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吸血鬼ヘルン  作者: ねこむれひなた
吸血鬼の目覚め
35/45

雷剣エンシュラ

 都市の一角で、ミエトたちと二人の吸血鬼、シエイとラヴは睨み合っていた。

 「……お前たちは、我が主の敵か?」

 シエイがミエトたち兵士陣に呟く。 

 「我が主……? ヘリオスヴァンパイアのことか?」

 「ああ、そうだ」

 シエイの言葉にミエトが首を捻った。

 「敵に決まっているだろう。お前たちは人類の敵、吸血鬼。どこにお前らに味方する兵士がいる」

 あきれ気味に言うミエトに、シエイは「そうか」と一言。


 「──では、殺しは避けねばなるまいが、容赦する必要もないな」

 そう呟くと、シエイは意匠の異なった短剣を二振り、手に持ち構える。

 途端、シエイが疾風の如く突貫した。

 近くの兵士の顔面に肘を叩きつけ、足を短剣で斬りつける。さらに死なない程度に追撃を加え、あっという間に戦闘不能に追い込んだ。

 「ちっ、囲め!」

 熟練兵士が声をあげる。

 数の有利を活かした戦法は、いかなる状況でも有利なものだ。

 「ならば、埋めねばなるまいな」

 ぶしり、と自らの手首を浅く噛みきるシエイ。

 血が滴り、それを確認すると無表情のままに魔法を唱える。

 「“赤き単眼の蝙蝠(レッドバット)”」

 直後、地に落ちた分も含めてシエイから流れ出た血液が歪み、蝙蝠の群れへと姿を変えた。

 血のような赤い身体に、顔部分の中央に陣取る大きな一つの目。鋭い牙を持った口から奇怪な鳴き声を洩らし、シエイを囲む兵士たちへと襲いかかる。


 兵士一人につき蝙蝠五匹、シエイへの攻撃を阻害する。

 「ぐっ、ぬっ、ええい!」

 鬱陶しがり、乱雑に剣を振るうも蝙蝠はひらりとそれを交わした。

 そうして多くの兵士が気をとられるなか、シエイの前に立つ兵士は熟練兵士だけとなっていた。



 「ふっっ!」

 一方で、纏わりつく蝙蝠を一刀のもとに始末した人物がいた。

 ミエトである。

 彼が持つ片手剣に血がこびりつくが、まるで蒸発したかのように、煙となって消える。

 「──あら、面白いものを持っていますねぇ」

 背後から聞こえたその声に、ぞくり、と背筋に冷たいものが走った。

 慌てて後ろに小盾を掲げる。

 その数瞬後、ぐおん、とミエトを無色透明の衝撃波が襲った。

 「ぐっ……!」

 ミエトが後方に押し出され、変わりに女吸血鬼が笑顔でその場に陣取る。

 「……うふふ」

 狂気を飼っているような笑顔を貼り付け、女吸血鬼ラヴは真っ直ぐミエトを見据えた。

 「……不思議ですかぁ? この手袋、魔法道具(マジックアイテム)なんですよぉ」

 ラヴが、両の腕を覆う手袋を示して言う。

 マジックアイテムは、それだけで一つの魔法を秘めたものだが、使用者にそれ相応の魔力素養がなければ扱えない。

 「貴方の剣も、同じですよねぇ……。魔剣、というものですか」

 余裕を崩さないまま、ミエトが握る片手剣をラヴは指す。

 「ふん。魔剣かどうか知りたければ、身をもって確かめることだな」

 ミエトは強気に呟き、片手剣をラヴに向け柄を握り締めた。

 そして、あたかも片手剣に命令するかのように言葉を紡ぐ。

 「──応えよ」

 瞬間、ミエトの片手剣が雷を宿した。

 

