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吸血鬼ヘルン  作者: ねこむれひなた
吸血鬼の目覚め
19/45

炎絶の大剣

 「ほれ、これが頼まれてたモンだ」

 ドワーフの鍛治師に両手剣のオーダーメイドを頼んでからおよそ半月。ヘルンはシエラと共にその鍛治師が営む武器屋に完成した両手剣を取りに来ていた。


 「ほぉ……、これが」

 自身の前に置かれた剣に、ヘルンが感嘆の声を洩らす。


 人の肩に届くほどの長さの剣だ。僅かに赤みを帯びる刀身の長さに比例して持ち手も長く、使いやすいように黒革が巻かれている。

 レリーフこそあれ、それも最小限。ヘルンの要望通り全体的に細身となっているが、そこから貧弱という言葉は到底感じられない。

 その堂々とした有り様は、細身と言えども大剣と呼べるほどだ。

 

 「持ってみろよ」

 鍛治師に言われるがまま、剣を手に取る。

 ずしり、と確かな重さがヘルンに伝わった。吸血鬼の筋力を利用しても、片手で持てば取り落としそうになるほどだ。

 この重量こそが、この剣の本領ということだろう。

 「素晴らしいな」

 言うヘルンに、「だろだろ」と頷く鍛治師。

 ヘルンに着いてきたシエラが、首を傾げた。


 「銘は……なんと言うんです?」

 「銘?」

 ヘルンがシエラの方を向いて聞く。

 「この刀身の輝きは、精霊金属(トリスティニ)の一種でしょう。それほどの材料で造られたのなら、銘をつけるのが通例だと思うのですが」

 シエラの言葉に鍛治師が反応する。

 「お、いい目を持ってんな嬢ちゃん。確かにこいつは重硬金属(アダマント)製だ。……が、残念ながら俺はネーミングセンスとやらがねぇ。だから銘はつけてなかったんだが……、お前がつけたいのなら構わんぜ。自分で考えてもらうことになるが」

 「ふむ……」

 鍛治師の言葉を聞き、しばし目の前にある剣の銘を考えてみる。しかし、浮かんでくるのはどれも魔族に関係があるものばかり。これでは駄目だ。

 そこで、ヘルンはシエラに視線を移した。

 「言い出したのはお前だ。なにか案を出せ」

 「……」

 シエラはヘルンを軽く睨んでおいてから、考えを巡らせた。一応、ヘルンが言ったことも正しい。

 「……炎絶の大剣(デュランダル)というのはどうでしょう」

 「……由来は?」

 自分の名前は目の前の娘の昔飼っていた犬の名である。それよりかはマシな名前だとしても、ヘルンはシエラにそう聞かざるを得なかった。

 「精霊金属には一つ一つに逸話があるのですが」


 シエラ曰く、はるか昔。

 ノームの一族の英雄が、燃え盛る炎を背負った亜巨人(トロール)を倒した時にその魔物の住み処から持ち帰った鉱物が、重硬金属(アダマント)であったと言う。

 トロールの住み処は背負っていた炎により焦土化していて、その中でただ一つ燃え尽きなかった物がアダマントらしい。

 その話の真偽のほどはわからないが、逸話の中でトロールの背負う炎に耐えてみせたように、他の金属よりもなお抜群に火に強いという特質がアダマントにはある。


 「その話なら俺も知ってるな。鍛治師の間じゃあ、有名な話だ」

 で、べらぼうに熱に強いから加工が大変なんだったよなぁと付け加えておいてから、鍛治師がヘルンを見た。

 「……まぁいいだろう」

 「ご期待に添えたようで、良かったです」

 どこか皮肉っぽく言うシエラに、ヘルンは「すまないな」と思い出したかのように呟く。

 鞘に納めた炎絶の大剣(デュランダル)をかつぎ上げ、鍛治師に残りの代金を払い、ヘルンとシエラは一旦宿に戻った。




   ◆ ◆ ◆


 その日の夜。何気なく、ヘルンが夜道を歩いていた時のことだ。

 「ちょっとそこのお兄さん」

 艶っぽい女の声がヘルンの後ろからかけられた。

 「なんだ」

 振り向いたヘルンの目に映ったのは、女にしては少し背の高めの美女だった。


 長く伸ばした朱色の艶髪を揺らし、扇情的な微笑みを浮かべながらヘルンに近づいてくる。夜目の効く彼の目には、美女の左の泣きぼくろまでを鮮明にとらえている。

 その美女の肉感的な姿は…………どこかで見たような。はて、誰であったか。

 考えている内にも美女の歩みはさらに進み、次第にはヘルンにしなだれかかるような状態になる。

 美女の豊かな胸元がヘルンの体でひしゃげた。

 ヘルンの耳元で、美女の唇が動く。


 「久しぶりねぇ。……太陽さん?」

 「……メアーゼか」

 ヘルンが美女を振りほどきながら言った。

 自分のことを、太陽さんなどと呼ぶのは彼にとって一人だけしか思い当たらない。

 「あら、やっぱりバレちゃったわね」

 くすりと笑いながら、美女メアーゼがヘルンを見る。


 メアーゼとは旧知の仲だ。

 と言ってもそれほど親密な関係でもない。昔、知り合った純魔(ウードゥー)の一族の女というだけだ。

 「なぜ魔族のお前がここに……。ああ、そういえばお前は姿を偽って度々国境を越えていたか」

 純魔の一族は魔族の中でも一番数が少なく、しかし他魔族を凌駕するほどの魔法技術と適正を持っている。

 特に目の前のメアーゼという女は幻惑魔法や変異魔法を好み、時には姿をまるまる変えて人の世界へと足を運んでいた。

 ヘルンのちゃちな変異魔法とは比べるべくもないが、そうまでしてメアーゼが人共の国に向かうのかはヘルンにもわからない。


 「街で見かけた時は驚いたわぁ。まさかアナタがねぇ。封印、永かったわねぇ」

 封印がどういう訳で解けたのかは、聞かれなかった。どうでもいいのか、もう知っているのか(・・・・・・・・・)はわからないが。

 間延びしたメアーゼの声にヘルンは苛つきを隠さない。

 「お前はここでなにをしている」

 「占いを、ね。結構評判なのよ?」

 そういうことを聞いたのではないが、ヘルンは突っ込まないでおいた。この女は昔から、話をはぐらかすのが巧い。

 「それで、占いをしてると色々耳に入ってくるのだけれど」

 メアーゼが呟くように言った。

 「警戒されてるみたいね? アナタ」

 「……」

 ふふ、とメアーゼが笑う。それに対してヘルンは苦い顔だ。

 メアーゼには恐らく自分の今の状況を察せられていることだろう。

 「それを私に伝えてどうする。なにを企んでいるのだ」

 「あらあら、失礼ね。ただの善意で言ってあげたのに」

 「お前ほど善意という言葉が似合わん女もそういないだろうな」

 苦虫を噛み潰したようにヘルンが言う。

 本当に、この女はなにを考えているのかわからない。

 「まぁ、いいわ。また今度占いに来てね」

 そう言うとヘルンの横を通り抜け、闇に消えていく。

 メアーゼが視界からいなくなると、ヘルンは大きくため息をついた。

 

 

 

 

武器設定ガバガバじゃないか!


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