晶獣行(1)
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
木曜日のバイト中。
休憩時間中に道隆が食事をとっていると、食堂で垂れ流されているワイドショーが市内で起きたニュースを取り上げた。
情報によると名古屋市の東区において新たな凍死体が発見されたらしい。
今月の初めごろに1体目が発見されてから収まる気配が無く、その数は11人にのぼるという。
県警は犯人が、遺体の冷凍に大量の液体窒素のようなものを使用したとみて、調べを進めているという。
(コレ調べたほうがいいと思うけど…まぁいいか)
自分が出向いた方がいいのは、道隆も承知している。
しかし、興味もないのに現場に向かうほど、彼は真面目ではない。
犯人がこちらの生活圏まで入ってくるならともかく、区内に入ってこないなら、悪手だろうと放置する。
八事霊園の一件も結局、ニュースに取り上げられてしまった。
周囲への被害を考慮に入れなかった自分の責とはいえ、事件として報道されると、改めて「外れた者」の孤独を感じずにはいられない。
老婆を倒した以上、墓地を破壊した責任は全てこちらに向かうのだろう。
変身していたので指紋などの証拠は出ないはずだが、仮に警察が自分に辿り着くなら、今の生活を捨てる羽目になる。
(もう、他に誰かいないのかよ)
近場で同じように力に目覚めた人物はいないのだろうか。
同じくらい戦闘力があり、自分よりも正義感のある人間。
いるならソイツに事態の収拾を任せて、今まで通り暮らしていけるのだが。
いっそ化け物退治で給金が出るなら道隆としては万々歳なのだが。
変身して戦う事自体は嫌いでないし、スーパーの店員などより、断然面白いだろう。
しかし現実問題として考えると、そこに至るまでには幾つかの問題が見受けられる。
まず、世間が超常を認めるまでに多大な混乱が起きるだろう。
存在を認めたとして、許容されるまでに長い時間が必要なはず。
行っている活動で糧を得られるようになるのは、きっとその後。
環境が落ち着くまでの間、ストレスが絶え間なく襲い掛かってくるだろう。
状況は確実に悪化している。
訪れる環境の変化を予想すると、胃の腑がシクシクと泣きはじめる。
とはいえ、一般人の身で暮らさねばならない大多数の住民と比べれば、自分は恵まれている方なのだろう。
昼食を済ませた道隆は置いてある新聞を広げて、休憩が終わるまでの時間を潰した。
★
午後10時過ぎの東区を、狼と人を混ぜたような異形が疾走していた。
強靭な身体を包む体毛は刀剣のように輝き、両手の鋭い爪は赤黒く染まっている。
狼人間――大戸啓太郎は、とあるパチンコ店屋上に到着した。
霊的感覚を最大に広げたまま、啓太郎はぼんやりと行き交う車や漏れる住宅の明かりを眺める。
(来た!)
北の方で強烈な気配を捉えた。
発生源に向かって走り続け、徳川町に着いた啓太郎は寝静まったマンションに辿り着く。
そこで冷気を引連れた巨大な生き物を見かけた。
結晶で体を覆ったゴリラを思わせる重厚な姿は白い燐光を放ちながら、ベランダに姿を現わす。
(あれか!)
啓太郎が氷刃を差し向けようとした時、結晶獣がちらりとこちらを見た。
射出された氷柱は狙い違わず巨体に向かうが、固い外骨格を削っただけで推進力を失った。
今度は10本もの氷槍を浮き上がらせ、もう一度結晶獣に打ち込む。
10本は巨体に突っ込むが厚い筋肉を傷つけるだけで、深手には程遠い。
苛ついた結晶獣は夜空に雄叫びをあげた。
近くの住居から、騒ぎを聞きつけた人々が続々と飛び出してくる。
啓太郎は唖然とするが、状況は予想だにしない方に転がった。
天を仰いだ結晶獣は徳川町を、シベリア並みの厳しい寒気と吹雪で覆う。
啓太郎も当然、冷えた空気に包まれるが変身して耐性を発揮している為、問題にならない。
しかし一般市民は違う。
住民のうち、6月に相応しい軽装で氷点下50度の寒気の中に出てきた者達は。
まず外気にさらされた皮膚に痛みが走り、吐いた息が一瞬で凍りつく。
皮膚や筋肉に裂け目が作られ、吸った息が肺を凍結させる。
まもなく全身の血管が凍り、彼らはやがて霜に覆われた凍死体に生まれ変わった。
吹き荒ぶ氷雪は玄関や窓が開いた僅かな時間で民家の奥まで侵略。
床に就いていた人々は冷たい眠りと凍える恐怖の二択を強制された。
結晶獣は猛吹雪の中で身を屈めると大きく跳躍。
一跳びで人狼を射程範囲内に収め、握り拳を鉄鎚の如く振り下ろす。
啓太路は苦も無くこれを避け、雪の積もった路面に着地。
巨獣も啓太郎に倣い、新雪に足をつけた。
このような能力を振るうだけあって、凍結した路面の上を苦も無く歩いている。
町を覆う白銀の中で2体の怪物が睨み合う。
6月の日本とは到底信じがたい、どこまでも寒々しい光景だった。
ありがとうございました。