 雷剣エンシュラ。

 ミエトが深きなる森を調査する際に手にいれた魔剣であり、前時代の遺物とされている。

 特性としては、その刃に雷を宿すこと。主の声によってその威力も形も変える変幻自在の雷は、並みの魔法により生み出される雷よりもずっと強力なものだ。


 「……へぇ」

 夜の闇を青白く照らす雷剣を深紅の瞳に映し、にへらとラヴが笑う。

 そして、片手の掌をミエトに向けた。

 ぐおん、と衝撃波が襲いかかる。

 「っ!」

 見えない衝撃波を勘だけで盾を使い防ぐが、やはり後方へと押し出された。加えて、盾をくくりつけた左手の痺れ。

 いかに盾が衝撃を受けるといっても、その威力は馬鹿にできない。

 続いて、ぐおん、ぐおん、ぐおん、と衝撃波が連発される。

 「ふふ……。その雷は恐いですが、近づけなければ意味をなしませんよ?」

 ラヴはミエトから一定の距離を保ったまま、衝撃波を放ち続けた。

 ミエトは距離を詰めるどころか、無色透明の衝撃波に対処しなければならない。 

 やはり、間合いではラヴに歩があった。

 「──喰らいつけ!」

 それをわかった上で、ミエトは雷剣に命令(・・)する。

 すると、雷剣エンシュラが纏う蒼雷が輝きを増し、二条の雷に別れ、蛇のようにラヴに迫るではないか。

 「……!」

 ラヴは即座にそれを危険と判断し、蛇を思わせる二条の雷を衝撃波の弾幕をもって相殺しようと試みた。

 しかし二匹の雷蛇は、幾重にも重ねられる無色透明の衝撃波を喰い破り、その勢いを劣らせぬままにラヴへと牙を剥く。 

 「くっ……!」

 初めてラヴが苦々しげな声を洩らし、迫る雷蛇から逃れるように後退した。

 かと思えば、その場で跳躍。空中で身体を回転させ、追いすがる二条の雷を紙一重で回避する。

 目標を失った二条の雷は、空気に溶けるようにして散っていった。

 「吸血鬼は女でも油断できない……ということか」

 「あらあら、女だからといってその考え方、いけませんよぉ?」

 着地したラヴはふふ、と不気味に笑う。

 ミエトも笑い返そうとするが、口元がひきつった。

 「……化け物め」

 ミエトがぼそりと呟いた。 



   ◆ ◆ ◆


 都市の一角で繰り広げられる攻防は、数が少ないにも関わらず、徐々に吸血鬼側が有利になっていた。 

 決して兵士たちが弱い訳ではない。むしろ彼らは精鋭と呼ぶに値する猛者たちだ。

 しかしそれにもまして、彼らの前の吸血鬼が強かった。それだけのことであった。

 

 「ぐっ……かっ……」

 熟練兵士が踞り、荒い息を立てる。それをシエイは無表情に見下ろしていた。

 二人の周りには、既に熟練兵士とミエト以外の兵士が地に伏している。時折痙攣していることから、死んでいないことはわかる。

 涙すら浮かべてシエイを睨む熟練兵士に、灰色の髪をした吸血鬼はため息を吐いた。

 「……不思議か? 思うように動かない自分の身体が」

 短剣を手の中で弄びながら、シエイは呟く。

 「な……に、を……」

 「毒だ。お前らの自由を奪う、麻痺毒。それが、俺の短剣には塗ってある」

 シエイはなんの感情を浮かべることなく、事実を言ってのけた。

 「卑、怯……者、め……」

 熟練兵士が息も絶え絶えに言葉を吐く。

 その言葉にシエイが初めて不思議そうに首を傾げた。

 「卑怯……? 多数で少数を囲んでおいて、なにを言う」

 「ぐ……」

 それ以上は言葉に出すのも苦しそうにする熟練兵士を、シエイはやはり無表情で見下ろして、そろそろ終わりにしようかと考える。

 殺してはならないと主に言われてはいるが、この男の意識は刈り取っていく必要があるだろう。危険性はなるべく排除するべきだ。

 

 しかしそこで、熟練兵士の瞳が自分とは別の方向に向いていることに気づく。

 熟練兵士の視線を追うと、青白い輝きと、ぐおんという不思議な音。

 ミエトとラヴが、未だ戦闘中なのだ。

 「ラヴめ……、なにを手間取っている……」

 シエイがそう呟き、ラヴとミエトに向かって歩き出す。

 と、その時、背後でかすかな物音が起こった。

 「待、て……」

 シエイが振り返ると、ふらふらになって剣を握る熟練兵士の姿。シエイが僅かに目を開く。

 「邪魔は……させ、ねぇ……。アイツ、の……、ミエトの……邪、魔だけ、は」

 息も絶え絶えだが、現に目の前の男は立ち上がった。よもや毒が回っていないということはないだろう。

 シエイが小さく舌打ちし、二振りの短剣を構える。

 「……馬鹿が」

 ぼそりと呟き、短剣を振りかぶった。



 

