ。
触手をすり抜けた2本は老婆の胴体や右膝に命中。
黒い泥が濁った音を立てて地面に流れていく。
致命傷を避けた老婆は、皺だらけの顔を更に歪めて吠える。
地面の下から、轟音が響く。
まもなく、1本の杭が墓石を割って、霊園に姿を現した。
この杭は思念によって、自在に動かす事が出来る。
ひとたび命じれば、杭は弾丸のような速さを保ったまま、空中でUターンし、地中を掘り進む。
グラウンドまで飛んでいった1本も軌道を変更。
撒き戻るように後ろ向きに宙を進む。
2本は空中で、有効打となった2本と合流。
4本は老婆の頭上から、雨に交じって降りかかった。
老婆の牙が砕け、触手が砕断される。
杭達は勢い余って地面に突っ込むが、まもなく敷石の下から撃ちあがった。
無言の道隆の周囲に、忠実な僕のように4本の杭が侍る。
死に体となった老婆は激痛に悶えつつも、攻める手を緩めない。
寝転がった老婆は黒い泥を動物に変えることなく、濁流として敵に放った。
濁流は2つの遺体や石の破片を押し流して道隆に迫るも、半径1mから先には侵入する事ができない。
水だ。
宙に伸びた黒い洪水が、透き通る壁によって塞き止められていた。
そもそも老婆の泥は凶獣作成を本領としており、パワーやスピードにおいて道隆の水流を大きく下回る。
水の壁は濁流を徐々に押し返し、その後ろの道隆は老婆の真上に8本の杭を配置。
指をついと動かすと、続けざまに1本ずつ射出される。
掃射を浴びた老婆の力は尽きた。
それを証明するようにその身体は塵となって消え去り、獣達は元の汚泥に還ると地面に吸い込まれ、影すら無くなった。
後はこの騒動に、世間がどれほど注目するか。
もはや長居する必要ない。
道隆は雨雲の支配を解くと透明な水になって、霊園上空に飛んでいった。
ありがとうございました。