第1次超人災害(3)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
道隆は10分程かけて豊明駅に辿り着き、実体化した。
変身を解いて見渡した駅前は平穏そのもの。拍子抜けしつつも地図を確認。
豊明駅から歩いて、名古屋市側の前後駅を目指す。
急ぎでもないので、見慣れぬ街並みをじろじろと眺めまわしながら。
前後駅前は重苦しい緊張感に包まれていた。
自衛官らしき人々が通りを歩き回る。
通行人の会話を総合すると、大規模な交通規制が敷かれているようだ。
設立された対策本部は名古屋への侵入に難儀していた。
千代田に出現した柱を除く、5本の内側への侵入が制限されているのだ。
柱の間を通過しようとすると、運転手が心身に異常をきたし、制御を失う。
犠牲になった輸送車両は、合計10台に上る。
もっとも通り抜ける事は出来るので、既に特殊な素養を持つ数十名が、危険区域内へ侵入に成功している。
また、柱の近くでは怪物が断続的に出現している。
対策本部は逃げてきた名古屋市民の保護のほか、怪物の防衛ライン内への侵入を防がねばならなかった。
道隆は駅近くの喫茶店に入る。
注文したデザートを待ちながら、知覚能力を最大にした。
霊感の網は瞬く間に広がり、数km先の柱を捉える。
こちらに意識を向けている間は、五感が疎かになりがちなのが難点である。
名古屋市の外と内、無数の魔物の妖気。観察を続けるうちに、ある事に気が付いた。
(広がってるな)
名古屋市に満ちる、胸騒ぎを催す空気。
屋外が最も強く、私有地に入ると少し薄まる。
人を心細くさせる妖気がラインの外側へ、徐々に沁み出してきている。
時間が経てば市の外でも、怪物が出現するようになるのだろう。
注文していたパフェがやってきた。
グラスの中でふわりと重なる、バニラアイス、フレーク、チョコムース、ブラウニー。
天辺のソフトクリームとカットバナナを、チョコシロップが彩る。
ご要望通りのチョコバナナパフェだ。頂上はソフトクリームになっているのが、道隆の趣味に合う。
入る店によってはアイスクリームの場合があり、その度に道隆は落胆する。
――この後どうしようか。
名古屋が崩壊するのは別にいいのだ。
しかし、名古屋の次は。愛知県を覆うのだろうか。
もしそこで止まらなければ、いずれ全世界に広がるのか?
――それはいいな、と言う声がした。
――それはダメだ、と言う声がした。
対策として思いついたのは変身後の結界。
名古屋市と内と外で張ればいい。これによって怪異の拡大を封じる。
霊的な災禍に対しては、高い効果を発揮するはず。
ただしこの方法の場合、名古屋市の境をずらされると、結界が壊れる恐れがある。
約束事による境界は非常に脆い。
(川で張る事が出来ればいいんだけどな)
物理的な境界線なら容易く崩されない。
川や海など水を用いれば、パワーの向上も期待できる。
問題は、名古屋を流れる河川の流れを全く把握できていないことだ。
そもそも川は異界と化した地域を囲んでいるだろうか?
(いっそ氾濫させる…やれるか?)
地形を崩し、川の結界を無理やり形成する。
さぞ手間がかかるだろう。いざ強引に進めようものなら、甚大な被害が出るはず。
自分が直接手に掛けるとなると、二の足を踏む。
超人になったとはいえ、殺人の経験はない。
道隆とて、心を毒するような経験はしたくない。
全く与り知らぬ死は、いくら積み重なってもいいのだが。
(東京の結界を応用してみるか…?)
日本では首都計画において、古くから霊的な要素を重視したとされる。
例えば天海僧正は、江戸の都市計画において結界を用いたと言う。
鬼門と裏鬼門を封じる寛永寺と増上寺を建て、さらに平将門公を祀る神社や塚を主要街道に配置する事で、邪気が街に入り込む事を防いだとされる。
畏れ多くも、これに倣おうというのだ。
無論、格で大きく劣るのは承知している。
そもそも、この結界は名古屋を隔離し、外を守る為のもの。
江戸を守る天海僧正の大結界とは、起点からして異なるのだが。
(四神相応って考え方もあるが、儂の使う業は超能力のようなもののはず…)
風水や陰陽道の知識は今回必要ないだろう。
考えるべきは如何にして、青い異形の力を効率よく土地に敷くか。
四隅に媒介となる物体を配置するのが、単純かつ見込みがありそうだ。
物体は…召喚できる魔物を守護とするか?