 「──喰らいつけッ!」

 「ふふっ」

 二条の雷がラヴを襲う。それを交わし、衝撃波を放った。 

 ミエトが盾で防ぐが、さらにもう一発。今度は吹っ飛んだ。

 こつり、こつり、とラヴの靴音を聞きながらも、ミエトは唇からの出血を拭って立ち上がる。

 盾を支える左手は、とうに内出血し、さらには感覚が薄らいできている。ともすれば、骨が折れるのも案外近いのかも知れない。

 しかし、それを知ってなおミエトはラヴを睨んだ。

 

 「……勝ち目は薄いでしょうに、なぜそこまで……」

 ラヴが眉を細めて呟く。

 しかしミエトは黙ったまま、雷剣の鋒をラヴに向けた。

 ならばもはや言葉も不要。ラヴもミエトに掌をかざす。

 「う、おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 雄叫びをあげ、ミエトが突き進む。

 雷剣エンシュラも主人の声に応じるかのように、その輝きをさらに増した。

 当然、黙って見ているラヴではない。衝撃波の弾幕を張って、ミエトを阻む。

 ミエトは盾を掲げての強行突破を試み、ぼきり、と腕の骨が折れた。

 「がっ……あっ!」

 だが、止まらない。

 「……!」

 「貫けェ!」

 雷剣がラヴに迫る。 

 それを避けるラヴだが、追うように四条の雷が襲いかかった。その内の一条の雷撃をラヴが浴びる。

 「くぅっ……!」

 苦しげに呻き、片手をミエトに突きだした。この距離ならば、ミエトは戦闘不能になるのを免れないだろう。

 ぐおん、と無色透明の衝撃波が走る。

 それを、ミエトが交わした。

 見えないはずの衝撃波を、確かに交わしたのだ。

 「……!?」

 ラヴが驚愕に目を見開く。

 ミエトが不敵に笑った。

 ラヴの衝撃波の弱点は、掌から直線上にしか放てないことだった。幾度となく喰らった衝撃波、ミエトは冷静にそれを分析していたのだ。

 そして、軌道を予測できれば、見えなくとも交わすことは加能であった。

 

 「ぐ、おおおお!!」

 好機は今しかない、ミエトはそう悟る。

 全身から苦痛が走るが、それを無視し刃を繰り出す。

 切り上げ。切り下げ。袈裟懸け。逆袈裟。刺突。

 刃は交わされようとも、剣が周囲に撒き散らす雷撃は確実にダメージ与えている。

 そして。

 「あっ!?」

 ラヴが決定的な隙を見せる。

 千載一遇の好機に、ミエトが雷剣を振り上げた。


 「……ゴボッ!?」

 しかし剣は降り下ろされることなく、変わりにミエトが口から血反吐を吐く。

 ふらりと崩れかかるミエトの瞳が、困惑に揺れた。

 使用魔力過多。

 雷剣エンシュラは、使い手に強力な力を与えるかわりに、使い手の魔力を喰らっていたのだ。

 当然それをラヴが見逃す訳もなく。

 崩れミエトを支えるようにして、腹に掌を添える。

 「……終わりです」

 ぐおん、という音と共に衝撃波が放たれた。

 またもや血を吐くミエト。

 しかし、血で濡れる口元は吊り上げられていた。

 「づ、がま、え……た、ぞ……」

 「ッ!?」

 がしりとラヴの腕を掴むミエトを、反射的に蹴り飛ばす。

 もはや呻きすら溢さず地面に転がるミエト。

 しかし尚、立ち上がる。


 「……なぜ、なぜ立ち上がれるのですか……。なぜ……」

 気を失う寸前といった様子で睨むミエトに、ラヴは恐怖すら滲ませて呟く。

 「……なぜ? 力、が……必要だからだ……」

 ミエトが静かに呟いた。

 「力が、いる。あらゆる、力が。権力も、金も……! あの子らを守るた──」

 しかし、力尽きたかのようにミエトが倒れた。彼の背後には、首筋に手刀を打ち込んだシエイの姿。

 やはり、シエイは足下で地に伏すミエトを無表情に見る。

 起き上がる気配がないことを確認すると、今度はラヴに歩み寄り「行くぞ」と一言。

 「……」

 ラヴは黙ったままシエイに頷く。

 

 シエイを前にして二人は歩き出す。

 ラヴからはシエイの表情が見えないが、恐らくはいつもの無表情だろう。

 しかし、シエイがラヴを見ないままに呟いた。

 「……あれは、お前の負けだ」


 「……ええ」

 ラヴが苦々しく返す。

 そうして、二人の吸血鬼は闇夜に消えていった。


  

 

 



 

なぜかミエトが主人公っぽくなっている……

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