7月7日(6)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
夜中の錦通。
健介が赤熱する火球を頭上に向けて放った。
アバドンの皮膚が泡立ち、黒く焦げていく。
狂い悶える声を聞きながら、千晃は全員に稲妻の加護を与える。
アバドンの単眼の明滅を見て、羽根川敏は一目散にホテルに戻った。
多少の罪悪感は覚えていたが、彼に攻撃向けの能力はない。
元尚はきっと咎めないだろうし、この場で敏を叱責する余裕は誰にもない。
敏の遁走と同じタイミングで、皆回避行動に移った。
涼葉だけが一歩遅れたが、元尚がフォローに入った。
「コイツを引き離せ!」
魔の光が奔り、元尚が叫ぶ。
この時、魔光線を浴びた者は名古屋にいない。
元尚は涼葉にドラゴンを呼ぶように言うと、自身は放置されていた自動車に向かっていく。
70m近い距離を0.5秒で詰めた為、図らずも車体と衝突してしまう。
健介が炎の矢を撃つ。
アバドンが炎に巻かれる様を見つめながら、健介は跳躍。
普段の10倍の高度まで飛び上がったが、アバドンの尾までは届かない。
――空が飛べるなら、殴るなり斬るなりできるのに。
千晃の強化を受けても、届かない。
落下する健介の横を、自動車が飛んでいった。
元尚だ。彼が思念を通した「硬質の物体」は武器としての質を大きく高める。
強度が向上するほか、触れれば軽々と振り回す事が出来る。
特大の飛礫はアバドンではなく、近くの名古屋遊山ホテルに突き刺さった。
「外してんじゃん」
「うるさい。次!」
千晃が雷電を網目状に走らせ、涼葉の乗ったドラゴンが飛ぶ。
破壊の咆哮が立て続けにアバドンの顔目がけて放たれる。
20m大のクリーチャーは肉片や血液を撒き散らしながら、飛び回る。
顔の左半分が崩れているが、動きは落ちていない。
アバドンは彼らへの礼を試みる。
健介達が妖気の波長の乱れを感知し、さらなる猛攻を加える。
変身した千晃がするりと近づき、十字槍で攻撃を加える。
初撃の倍の規模の火球を放ち、細長い胴体を焼き払う。
直後、猛風が発生した。
真紅の巨体が羽根のように持ち上げられ、鉄塔が折れ曲がる。
高層ビルの窓が一つ残らず割れる。烈風は割れた窓から入り込み、部屋のドアを吹き飛ばしていく。
突風の凄まじさに、涼葉も指の先が白くなるほどしがみつく。
彼女を守る力場の許容量を超える暴風。
ドラゴンの身体にも小石や街路樹が何度となく叩きつけられる。
思わず体を傾けた時、涼葉は宙に投げ出された。
元尚は落ちていく涼葉を駆け寄って受け止め、アスファルトに落下。
4~5mの大跳躍の後、受け身をとることもできずに腕や背中を強かに打った。
涼葉は気を失っているが大きな怪我はなく、自身も戦闘に支障はない。
「おい、そっち大丈夫か!?」
「まだいい、攻撃しろ!」
元尚の叫びを受け、健介はアバドンに向き直った。
千晃が稲妻を撃った時、敏捷の祝福が解ける。
瞬間、泥のような空気が全身にまとわりついたように感じた。
アバドンの蜘蛛足が蠢く。
気温が見る見るうちに下がり、まもなく雪が吹き付け始めた。
「よそ見するな!戦え!」
健介は避難所のホテルに視線を向けた。
それを見咎めた元尚は、涼葉を抱えたまま叫ぶ。
《忌々しい!いい加減に倒れろ…》
ドラゴンは主を失ったまま、単眼部分に噛みついた。
節足が腹に突き立つが、顎の力を緩めようとしない。
(やっぱり心配だ…)
健介は無数の雹の中、ホテルに引き返す。
背後から罵倒や疑問の声が聞こえてくるが、構わず走る。
