7月7日(3)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
時間は1時半ごろまでさかのぼる。
名古屋のあちこちに死体が積まれ、血の絨毯がアスファルトに敷かれていく。
自動車や店舗から火の手が上がる。
肉の焼ける臭いと黒煙が空を覆い、その上で羽のある怪物が、逃げ惑う市民を嘲笑っていた。
健介達は丸田町JCTで合流した後、柱の調査に移った。
黒に近い黄色。幅、高さともに東京のスカイツリーを凌駕する、用途・材質不明の建造物。
真紅の斬馬刀を出現させ、健介は近づく。阻むものは無く、柱を射程に収めると刀を振るった。
柱には傷一つつかない。
続けて二度振るうが、短い金属音が響くのみ。
そっと刀を近づけると、柱との間に光が走った。
携帯のバイブレーションに似た手応えが、刀から伝わってくる。
健介が秀人達の元に戻ると、控えていたドラゴンが攻撃を加えた。
柱に、錐のように細めた衝撃波が叩きつけられる。
金属質の表面に閃光の膜が現れた。ブレスを止めると膜が消える。
柱の表面には、僅かな変化も見受けられない。
「駄目かー、全然傷つかねェ」
「何かに守られてるのか、これはしばらく放っておくしかないな」
秀人が頷くと、小春が声を掛けてきた。
「ね、私そろそろ行くけど」
「あぁ、気を付けてな…」
飛びあがった鳥人を、真紅の異形が呼びとめた。
「無茶すンなよ。鶴舞に出てきたヤツ倒して万事解決とも思えねぇし、何かあったら戻ってこい」
「そうかもね…けど、放置ってわけにもいかないでしょ」
再会の約束だけ済ませて、小春と一時別れた。
「珍しいですね…?松岡先輩があんな事言うなんて」
「そお?けどさー、今何をやらなきゃいけないかってなったら、皆を安全な場所まで逃がす事だろ?」
「どこに?」
変身を解いた健介の代わりに、秀人が答える。
「まず考えられるのは市外だな。ところで健介、荻野さんは連れてきてよかったのか?」
「うん?まぁ、こんな状況だしな。側にいないと不安だろ」
「堂々と言わないでよ…恥ずかしいよ」
楓が照れ臭そうにすると、健介は薄く笑った。
「そっちは二人で相談してもらうとして、助けが来るまではもたせないとな」
「そーだ、救助はまだかよ。警察とか何やってんだ」
「すぐ来ると思うけど…」
生家近くで警察官にあったがそれくらいだ。
ネットで検索した限りでは外は無事らしいが、救助活動が始まっている様子は見られない。
だが事態が名古屋市だけで収まるなら、明後日には助けが来るだろう。
「千晃が戻ったら、一旦解散するか?皆も家族とか心配だろ」
「え…いいのかな」
「別れるのは問題だが、身内は拾ってこないとな。家や学校も安全とは言えないし、どこかに安全な拠点――」
《小娘、向こうから何かが来るぞ》
ドラゴンの声の直後、強大な気配が4人に接近してきた。
発生源は早苗が呼び出した赤い騎士。ひしめくビル群を蹴飛ばしつつ、4人には目もくれずに走り去った。
「…なんだ今のは」
「わっかんね!ちらっと、赤い馬が見えたけど」
騎士の姿を消す前後、周囲の妖気が乱れる。
不快な囁きが耳の奥で聞こえ、健介は脳が熱せられたように感じた。
視界に暴力的な赤が滲む。思わず目を閉じたが、まもなく平静に戻った。
秀人や涼葉も同様だったらしい。立ち直ったのは、秀人が最後だった。
「楓、大丈夫…」
健介は楓の様子が気になり、振り向いた。
彼女は顎を思い切り開いて、健介の喉に噛みついた。
寸でのところで歯を躱す事は出来たが、代わりに頬に爪を立ててきた。
肩を掴んで離そうとすると、楓は鳩尾目がけて蹴りを繰り出してきた。
「痛てェッ!おい、楓!?」
「なに!?」
楓は口の端から唾液を垂らし、歯を剥き出して唸る。
思わず手を離した事で拘束が緩む。
楓はその隙をついて距離を詰め、健介の両目に向けて指を突き出した。
危うい所で秀人が、楓が羽交い絞めにした。
獣のように叫ぶ彼女から、普段の面影は欠片もない。
自由になっている足が、秀人の足を何度か踏みつけるが、秀人は腕を離さない。
健介から預かっていた荷物が、足元に放り投げられて落ちていた。
「と、とりあえず縛る物!」
「えー、そんなの持ってねぇよ!?」
「だったら探してこい!健介!」
10分ほど経ってから、健介はバスタオルを数枚持って3人の元に戻った。
「タオル!?もっと丈夫な物持って来い!」
「うるせー、痕がついたら困るだろ!とにかく縛るぞ!」
暴れる楓の手足を縛り、最後に猿轡を噛ませる。
「どうしたのかな…荻野さん、急に暴れはじめたけど」
「さっき妙な気分になったよな、秀人?」
「あぁ、とりあえず彼女を落ち着ける場所に運ぼう」
健介が楓をひょいと抱え上げ、涼葉が楓の荷物を持つ。
4人は近くの人気のない店舗に向かった。
店の奥に向かい、もがき続ける楓を床に転がす。
「で、どうする?」
「放っておいたら、治らないかな?」
座り込んだ涼葉が控えめに口にすると、二人は苦笑した。
「治ればいいけどな。何が原因なんだろ」
「考えられるのはあの柱か、赤い馬だろう」
正午に異変が始まったが、楓は怪物と何度か接触したが、特に異常は見られなかった。
さらに秀人があげた二つを除くと、残るのは健介達超人、涼葉のドラゴンくらいだ。
