6月19日
趣味で書き始めました。
読む前に、以下の注意に目を通してください。
【注意事項】
・ハーレムなし。
・デスゲームなし。
・俺tueeeは少なめ、チート能力は多め。
・読みづらい。
・残酷な描写や暴力表現あり。
・この作品はフィクションであり、実在の地名や人名とは一切関係ありません。
「17日午後8時ごろに発生した名古屋市中区の東興生命金山ビルの火災で、今朝5時の時点で新たに9人の遺体が見つかり、死者は計26人になりました…」
金曜の朝。テレビをつけると昨日入ったニュースの続報が流れていた。
炎上するビルの映像と狼狽える通行人の会話が放送される。映像がスタジオに切り替わり、女性キャスターは出火元と思われる箇所が複数確認された事から、愛知県警が事件と事故の両面で調べている旨を新たに付け加える。
(怖いな)
オフィスビルが全焼し、10人以上死者が出した事件など健介は聞いたことが無い。
火元が複数あるなら、十中八九放火だろう。もし事故だったなら、とてつもない不運だ。
「名古屋市中区の錦三丁目で男性遺体――」
次のニュースに移った。
健介は朝食を片付けると手早く登校準備を済ませ、剣道部の朝練習に参加するべく家を出た。
ホームルームが始まる前の教室に生徒達が続々と登校してくる。彼らは気の合う友人達と輪を作り、担任がやってくるまでの暇をお喋りで潰す。
昨夜から続くニュースを口の端にあげる者はほとんどおらず、彼らにとって保険屋の身に降りかかったトラブルは、対岸の火事でしかなかった。
「おはよー」
「おはよう、マツケン」
席に向かう健介に声を掛ける眼鏡をかけた男子生徒は館石省吾。
省吾は困ったような薄い笑みを浮かべたまま、固まっているクラスメイト達に視線を配る。
健介は荷物を置くと、省吾の隣に陣取った。
「みんな意外と気にしてないな。結構すごい火事だったみたいだが」
「そんなもんだろ…あー、家近いもんな、お前」
「両親が気にしててな。名古屋じゃないが、最近変な事件が多いだろ」
省吾は昨夜から続く事件を持ち出してきた。
彼の家は金山から二駅ほどしか離れていない為、少々不安らしい。
時間は刻々と過ぎ、生徒達も引っ切り無しに入室してくる。
その中から良く見知った人影が現れ、「おはよー、ケンスケー、ショーゴ」と間延びした声をかけてきた。
省吾の隣に座ったボーイッシュなショートカットは荻野楓。小学校からの馴染みであり、同じ中学からこの愛知県立楠高等学校に受験した。
偏差値云々もあるが、単純に家から近いのだ。徒歩でも通学時間15分程度にしかならない。
「昨日聞いたんだけどさー、まーこ、あそこにいたんだって」
「へー、すごい偶然」
楓もまた、今朝のニュースを最初の一投に選んだ。
ただしその表情に不安の色はなく、単に噂の種にしたいだけらしい。
「動画送られてきたんだけど、見る?」
「見るー」
「じゃあ、俺も…」
楓が動画を立ち上げると、黒煙と炎を上げるビルが画面に映った。
ただし、最初はかなり近く画面全体がオレンジに染まっている。
撮影者が遠ざかると、ビルの全体図が収まった。直後に窓から爆音と共に炎が吹き上がった。
「なぁ、これメチャメチャアブねーよな」
「聞かなくても分かるだろう…」
省吾が「今度会ったら説教だな…」と表情を厳しくする。
「あれ、ここ人立ってない?」
「どこどこー?」
健介が画面を指差した場所に影のようなものが映っている。
楓は怯えたように身体を引くが、省吾は眉を寄せて「光の加減でそう見えただけじゃないか?」と言った。
「一応、知らせとこ」
チャットを開始した楓を尻目に男二人は雑談を始める。
楓もスマホをしまうとそれに加わり、話題が今朝のニュースから不倫報道に、芸能から流行の映画に入った数分後に教室の扉が開いた。
