晶獣行(4)
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
眠りにつくでもなく、無為な時間を過ごす圭は玄関前に突然現れた気配に気づくとゆっくり身を起こした。
この気配は先ほど闘った人狼に似ている。自分を殺しに来たのかもしれない。
圭は起こした身体を、もう一度横たえて目を閉じた。
どうでもいい。
朝が来て、大人たちが来たら身の振り方が決まる。決めなければならない。
将来の事なんて、これっぽちも考えたくない。
もし気配の主が自分を殺してくれるなら、苦しい思いはあと十数分足らずで終わる。
足音に忍んでいる印象は無い。
目的地をはっきりさせている確かな足運び。
足音の主はリビングに入ると横たわる少女に近づき、優しくその身体を揺らす。
「生きてるのは分かってるよ。ひょっとして寝てるの?」
足音の主は女性だった。
声には成熟した女の艶が備わっており、同年代ではないだろうと圭は思った。
自分の所業を知っているのかわからないが、労わりの滲む所作から殺意は感じられない。
女は「起きて」と身体をやや強く揺するが、圭は頑として目を開けない。
目を閉じたまま、彼女が成すに任せる。
「ホントに寝てるんだ…」
女は呟くと、圭の腕が持ち上げられた。
指にちくりと痛みが走るが、すぐに何かで塞がれる。
眼を閉じたまま、圭は絆創膏が貼られたのだろうと思った。
女は圭の背中に腕を回し、少女の身体を母親の遺体から引き離す。
その直後、二人の姿が君原家から消える。
一切の予兆なく、1フレームの間に影すら無くなった。
圭は全身に極めて軽い圧のようなものを感じた。
水に頭まで浸かっている時に似た、全身が何かに包まれている感覚。
次の刹那、圭は冷蔵庫のような寒さが消えている事に気付いた。
「着いたよ。ほら、起きて」
再び体が揺さぶられ、圭は観念したように瞼を上げた。
すぐ前に若い女の顔があった。目尻がつり上がった猫のような目に切れ長の眉。
表情が柔らかい為、キツイ印象は無い。
女は圭と視線が合うと目を細め、彼女を立たせるとついてくるように促す。
そこは初めて見る玄関だった。彼女の自宅なのだろうか。
困惑しつつ奥に進むと、「ちょっと待ってて」と圭はリビングに残された。
圭は立ったまま、取調室に通された容疑者のような心境で女を待つ。
女が去っていった方に注意を向けた時、気配が二つに増えていることに気付く。
自宅にやってきた気配と、今初めて感知した気配。
まもなく、先程の女が一人の女性を伴って戻ってきた。
女は新しい人物に目配せをすると、すぐにリビングから出ていった。
圭は住人と思しき女と二人きりになった。
夜更けの来客に煩わしげな女の眼が、無遠慮に圭の全身を眺めまわす。
先程の女とは違い、どこか他人を突き放すような印象が彼女にはある。
「いきなりこんなところに連れてきてごめんなさい」
残った女が突然、頭を下げる。
「言い訳させてもらうと、貴方が生存者としてあそこから連れ出されるのは不味いと、私達は判断したの」
二人はソファに座り、女――貴嶋早苗は自分達について話し始める。
早苗は圭を連れてきた女を原田夏姫と紹介した。
二人は近い時期に覚醒を遂げ、学生時代から今に至るまで付き合いを続けている事から、お互いの変化をすぐに理解した。
それから連絡の頻度が増していき、今ではルームシェアをして暮らしている。
「不味いって、お二人と私は何の関係もありませんけど」
「貴方の正体が公になると、私達の身も危険になるの。"超能力は存在しない"という常識が、私たちを何よりも強く守ってくれるんだから」
圭が二の句を継ぐ直前、玄関の方から夏姫の声が聞こえてきた。
早苗が玄関に向かい、しばらく経ってから二人揃ってリビングに姿を現す。
「死体の偽装をしてきた。君原さんはあの場で死亡したことにするから」
夏姫の表情は自信に満ちており、尋常ではない手段を使ったのだろう。
「そんな勝手に…」
「ナツが言ってたけど被害、すごいみたいよ。ひょっとしたらあなたが唯一の生存者になるかも」
言葉を失った圭が俯くと、夏姫がやんわりと早苗を注意する。
夏姫は圭に休むよう勧め、空いている和室に布団を敷くために出て行った。
早苗も入浴を希望した圭を浴室に案内し、着替えを渡してから自分の部屋に引っ込んだ。
ありがとうございました。