赤い騎士が出現した直後、妖気が乱れ、胸がざわつき始めた。
「楓は柱には触ってねぇぞ。赤いのも通り過ぎただけだし」
「さっき、身体が熱くなった…すぐに収まったが。あの時、荻野さんはどうだったんだ?」
秀人が二人に水を向けたが、健介と涼葉は答えられなかった。
脳が茹るように温まり出した時、健介達は早くなった呼吸を整えるのに必死だった。
楓の方を見る余裕など、あの瞬間には無かった。
「~~!」
健介がちらりと振り返ると、楓が頭を叩きつけるように揺り動かしている。
手足をあちこちにぶつけ、苛立ちを全身で表現していた。
「お前、確かケガを治す事ができたよな?」
「おー、そうだぜ」
「試しにやってみたらどうだ?」
陸に上がった魚のような動きを見ながら、秀人が思いついたように言った。
「ハァ?あれは怪我を治すだけで、頭がヤバいのは治らね―ぞ」
「ヤバ…って、試したことあるのか?」
「ないけど」
「それならやってみろ。上手くいくかどうかは、一旦置いておけ」
健介は渋々変身すると、楓を癒しの炎で包んだ。
治療目的とはいえ、彼女にこの力は向けたくなかった。
万が一制御を誤って、命を奪ってしまったなら。
そんな状況は迎えたくない。最悪の結末を頭から追い出しつつ、健介は操作に集中した。
炎が掻き消えると、楓の動きが緩慢になった。
目線で何かを訴え、窮屈そうに両手足を動かしている。
そこには先程までとは違い、知性の煌きがあった。
2人に目配せすると、健介はタオルの拘束を解いた。
「いった~!なんで縛ってるの!?ヘンタイ!」
「あー!?先に暴れたのお前だろ!」
「はぁッ!?私何も…あ、え?」
混乱する楓を見て、健介は変身を解く。
軽い口喧嘩を始めた二人を尻目に、秀人と涼葉は額を合わせて囁き合う。
「そういえば荻野さんだけだよね、普通の人」
「あぁ、俺たちが超人だから、耐えれた?」
「話し変わるけどさー、千晃が合流したら本当にどうする?」
健介が声を発すると、全員そちらに集中した。
「俺は一旦別れて、皆の家族や友人を救出しにいきたい。涼葉、お前のドラゴンって何人くらい乗せられる?」
「えーっと、私、千晃君、先輩達……あの、10人は乗らないかな」
「なら車とかあった方がいいんじゃない?」
絞り出すように言う涼葉に、楓が声を掛ける。
「免許は親が持ってるけど、車なんて使えるか?」
「道路の状況によるが、家族だけならまだしも友人達、それから何人かついてくるだろうし…安全に移動する事を考えると、徒歩は辛いな」
屋外で異変に巻き込まれた場合、近隣の避難民と一緒に立て籠もっているはず。
身内だけ保護して、残りは見捨てる、などという選択を取るわけにはいかない。
脱出組は最悪数十人単位になる。これを小春を含めて5人で守りきるなど、不可能だろう。
「もうちっと頭数いればな」
健介がぼやく。
戦闘、移動、治療。保有する能力次第では行動の幅も広がる。さらに人が増えるのに比例して、感知の精度は上がる。
「探せばいるだろう。この状況なら普通に暮らしていた連中も、それぞれ動いているだろう」
「それって…私達みたいな人がさ、避難している人を守ってるって事?」
「可能性はあるが、宝くじみたいなものだな。怪物と正面切って戦えるなんて、それだけで同類扱いだ。お前たちもそこは理解しているだろう?」
秀人としては、何らかの犯罪行為に走っている可能性が高いと見ている。
余程の目立ちたがりでもない限り、法整備された環境で能力を振り回そうとはするまい。
力の有無が公にされた時のリスクを考えれば、秘しているのが普通だ。
しかし、この街に限って言えば、秩序は崩壊しつつある。一時の昂揚や絶望に身を任せる者がいても、不思議ではない。
ふつう、このような状況下で頼るべきは自分達のような超人ではなく、警察や自衛隊だ。
秀人ならまだしも、異形に変身する千晃たち、赤竜を従える涼葉を受け入れろと言うのは、些か以上に酷だろう。
自分達の救い主だとしても、極めて特異な存在である以上、不信や怯えを持つはず。
だがもし、上にあげた二つが当てにならなければ?いち早く、市民の保護に奔走した者がいれば?彼らが拠点を築いているなら?
「私は気にしないよ?」
「それは個人的に付き合いがあったからだな。まぁ、受け入れただけ、大したものだ」
健介達はしばしの相談の末、鶴舞公園を目指して歩き出した。
進路上では制御を失った車両が、あちこちで黒煙をあげている。
秀人が足音に気付く。右手の路地に目を向けると、身長3mほどの細長い男がこちらに歩いてくるのが見えた。
気付き、すぐに身を引くと周囲も男の存在に気付く。
大男は髪を振り乱し、草臥れたスーツを着ている。
既製品ではありえない特注サイズ。携帯する草刈鎌も男の体格に比例して大きく、人の首を落とすには十分。
肌は青白く、骨と皮ばかりの痩せた顔に虚ろな表情を張りつけている。
男は4人に気付くと、雄叫びをあげて走り出す。
「こっち!」
健介は楓をひょいと抱えると、逃げ出す。
その後ろを荷物持ちの秀人と、涼葉が続いた。
前に向かって走る健介は、右手にある路地に入り込んだ。
視界でビルが待ち構えるように入口を開けていた為、遠慮なく滑り込んだ。
エレベーター前まで移動したとき、後ろの2人が到着。息を落ち着けて、入口を確かめる。
ありがとうございました。