背の低い中年男性が現れ、教壇から生徒達を見渡す。かすれ声がホームルームの始まりを告げた。
「みんな、既に知っていると思うけど、金山の方で事件がありました。危険かもしれないので興味本位で近づかない事。
帰るときはなるべく固まって下校する事。夜間の外出は極力控える事。今朝は以上」
伝達事項を言い終えた担任は速やかに退出。一時限目の教室に向かった。
健介も去年の春から身を置いている喧騒を聞き流しながら、授業の支度を始める。
予習をサボったせいで古典の授業で恥をかいた事を除けば、今日の授業時間はつつがなく終了した。
剣道部の練習を終えて道場を出ると、格技棟の出入口で待っている楓が視界に入った。
生暖かい視線を背中に浴びながら、健介は視線を宙に彷徨わせる彼女のもとに向かう。
近づいてきた健介に気が付くと、楓はにこりとしながら「じゃー、帰ろっか」と言った。
「どっか遊んでく?」
「映画見に行こーよ」
「ゾンビ?」
楓は幼少からスプラッター映画やゾンビ映画が好きな女の子だった。
小学2年生の時、ベッドサイドに飾ってあった暗緑色の輪郭の歪んだマスクを見た時は一瞬息が止まり、その日の夜に健介はミイラと自宅で鬼ごっこをする夢を見た。
蛙の解剖の時間、解剖するという行為そのものには辟易しつつも、死体そのものには、むしろ興味津々で触れていた姿ははっきりと覚えている。
その感性さえなければ、ごくごく気のいい少女なので未だに付き合いを続けている。
「ちがーう、怪獣!まだ見てないんだ~」
「あー、じゃあ行くか」
殺人鬼が縦横無尽に暴れる作品ほどグロテスクではあるまい。
二人は最寄りの岩塚駅に自転車を駐輪すると、連れ立って駅の構内に入っていった。
名古屋駅から帰り、駐輪場に着く頃にはとっくに日が暮れていた。
楓が荻野家の玄関を開ける所まで見届けると、健介も自宅を目指してペダルにくっと力を込めた。
――?
しばらく進んでいると、異臭が鼻をついた。キムチのような、酸っぱい発酵臭が一帯に充満している。
突っ切ろうとした途端、匂いがぐっと強くなった。同時に健介の進行方向、自宅へ続く路の上に未知の物体が音もなく出現する。
健介が迂回するより先に、物体は完全にその姿を現した。
(犬……?)
細長い四肢を地面につけた、細長い面を持つもの。ぴんと立った三角形の耳。
健介の感覚では間違いなく犬なのだが、そうとは言い切れない部分も目の前の物体は持っている。
「キモッ」
目の前の獣は皮膚の所々が裂けており、膨張した筋組織を隠しきれていない。
体格は愛用の自転車並みに大きいが、前に迫り出した顎の根元の部分は間違いなく赤毛の柴犬だ。
柴犬は目の前の青年と視線を交わすと、大きく口を開けて跳躍した。
「うぅお…!」
サドルから腰を上げていた健介はこれを難なく回避。
荷物が音を立てて、路面に落ちる。拾うのは諦め、健介は一目散に逃げ出した。
「痛ェ!…あぁ、どっか行けよ!」
倒れた自転車から数m離れたところで、足首に鋭い痛みが走る。
転倒した健介が見ると、柴犬が噛みついてきていた。
歯が生地を貫通し、骨にまで達しているのが体感で理解できる。
噛まれていない方の足で顔面を蹴りつけるが手応えは薄く、柴犬は頑として離れない。
鼻先を蹴りつけていた時、健介の視界がぐらりと揺れた。
膝から力が抜け、蹴りはやがて止んだ。
骨まで砕かれるかと考えた時、「どいて!」の言葉が頭上から降り注いだ。
(おぉ…何なんだよ、ほんと)
頭痛までしてきた。
脳が直接圧迫されているような激しい痛みに健介は音をあげ、喉も裂けよと絶叫する。
意識が暗黒に墜ちる直前、健介は鳥の羽音と犬の鳴き声を確かに聞いた。
ありがとうございました。