「楓!…」
ロビーに飛び込むと、ソファや壁に霜が降りているのが目に入った。
一方、避難者は炎に包まれて如何にも熱そうにしている。
燃える人の群れの中央、岩のような表皮を持つ真紅の異形が健介を見ていた。
「俺…?」
健介の呟きを聞き取った異形が、こちらを振り向く。体格の違いを除くと、両者は瓜二つだった。
「ケンスケ…?」
「はぁ…楓か!?ひょっとして」
これが健介に与えられたもう一つの能力だった。
親しい間柄が戦う力を強く求めた時、自身の能力をコピーし、貸与することができる。
精神力による肉体強化や気配感知は備わらない為、総合力はオリジナルより落ちるが。
「どうしたの、そっちはもういいの…」
「いや、心配だったから戻ってきたんだけど」
「!――なら戻ったほうがいいよ、こっちは私が見てるから」
赤いワニのような怪物が、楓そっくりの声で喋る。眩暈がしそうな光景だ。
「わかった!すぐ戻ってくるからな、気をつけろよ!」
「ありがとう。早く行って」
健介が交差点に戻った時、戦いはまだ続いていた。
元尚の上着の右袖が破け、腕の皮膚が変色している。
また右足の動きがどこかぎこちない。
僅かな時間だったが、負傷したらしい。吹雪は既に止んでいた。
「ワリィ!…いや」
「避難所はどうだった、無事か?」
元尚は顔を向けないまま、尋ねる。
「お、おお…みんな無事だと思う」
「そうか」
そのまま走り出した。
肩透かしを食らった気分のまま、アバドンに視線を向ける。
満身創痍と呼ぶに相応しい姿だが、気勢は衰えていないらしい。
ホテルが健介の視界に入った。
窓が吹き飛び、いかにも廃墟といった風情だが倒れてはいない。
意を決して近づき、内部に踏み込む。
その後方で元尚がアスファルトを隆起させる。
千晃が紫電を投げ、元尚が瓦礫の砲弾を飛ばす。
アバドンが再び魔性の輝きを放った頃、健介はホテルの屋上に立った。
彼はホテルに侵入すると、天井を砕きながら上昇し続けたのだ。
距離はまだ足りない。承知の上で空に身を躍らせた。
(これやりたくなかったんだよな、絶対痛いもん…)
背中で爆発が起こった。
夜空を赤く染めるほどの炎が巻き起こる。
健介は爆風によって、アバドンの後頭部のリングまで飛ばされた。
――食らえ!
頭髪に飛び移ると刀を出現させ、刃を熱した。
いかにもグロテスクな外見をしているが、健介が最も嫌悪感を催したのは、人間そのものの頭部だった。
健介は指を突き立てて、しがみついている。頭蓋骨と思しき手応えが伝わる。
橙色に輝く剣を力の限り、生い茂った頭髪に突き立てた。
アバドンは耐え難い激痛に身もだえし、出鱈目な軌道で飛び回る。
健介は刀を繰り返し、後頭部に突き立てる。
ホテルの天井をスチロールのように砕く、悍ましいほどの怪力による刺突。
突き立てていた指が動いた拍子に、アバドンの頭部が削れて健介は落下。
遠ざかるアバドンめがけて、タイヤ並みに大きな火球を投げつけると、着地態勢に入った。
火球の着弾と同時に、千晃の雷撃が巨体を貫く。
体力の尽きたアバドンの身体が、地面に引っ張られるように落ちていく。
健介はその下敷きになった。
「先輩!」
千晃が呼びかけた時、死体の一部が爆ぜて健介が飛び出してきた。
「無事ですか!?」
「おー、平気平気。それより早く戻ろう…」
元尚はすでに駆け出していた。
健介は気を失ったままの涼葉を治療。
千晃に任せて、避難所のホテルに戻った。
千晃が去り、交差点にアバドンの死体が残された。
ありがとうございました。