7月7日(4)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
まもなく、スーツの半身が出入口を塞いだ。
その身の丈はビルの規格に合っておらず、屈んで潜る事を諦めると鎌や手で入口を削り始めた。
「ねぇ…入ってくるよ」
「お前ら、奥、警戒して。俺が何とかする」
健介は変身すると窮屈そうに背中を丸めつつ、大男に近づく。
しゃがんで足を払うように蹴飛ばすと、右脛が吹き飛んだ。
倒れ込んだ大男を押しのけて外に出て、横たわった身体に刀を突き立てる。
刀を引き抜いてすぐ、消滅が始まった。
「助かったよ健介。お前にばかり…」
「ハイハイ、お礼はいーから。てか千晃遅くね?」
「そうだねー、連絡して…あ」
「どーしたの?」
涼葉が携帯を取り出そうとした時、妖気が近づいてきた。
気配は上空から地上に降下し、まもなく見慣れた異形が入口に姿を現した。
異形が変身を解くと、顔立ちの幼い色白の少年――千晃が顔を見せる。
「遅くなりました、皆さん!」
「良かった~、怪我してない?」
「無事に全員揃ったな!よかったよかった」
再会を喜び合ってすぐ、千晃はこれまでの経緯を説明する。
笠寺で出会った佐藤を名乗る変身能力者。
有松で出会った巨大怪物。
両者の概要について、分かる限りを皆に伝えた。
「佐藤か…こっちも一人会ったよな」
「そうなんですか?」
次は秀人がこれまでに出た話を説明する。
「一旦、別れるんですか…」
「この状況だ、いつ通信が途絶しないとも限らん。家族や友人とも、合流するなら早い方がいい」
「怪獣も出るんだろ?だったら早く助けにいかねーと」
二人の説明を聞いた千晃の表情は固い。
「今日中に終わらないと思うんです。保護した難民を連れて歩けるほど、僕らにゆとりはない。どこか安全な…一か所に集めておける拠点が必要だ」
「拠点は俺も考えていた。しかし守る役を置くとなると…」
「おー、二人とも慎重だねぇ」
感心した様子の健介に、千晃がやや自嘲気味の笑みで返す。
「戦いが最優先ではなくなりましたから。助けた人達の安全を考えるとなると、慎重にもなります」
「あー、前は突っ込んでブチのめすだけだったもんなぁ!」
二人が笑顔を交わす傍ら、涼葉が秀人に相談する。
「次はどこに行けばいいと思いますか?」
「当ては特にないな…近くで言うなら、鶴舞の公会堂が拠点として使えそうだが」
「名大病院とかどう?薬とか包帯とかあった方が良くない?」
健介は名案だと頷いたが、秀人が真っ先に反論した。
「良い案だが、俺たちが考えつく位だ。他にも出向いたヤツラはいるだろうな…」
避難場所として考えると、病院はあまり当てにならない。
怪我人や薬品などを求める群衆が、早期から押し寄せてきているはずだからだ。
また事態の深刻さに気付いた時点で、病院側が来院を制限する可能性もある。
異変発生以前の入院患者たちのケアも考えると、避難者の宿泊場所としては利用させてくれないだろう。
そんな考えを、秀人は楓に伝えた。
「じゃあ、ホームセンターもダメっぽいね~」
「…荻野さんが従業員だとかで構造に詳しいなら、拠点にできそうだが」
千晃が口を開く。
「武器も欲しいですね。留守番を置く余裕がない以上、避難してきた人達にも武装してもらった方がいいかと。その方が皆安心できると思います」
「じゃあ、警察署だ!」
「行ってもいいが、銃は手に入らないと思うぞ?武器弾薬は先ず警察官が使うんだから、民間人には渡さないだろう」
「そっかー。ま、効くかわかんねーしな」
話し合いはしばらく続き、最終的に避難者――4人の近親者の捜索から始める、という結論で落ち着いた。
探す順番は一般人の楓の家族が最初。次に南区在住の3人、健介が最後。
健介の両親が最後になった理由は本人の意見もあったが、母親の避難先に超人らしき人物がいるという情報があがったからだ。
秀人は件の人物との合流を唱えたが、多数決で却下された。
そして、この会議のすぐ後。ネットが繋がらなくなった。
名古屋市全域が停電に見舞われたのだ。
少なくとも今日と明日、市民は電気の無い世界で生きることになる。
健介達は二手に分かれて、脱出を目指す。
千晃、涼葉組が市内の捜索。
健介と秀人、楓の組が拠点の確保に当たる。
「もし小春さんや、他の…仲間と出会う事があったら協力できるよう頼んでくれ」
