晶獣行(2)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
午後の時間、君原圭は浮かない表情で次の授業の用意をする。
用意を済ませるとスマホを取りだし、ゲームで時間を潰す。
一応、彼女の学校は携帯電話の持ち込みは禁止なのだが、それを咎める人間はこの教室にはいない。
どこかでヒソヒソと囁き合うような声がする。
耳に飛び込んできているのではない。イヤホンの外ではなく、脳裏に刻まれた記憶がリフレインしているのだ。
いつものことだ。
圭はこのクラスに馴染めていない。
それはどこかから向けられる視線や、自分が近づくと小さくなる話し声といった形で顕れている。
どこのグループにも入る事ができず、学校では常に一人で過ごしていた。
状況が目に見えて悪くなったのは、学校を病欠してから。
無視される頻度が増え、複数人に囲まれて罵倒、ひどい時は暴力すら飛んでくるようになった。
アザが出来た事はないが、逃げ場のない恐怖は確実に刻まれていた。
抜け出したい。
だが揉め事にして、話を拗れさせる気力は今の圭には残っていない。
生きがいも無く、黙って全てを諦めることだけが、彼女が己の平穏を守るためにとれる唯一の手段だった。
そう思っていた。あの日までは。
ある夜、夢の中で主犯格の少女を縊り殺した。
少女の首に掛かった手は自分どころか、人間のものとも思えなかったが、間違いなくそれは圭の腕だった。
その翌朝に登校すると同じ人物が死んでいた。
自分を無視した女子、金を脅し取った男子、助けてくれなかった友達。
1人殺した夜は眠れなかった、2人殺すとタガが外れた。時には運悪く相手の父兄に見つかる事もあったが、その時は父兄も殺した。
氷の獣と化し、狂態に耽るのは今まで感じた事が無いほど気持ちが良かった。
警察は未だに圭を見つけていない。
横殴りの雪が吹いている。
立ち並ぶ家々には雪や氷礫が叩きつけられ、ピシピシと音を立てる。完全に雪で覆われた窓から外の様子は全く窺えない。
生きたまま状況に気付いた幸運な者達は外に出る事無く、急いで暖房を入れたが大した意味はなかった。
極地並の低温化で正常に機能するエアコンを使っている家など、この町にはないのだから。
(何しに来たの?こいつ)
厳しい吹雪を苦にすることなく、結晶獣――圭は内心ごちた。
唐突にやってきた邪魔者。ひょっとして自分を止めにきたのだろうか?
相手は平気で相手を傷つけ、脅して金を毟って涼しい顔をしている犯罪者だ。
禁忌を犯している自覚はあるが、彼らを生かしておく必要があるとはどうしても思えない。
人狼は前傾姿勢をとると一気に踏み込み、圭に躍り掛かる。
自分を組み伏せようとした両腕を、圭はエッジを備えた太い両腕で退ける。
「お前だな、このところ続いてる凍死事件の犯人…」
「ちがう。アンタでしょ」
「何言ってるんだ!」
圭は重機のような太い右腕を振り上げた。
啓太郎はバックステップを行い、刺々しい手の甲を叩いて軌道を逸らす。
フックを捌きつつ右側面に踏み込み、突きを3発脇腹に打ち込む。
圭は衝撃に耐え抜き、よろめいただけで倒れることはなかった。
圭は低めの軌道で左腕を振り上げる。
啓太郎は身を翻すが、行き先には右拳が待ち受けていた。
引き締まった身体に車輪で轢かれたような衝撃が襲い掛かる。
啓太郎の身体は、小石のように飛んでいく。
歩道に乗り出した瞬間、狼の身体が出現した氷柱によって捕えられる。
氷から突き出た下半身を掴み、引き抜いた直後、圭の両目の真ん前に氷刃が浮かび上がった。
圭は思わず頭を振り、その隙をついた啓太郎は腕の縛めから逃れ、民家の前に跳ぶ。
「もう止めろ。何でアンタ、こんなこと続けてるんだ」
啓太郎の声には懇願するような調子があった。
「は…?」
「何があったのか知らないけど、それは11人も殺さなきゃならないことか?」
「……」
――相手の生徒には話してみたの。
――向こうは、悪ふざけのつもりかも知れないじゃない。
「警察には突き出さない、言っても信じないだろうしな。その代わり、アンタの能力を封じる――」
「――うるさい」
「は?」
巨獣は嘔吐した。
地面に消化しかけの溶解物の代わりに、白っぽい霙が吐き出されていく。
初めて相談した時の担任の様子が、圭の脳裏にフラッシュバックする。
口八丁で面倒臭くない結論に持っていったあの男。
気付いた時には面談は終わり、その後は取り付く島もなかった。
「なぁ…」
「うるさいんだよ。頭の中で喋るな」
重々しく、一語一語をはっきりと発音する。
その声を聞いた啓太郎は、地の底から漏れ聞こえる亡者の呪詛のようだと思った。
「うあァぁ――!!!」
圭は声を爆発させた。
溜まった澱みを吐き出す様に。
怒りとも悲しみともつかぬ巨大な"うねり"を受け、町を包む吹雪の勢いが増した。
明確に自分を拒絶した幼い声に、啓太郎は我知らず圧倒される。
身を引いたその背中に、ボウリング玉のような氷塊が幾つもぶつかった。
よろめいた啓太郎の頭を巨大な右手が掴む。
右手の持ち主である圭は掴んだ人狼の頭部に、七度八度と膝蹴りを見舞う。
解こうとする啓太郎の爪を結晶の鎧が弾く。
啓太郎の顔が崩れ、赤黒い肉が露わになると今度はバスケットボールのように、地面に何度も叩きつけられる。
それにも飽きると圭は頭を掴んだまま、弱々しく震える背中に圧し掛かる。
背骨が砕け、啓太郎の指の動きが止まった。
背中から降り、肩甲骨の間に拳を突き入れると白い燐光が人狼を包んだ。
光の中から現れた若い男性の死体を、圭は遊び飽きた玩具のように放り捨てた。
雪の勢いは衰えるどころか増している。
ふぅっと溜息を吐いた圭は、吹き荒れる雹の嵐を沈黙させた。
圭は手足を投げ出したくなったが、ぐっとこらえて白い燐光を呼び出す。
巨獣の影は薄れていき、まもなく雪国のように様変わりした徳川町からその姿を消した。
消失する結晶獣を、離れた場所から観察している女がいた。
彼女は如何なる感情も出す事なく、物陰で気配探知に集中していた。
戦いが終わると立ち上がり、音も無くその場から姿を消した。
ありがとうございました。