(結界を完成させたら、外には出れなくなりそうだな…)
会計を済ませた道隆はひとまず豊明市立図書館を目指す。
図書館はwifiエリアに指定されているが、ここでPCを広げる訳にはいかない。
紙の文献や書籍で情報を検索する…初めて訪れる図書館を観光したいのもある。
3名の家族の安否は、憑依させた魔物達と感覚の共有を行う事で簡単にわかる。
擬態道隆も群衆によるパニックを避け、自宅に立て籠もっているらしい。
経過は順調だ。それだけ情報を得れば、気分も軽くなった。
カフェを出た道隆は、ゆったりとした足取りで市内を散策しつつ、図書館に向かう。
道隆が図書館で地図や河川図を調べていると、避難指示が下された。
利用者やスタッフが動き始めるのを見て、道隆も目立たないように歩き回る。
このままここにいると面倒だ。そのうち近隣から避難民がやってくるかもしれない。
そうすると、身動きが取り辛くなる。道隆は人に紛れてこっそりと館外へ出た。
近場で息を潜めていると、あっという間に閉館時間になる。
道隆が市街地に顔を出す頃には、前後駅前でも怪物が出現するようになっていた。
日付が変わるよりはやく、名古屋で発生した妖気は豊明市全域を覆うだろう。
防衛ラインは既に、刈谷市にまで下がっていた。
(生き残る…家族を逃がさにゃいかんし)
死にたくない、という普遍的な願望を除くと「ストレスのない環境が欲しい」という点に行き着く。
面倒事は背負いたくない。"いいもの"だけで人生を満たしていたい。
道隆にある真実は、ただそれだけだ。
自分が人間だろうと、化け物だろうと興味はない。
大事なことは「取り分」を確保できるか否か。背負うべき責任は自分の家族で全て使い切った。
大通りに足を運ぶと、4体の獣人に遭遇した。
どの獣人も口元が赤く汚れており、側には食べかけの死体が散乱している。
生きている人の姿はなく、魔物の彼らしか見当たらない。
一番近くにいた獣人が、味わっていた女の腿を捨てて飛び掛ってきた。
その咆哮で残りの3体も、侵入者に気が付く。
道隆は変身することなく、貫手で獣人の喉を裂いた。
その後ろには既に一体の獣人が接近していた。
道隆は獣人から腕を引き抜き、後退。1体目は路上に倒れた。
2体目が爪を振り下ろしきった時には、接近した道隆の拳が頭部を捉えていた。
続けてストレート、蹴りを浴びせる。2体目は大きく吹き飛んだが、消滅する様子はない。
残りの二体が道隆に襲い掛かる。
一体が地を這うように駆け、一体が跳躍。
道隆は摺り足で近づき、地を這う獣人に一撃を見舞う。
3体目の顔が砕け、身体が錐揉みする。
道隆の後方、4体目が着地した。
横に振るわれた爪を躱し、ローキックを入れる。
体勢を崩した獣人に肘を入れ、胴体に膝蹴りを入れる。
4体目が落ちた時、吹っ飛んでいた3体目が接近してきた。
軸のぶれた身体が傾き、道隆は思わず背中から地面に倒れ込む。
露わになった腹目がけて爪が振るわれた。
道隆はほぼ同時に、獣人目がけて足を突き出す。
両足はバネ仕掛けのような勢いで弾かれ、獣人は真上に吹き飛ばされる。
道隆はすぐさま立ち上がり、落下してきた相手を拳で打ち抜いた。
道隆は小さく息を吐いた。
顔を隠す意図もあって、変身しないまま怪物と戦うのは、これが初めてだ。
変身後の感覚に慣れている事もあり、どうも弱く感じる。
もっとも、覚醒する前に比べれば、悪魔のような力だが。
獣人達はまもなく起き上がってきた。
全員にダメージが入っているが、倒しきれていない。