「はい」
「ただし、相手を見極めろよ。不審な相手との接触は―」
「―わかっています。涼葉さんも一緒ですから、無茶はしません」
「それならいい」
健介達に別れを告げると千晃達は去っていった。
彼は人目のない事を確かめると、変身を行う。
涼葉を抱えて浮上すると、高空で彼女が呼び出したドラゴンに搭乗。
二人は竜の背に乗って鶴舞を後にした。
「じゃー、俺らも行くか」
「ああ、公会堂が使えそうならいいが…」
「あのさー、その辺の民家じゃ駄目なの?」
「え、本気?いつ帰ってくるかヒヤヒヤしながら寝れる?」
三人はひとまず、鶴舞公園に向かった。
気配を探ってみたが、何も無い。怪物も、超人も公園内にいないようだ。
正門広場から噴水塔に向かって歩いていると、異様な死体が目に入った。
死体その物は珍しくない。秀人ですら目を背けてはいるが、状況に慣れつつある。
「なにこれ…」
「んー?喧嘩の後か…これ」
中年の男2人の死体だった。
すぐ近くに倒れており、両者とも損壊が激しい。
カーキ色のズボンを履いた方、固く握った手の間から糸くずのような物が飛び出している――髪の毛だ。
黒いシャツの男の頭髪の一部が抜き取られている。出血の痕も確認できる事から、かなり激しく引きちぎったらしい。
また、黒シャツの爪の間には滓のようなもので埋まっており、楓が推測する限りでは皮膚や肉ではないか、とのことだった。
「楓、平気か」
「平気。だけど見てると痛々しいっていうか、悲しくなるよね」
「そっか。ここはもういいだろ、奥に行こう」
「……?」
喧嘩や不和を嫌う割に、死体の指をじっくり確認する女。
その趣味何とかならない?を喉の奥に引っ込め、秀人に声を掛ける。
俯いたまま歩く秀人の手を引きながら、公会堂まで歩く。
「止まれ!」
「あぁ…どうしたっ、敵か!」
「いや、化け物の、死体?」
玄関前にあるスロープ。
そこに化け物の死体があった。
蝶に似た翅が生えた人型。
首が落とされ、両足が周囲の地面諸共陥没している。
秀人の手を離した健介は閉口したまま、投げ出された腕を確かめる。
人間の手ではない。
全体的に角ばっており、皮膚の感触はレザーを想起させる。
爪も鋭く、ヒトよりも鳥や犬猫のそれに似ている。
「おーい、まだか…?」
「何かわかったー?」
「ン、今行く」
思索を打ち切ると、二人と古風なアーチを潜った。
玄関エレベーターホールに出る。
人の姿は無く、耳を澄ましても何も聞こえない。
2人に目配せすると、ホールに続く扉を開けた。
「うわ、グロ」
「ふっふっふ…」
「……」
健介は喉をせり上がって来た者をぐっと飲み込んだ。
秀人は突然、笑いだす。
楓はしげしげとホール内を見渡している。
嵐が通り過ぎた後だった。
胸を抉られた若い女が、座席ごと倒されている。
頭髪の薄い男性が、四肢をちぎられたまま、通路に横たわる。
小腸や胃など、平素ならまず見る事のない臓器が、脱ぎたての衣類のようにホール中に積まれている。
通路は血や脳漿で散らかされており、踏むと湿った音がする。
赤い騎士が招いた災禍だった。
騎士が発する妖気には、人々を狂気に駆り立てる力がある。
「平和」を奪い取り、殺し合いを強いる。
人間なら素手や武器によって、アバドンの眼光によってミュータント化した者なら、異能や殺傷部位によって。
健介達が抵抗できたのは、超人であったからだ。
感情の変動が生み出すエネルギーによって、彼らの心身は保護されている。
完全な無力化にこそ失敗したが、精神の装甲によって赤い騎士の狂奔を凌ぎ、理性を取り戻すことが出来た。
健介が治癒に秀でた力を持っていたのは、楓の大きな幸運だった。
秀人の哄笑は、しばらくすると慟哭に変わった。
預かった荷物を運ぶのも忘れ、滝のような涙を流す。
健介は寸でのところで荷物を回収。一旦、ロビーに戻った。
「ねぇ、ケンスケ。海野先輩のこと、治せない?」
「は?あ、あぁそっか」
楓に言われて思い出した。
健介は変身すると、秀人を癒すべく、炎を放った。
炎が掻き消えてすぐ、嗚咽が止まる。
脱力していたが、眼差しが正常に戻っている。
「……すまん、助かった」
「おう」
しばらく歩き回った3人は、2階の集会室で休息をとることにする。
秀人は部屋に着いた後、疲労を理由にすぐ眠ってしまった。
2人はこの間に、少し遅めの昼食を摂る事にした。
ありがとうございました。