霊園にて(1)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
走行する地下鉄が新栄に到着した。扉が開き、乗客の一部が入れ替わるが読書に耽る道隆は置物のように動かない。
火曜日。道隆にとってはバイトの休日。
彼は集めているタイトルの最新刊を購入するべく、朝早くから栄まで足を延ばしていた。
ついでに店内を見て回って、目についた小説かコミックを適当に数冊買うつもりだ。
地下鉄は平常通りに運行しており、乗客の波が収まるとゆっくり扉は閉まった。
再び動き始めた車内で、道隆は持参した小説に目を落とす。
読むのはもっぱらホラー小説だが、最近は創作以上に奇怪な事態に度々遭遇している為か、読んでいると(これなら対処できそうだ)とつい考えてしまう。
(引っ越しの準備しようかな…)
もし事態が明るみに出て、名古屋から人がいなくなるような状況になるなら、市外に逃げようか。
人間だった頃よりも一人暮らしの気苦労は少ないはずだし、結界を用いれば寝る場所にだけは困らない。
家族をどうするか、という問題が残るが…。
(部屋の広さはいいんだけどさ…)
道隆は実験の名目で、住んでいる家の空間を操作している。
指定した境界線の内と外で空間を区切り、自分のエリアを明確化する事で、変身した道隆は様々な恩恵を受ける事が出来るのだ。
例えば「自宅の中」と「自宅の外」、「押入れの中」と「押入れの外」。
自宅には人払いの効果を、押入れには容量拡大の法則を。
特に、押入れは見た目以上に、物を入れられるようになった。
増えていく収集品をそこに詰めることで、私室をこれまでより広々と使えるようになった。
超人となって何よりも有り難かったのがこの点だった。
しかし賃貸マンション住まいである以上、出ていく可能性が絶えずある。
引っ越す事になった場合は収集品を取り出し、一緒に持っていかねばならない。
それらを永久的に隠しておける場所や、安全に持ち運ぶ手段も考えなければなるまい。
もう一つの能力の解析も進めていかなければ。
――次は、栄、栄。
降車駅が近い。道隆は表紙を閉じて、雨傘を持って降りる準備に入る。
思索に耽っていた為、今回は読書に全く集中できなかった。
まもなく道隆はホームに降り、名古屋で屈指の乗換駅にごった返す人混みを掻き分け、地上を目指して歩き出した。
自宅に帰り着いたのは丁度昼。
道隆はネットサーフィンの合間に、出来合い弁当を食べている。
帰り道で警察官を何人も見かけた為、試しに検索してみると千種区の強盗殺人がヒットした。
被害者の財布が現場から離れた公園で見つかったらしい。中身は惜しく思うが拾わなくてよかった。
弁当を食べ終えると暇になる。
パソコンに向かっていると時間の経過が早く感じてもったいない。
読書か結界の手入れでもするかと思った道隆だったが、ふと思いつく。
――『名古屋 心霊スポット』
(東谷山か)
道隆には馴染みのない地名だったが、デートスポットとして人気と出てくればそれも納得。
本やゲームを友としている道隆には縁のない場所だ。
心霊スポットとして挙がっているがこれといった噂は無く、わざわざ出向くには決め手に欠ける。
(八事霊園…)
ペットの火葬を行っているらしく、動物霊の目撃談のほか、足音が聞こえてくるといった噂が多いらしい。
大量のオーブに「ジャンピング婆さん」なる怪人物の話すらある。
大正時代から続き、斎場まで備える霊園。期待値はかなり高い。
(ここにしよう)
道隆は戸締りを確認すると私室で変身。
霧となって自宅を出ると水に変形し、八事霊園を目指して飛び立つ。
水を得意としている為、雨が降っているのは有り難い。
道隆は人外となった己を否定していない。
手元に転がり込んだ異能を歓迎できるくらいには、人間の日常に辟易している。
それに変身して戦う、というバトルスタイルは道隆の趣味に合っていた。
今回、道隆は区外まで出向くが、使命感に目覚めた訳ではない。
あくまで暇潰し。夕方頃には家族が帰ってくる為、夜まで待つ気はなかった。
午後1時過ぎ、大階段から小雨の降る園内を見下ろす。
視界の端から端まで大小様々な墓碑が立っており、彼方の街並みも強化された視覚なら良く見渡せた。
さて、どこで固体化するか。いや、水のまま園内を探索するのが無難か。
当てもないし、見られた時のリスクを考えると、それが最適だろう。
道隆は霊園に侵入した時点で、怪物の気配を捉えている。
しかし肉体を液化させているからか、形が茫洋としており、はっきりと出所を辿る事が出来ない。
固体化して歩き回りたいが、顔は晒したくない。
変身したままなら見つかっても、すぐに逃走することができるが…。
(あれは…墓参りかな)
墓石の前で屈んだまま手を合わせている男女がいる。
中年の男女は道隆に背中を向けており、また傘をさしている為にその表情は窺えない。
彼らは園内で蠢く水の怪には気づいておらず、またその怪物も今、男女から視線を外した。
ありがとうごさいました。