負傷が特に激しい1体目は死に体、2体目も酔漢のようによろめきつつ唸る。
一方、道隆の衣服の腹のあたり。
生地が破かれ、赤い染みが出来ている。
獣人の爪が皮膚を裂き、筋肉を抉っていたのだ。
しかし傷は真新しい細胞で埋まり、痛みも既に引いていた。
彼の肉体は精神活動に応じて、治癒能力が大きく向上するのだ。
道隆は膝蹴りをいれた4体目に掌打を浴びせた。
獣人達を視界に入れつつ、道隆は動き回る。
十分闘えることが分かった今、脅威としての度合いは薄い。
戦闘はちょっとの間続いたが、最後は道隆の勝利で終わった。
獣人達を撃退した道隆は夕食を摂るべく、駅前に向かった。
怪物退治、家族の救助、事態の収拾。
考えるべきは色々とあるが、まずは食事だ。
夕食の時間なのだから、何か食べてから本格的に動く事にする。
日の暮れた前後駅。
道隆はコンビニに入ると、サンドイッチ2つとコーヒー牛乳を掴んで店を出た。
店内は思いのほか荒らされておらず、商品が陳列されたままになっていた。
そのかわり、駅構内の至る所に酷い損傷を負った死体が散乱しているが。
人目を気にしつつ適当なベンチに座り、食事を始める。
非常事態とはいえ、盗みは盗みだ。
付近に生存者はいないらしいが、ここで悠々と食事をとっている男はどう考えても怪しい。
それに、いつ怪物が出現しないとも限らない。
妖気の群れに囲まれながら、サンドイッチをぱくつく。
2つを手早く平らげると、道隆は500mlパックに口をつけた。
普段は豊明市の中心として機能する前後駅も、今は閑散としている。
灯りがついている建物はごく僅か。別天地に来たみたいだ。
コーヒー牛乳を飲みながら、真っ暗な町を眺める。
しばらくして、周囲の妖気の内、一つがゆっくりと近づいてきた。
まもなく、気配の主と顔を合わせる。少年だった。
身長は道隆の半分くらいだろうか。
緩やかに傾斜した肩の下、細い腕がだらしなく揺れている。
身体のラインは丸みを帯びているが、肥えている訳ではない。
目鼻立ちがはっきりとしており、異性に人気がありそうだ。
――肌が黒ずみ、筋肉や骨をところどころ露出させていなければ。
道隆はベンチにゴミを放置したまま、駅を後にした。
少年の動きは遅く、闘う必要はない。
駅から離れると人気のない場所を探し、隠れて変身を行う。
白い燐光に包まれた刹那、道隆は内なる幻像に変化が生じているのに気付いた。
皮膚は濃灰色から、鮮やかな青に変化している。
ブルーの甲殻は夜闇のような濃さを得て、両手から前腕、脛から腿、厚みを増した胸部を覆っている。
しなやかな身体は逞しさを増し、大きくなった背びれは小さな羽を思わせる。
獣性を剥き出した口元は仮面で覆われ、複眼の放つオレンジの輝きだけが依然と変わっていない。
幻像と融合した道隆は、心地よい漲りをしばし味わった。
流れる血潮が興奮したように沸き立つが、意識だけがどうしようもなく冷えている。
喩えるなら激昂に身を任せ、同級生に殴りかかる前の感覚によく似ていた。
灰色の掌を一度握りしめると、道隆は水蒸気の中に浮き上がり、浜松方面にロケットのように飛び去った。
――目指すのは結界の要となりうる、浜名湖。
拡大速度から考えて、名古屋市に結界を敷くのはもう間に合わない。
広く見積もって、愛知県に妖気を封じ込める。
道隆も文明の娯楽に浸かりきっている以上、この騒ぎが日本全土まで広がるのは避けたい。
愛知県一つで済むなら、傷は浅い――道隆の視点では。
ありがとうございました。